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超予測者になるために──『超予測力:不確実な時代の先を読む10カ条』

超予測力:不確実な時代の先を読む10カ条 (ハヤカワ・ノンフィクション)

超予測力:不確実な時代の先を読む10カ条 (ハヤカワ・ノンフィクション)

  • 作者: フィリップ・E・テトロック,ダン・ガードナー,土方奈美
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2016/10/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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「超予測力」という書名からは胡乱なものを感じてしまう(たぶん「超」がよくないのだろう)。それで、すぐには手が伸びなかったのだが、評判を聞いて読んでみればこれがきちんと「どのような手段で予測の精度を向上させる事ができるのか」や、「超予測力を用いることの効用」について語られている良書であった。

超予測力とはいったいなんなのか

さあ、そもそも「超予測力」とはいったいどこから出てきた言葉なのかだが、これは著者が行った一連の実験で、飛び抜けた予測精度の高さを保ち続けた一部の「超予測者」たちからきている。その実験が具体的にどういうものかといえば、まず著者らの実験グループは「世界の未来を予測してみたくはないか?」といって3200人のボランティアを集め、「イタリアは2011年12月31日までに債務再編あるいは債務不履行をするか」などのかなり具体的な質問に100以上答えてもらっている。

これは予測実施中ならいつでも変更可能で、途中で新事実が発覚したら予測者は自分の予測を変更しても良い(54%から62%へ、など)。結果に関わらず毎シーズン250ドル分のAmazonギフト券が配られるから、報酬面でのインセンティブは与えられていないにも関わらず、この実験で『先物契約を売買するトレーダーの予測市場に対しても、四〇%の差をつけて勝っている。』『しかも対照群の「群衆の叡智」に勝っただけでなく、六〇%以上の差をつけた。』という恐るべき超予測者達が誕生したのだ。

宝くじが売り出されれば、一等になる確率がどれだけ低かろうが「誰かは」一等をとるわけで、超予測者の誕生もたまたまなんじゃないの? と思うかもしれない。しかしそれは単年で比較した場合であり、複数回参加してもらい、「続けて驚異的に優れた結果を出す」ことが実証できれば、その可能性は除外できる。そうした人々は機密情報へのアクセスはなく、専門分野の学歴や研究者であるわけでもない。

つまり純粋に世間に存在する情報だけでその予測精度を叩き出したわけで、当然次なる問題は「一部の人達は、なぜそんなに予測精度が高いのか?」である。

なぜそんなに予測精度が高いのか?

なぜそんなに予測精度が高いのか? は本書の真骨頂にあたるから全部はバラせないが、まず重要なのは計算することだ。たとえば2015年1月21日から3月31日までの間で、フランス、イギリス、ドイツ、オランダ、デンマーク、スペイン、ポルトガル、イタリアでイスラム過激派によるテロは起こるか、という問いかけがなされた。

当時はイスラム過激派によるテロの情報が溢れかえっており、起こる方に賭けそうになるが(80%〜)、超予測者の一人デビッドは、まず過去5年で設問にあがった国々で何件の攻撃があったかを数え(6件)、その後ISによって状況が大きく変化したことから2010年以前のデータを排除し基準率を1.5と判断した。これに膨らみつつあるISの脅威と、テロ後セキュリティが大幅に強化されたことも勘案しながら最終的には年間のテロ予測件数を1.8と結論し、設問の残り期間である69日を365で割って、そこに基準率の1.8をかけ、答えは0.34(テロが起こる可能性は34%)としている。

これなんかはいうてもISの脅威とかセキュリティ強化の割合の計算は完全な憶測やんけと思うが、それでも何も客観的な数字を用いずに予測をするよりかはよほどマシだ。しかもデビッドはこれをフォーラムで公開し、広く他の人の意見・視点を取り入れようとしているのだ(つまり、絶対の予測ではなく自分でも叩き台だと認識している。)。本書ではこうした、自分の視点だけでなく客観的な指標や他者の意見を取り入れ比較検討する作業を延々と繰り返す視点のことを「トンボの目」と読んでいる。

 これこそまさに「トンボの目」である。そして言うまでもなく手間がかかる。超予測者は日ごろから頭の中で異なる視点を比較し、ふつうの人なら頭痛がしてくるほど延々とその作業を繰り返す。(……)「もう一度よく考えろ」という言葉は超予測者には必要ない。彼らは二度、三度考えるのが当たり前、それも本格的な分析のウォーミングアップに過ぎない。

ようは「客観的な数字」や「他人の視点/意見」を取り込み、主観とすり合わせながら延々と比較検討し続ける地道さが重要だという話だが、他に幾つも超予測者を超予測者たらしめる要素/手順がある。たとえば「質問を細かく分解する」「知りえる情報と知りえない情報を明確に選別する」「意見をころころ変える」「10%、20%ではなく数%刻みで正確に予測をする」「自分と他の人の見解を比較し、類似点と相違点を検討する」あたりの手順は、誰でもすぐに始められることだ。

著者が用意した予測のための10か条は、読むことで1年のトーナメントで予測の正確性を10%近く高める効果があったという。大した数字ではないように思うかもしれないが、大したコストもかからない中の成果なのでなかなかのものである。正確な予測をすることは個人にとっても重要だが、個人的には組織/チームのリーダーには少なくとも読んでいてもらいたいものだ(見当違いの予測を立て、明後日の方向へ走っていかれると部下はすべてが混乱する)。