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地球的なカタストロフにいかに対抗すべきか──『気候変動クライシス』

気候変動クライシス

気候変動クライシス

気候変動、特に地球温暖化は毎日のほほんと暮らしていると変化が実感しづらいものだ(今年はちょっと暑いかなあぐらいだろう)。実際問題変化はそうとう遅く、世界平均で10年あたり0.07℃、陸上では0.11℃程度の上昇である──といわれると「あ、そんなもんなの? じゃあ別に問題なくね?」と思ってしまうかもしれない。

それがね、実際には信じられないぐらいの大問題なんだよ、というのが本書の主張である。過去1世紀にわたって温度上昇速度は加速しているし、北極や南極の空気は他所よりも上昇速度が早いという話もある。海水の熱膨張などの理由により海面は100年前に比べて20センチ上昇したし、沈没する島も出てくるだろう。大変なのは確かだが、気候問題が難しいのは、じゃあ100年後にこのままだと何℃上がって、どの程度海面が上昇するんだ? という問いかけに正確な答えが出せないところにある。

本書はそうした気候科学をめぐる不確実性が「どうして発生しているのか」の整理をまず行い、不確実性により発生する諸問題に対しての経済学的な検討と、地球気候に対してジオエンジニアリングを用いた際の経済面での考察の二つに焦点を合わせていく。著者の一人であるマーティン・ワイツマンは現在ハーバード大学の経済学教授で、環境分野の大御所であり議論の流れは大まかには安心できるものだ。*1

気候変動を解決困難にしている4つの要因

気候変動が解決困難であるのには、主に4つの要因が関係している。

1つは、二酸化炭素の排出は局所的にはたいした問題にならないので「全惑星的なフリーライダー問題」が発生してしまうこと(中国とか)。2つ目は長期性で、長い時間をかけて最悪の事態に結びついていくのですぐに致命的な影響が出るわけではなく、対応がなかなか進まない原因になっている。3つ目は不可逆性で、溶けた氷河はすぐには戻らないし、待機中の過剰な二酸化炭素の3分の2以上は100年後もまだ大気中に残ってしまうというように、これも他の要因と相まって厄介な特性だ。

最後の4つ目は不確実性だ。気候科学はまだまだわかっていないこと、予測のつかないことが数多い。たとえば二酸化炭素濃度が倍増した際には、最終的な温度の上昇はおおよそ1.5℃〜4.5℃に収まると予想されているが、これもふわっとした「可能性が高い」ぐらいの予測で、具体的な数字に直すと66%ぐらいだとされている。つまり34%の確率でそれ以上/以下の数値になってしまう可能性があるのだ。

地球的なカタストロフとその対策

仮に「それ以上」の数値になってしまって、たとえば6℃も上がった日にゃあ環境がどうなるのか正確にはわからんが、とんでもないことになるのは確かだろう。

本書では6℃上がって地球が大変な目にあう(地球的なカタストロフと表現されている)確率は10%ぐらいだろうとしているが、これは地球的なカタストロフの発生リスクとしては高すぎる。これに対する著者らが提唱する対策は、二酸化炭素排出がもたらす将来コストを精確に算出し、主要な国家は排出する炭素量に応じて税を払う炭素税を導入することで排出制限を加えるべきだという真っ当な論がメインである。

どの程度を炭素税として徴収すべきか? という算出は、事が極端に不確実だからこそ困難ではあるものの、本書では不完全ながらもある程度答えを出してみせる。とはいえ、精確な被害の推計とかそれ以前の問題として『適正な炭素価格は、6℃なんかにまったく接近せずにすみ、いずれカタストロフが確実に起こるなどと決して思わずにすむだけの安心を与えてくれる価格だ。』という主張もしており、それはそれで利にかなっている(事態は不可逆なのだから、極端に安全な数値を見込むのも当然だ。)

ジオエンジニアリング

著者らは否定的だが、各種ジオエンジニアリングについても一通りの考察を加えていく。たとえば飛行機なり気球なりを飛ばし、人工粒子を地球の成層圏へとばらまくことで、試算によれば年額10億ドルから100億ドルで工業改善の水準にまで温度を引き下げることができるという。その効果を考えれば、安すぎるぐらいに安い。

それなら人類は好きに二酸化炭素を排出してもいいのかといえばそうはなるまい。まず二酸化炭素が減るわけではないのだから、温暖化以外の影響は残る(海洋の酸性化など)。仮に実行するにしても地球規模の施行となり、思いもがけぬ事態が起こった時のリスクも跳ね上がるだろう。各国の協調/協議も果てしなく面倒だし、何よりコストがかからないのでどこか一国が抜け駆けしてやってしまいかねない。

とまあ、いろいろと問題はあるものの、炭素税の導入にも多大なリスクがあるわけで、ジオエンジニアリングは今後温暖化がその脅威を増してくればくるほど実施が視野に入ってくるだろう。現時点ではどこかの国がジオエンジニアリングを行うという話はないし、技術的にも不可能だ。ただ、炭素の排出制限を行うよりも圧倒的に安いのは確かであり、「炭素税を導入するなんてよりよほどこっちの文やを追求する方が可能性がありそうだな」と著者の意図に反して思ってしまった。

おわりに。問題点とか

いくつかツッコミどころもあるが(炭素税のデメリットをほとんど書いてないとか)訳が山形浩生さんで、本書に存在する若干の問題点への指摘は的確に行われているのも安心。気候変動リスクの試算について、まず読んでおくべき一冊だろう。ちなみに本書、注が膨大でそこに書いてあることも重要なんだけど、電子書籍では読みづらいというかほとんど読むのが不可能なレベルなので(行ったり来たりするのがめちゃくちゃ面倒)、興味がある人はできれば紙をオススメする。

*1:訳者あとがきによるとワイツマンはワグナーが書いたものにコメントを行う形で執筆をしたという形らしいけど。