基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

本を読んで変わる人生

人を動かす 文庫版

人を動かす 文庫版

大学生で暇で暇でしょうがなかった時、学内新聞をつくろうと思ったことがある。*1

立派な大学なら学内新聞の二つや三つあるだろうが(偏見かもしれない)三流の私大だったからそんなものはなかったし、僕は文章を書くのが好きだったから、できるだろうと適当にアイディアをまとめてつくってみることにしたのだ。

読書で人生が変わった経験がありますか?

ブログを始めたのは大学一年生の頃ですでに書く方については経験もあったから、(二年の頃つくろうとした)学内新聞には僕がいくつかの書評とコラムを書こうというのがまず決まった。第一号ではそれに加えて教授陣へのインタビューを実施することになった。その中の設問に、どういう理由で入れたのかよく覚えていないのだが「読書で人生が変わった経験がありますか?」という質問を入れていたのだ。

僕としてはそんなものは愚問というか、そこら辺の犬ならともかく大学で教鞭をとるような人間なのだから読書で人生の一つや二つ変えたことがあるだろうと思っていたのだが、意外と「本を読んだぐらいで人生が変わるわけがない」と答える人がいた。当時はそういうもんなのかと反感を覚えもしたけれど、ざっくりとした質問なので解釈次第でどんな答えが返ってきてもおかしくはなかったと今は思う。

極論をいえば、ただ息を吸って吐いているだけだろうが身体の組成は変更され何もしていなくともインスピレーションを受けたりもするものだから、"この世に人生を変えない事象などない"とさえも強弁できる。その逆もまた然りであろう(本を読んだ人生と読まなかった人生を比較して検証できるわけではない)。とはいえ僕としては本を読むことで人生は変わりえると主張しないわけにはいかない。

冬木糸一の読書遍歴、またいかにして本を読んで人生が変わったか

というよりかは、しこたま本を読んで/読みすぎてしまって、もはや本を読んで変わらなかった人生とは一体何なのかというのがわからなくなってしまっている。ドリトル先生やエルマーのぼうけんに心を踊らせ(話はさっぱり覚えていないが表紙のイラストと、彼らの物語が温かで愉快だったのは覚えている(過誤記憶かもしれない))、ファーブル昆虫記からはノンフィクションのおもしろさをしった。

司馬遼太郎作品に惚れ込んだ流れで宮城谷昌光や塩野七生の手による、過去の血なまぐさい時代の小説に没入し、指輪物語を読んでこの世にこんなにおもしろい物語があっていいのかと思い震えた。そうした一つ一つの出会いが、レールを切り替えたとまではいかずともハンマーで杭を打ち付けるように少しずつ生き方に変化を与え、最終的には逃れようがないぐらく今の人生に変革されてしまったように思う。

『人を動かす』に感銘を受ける嫌な小学生

とはいえ、明確に人生のレールが切り替わったと思った本との出会いもある。

一冊は、小学生の時に誕生日プレゼントに買ってもらったデール・カーネギーの『人を動かす』だ。なぜ小学生にして、自己啓発本をもらいたいと思ったのかわけがわからないのだが、この本との出会いは衝撃的だった。言わずと知れた本なので内容を紹介する必要があるとも思えないが、この本は人間関係について、とりわけ人を動かす方法についてデール・カーネギーが考察した一冊である。

この本の中には重要なことが書いてある。たとえば、誰もが褒められたがっているのに褒められる機会は少ない。だから、人に好かれ、動かしたければ人を褒めることだ。それも嘘をつくのではなく、心の底から相手の良いと思うところを誠実に。また、誰もが話したがっているのに聞いてもらえることは少ないから、あなたは聞き手に回るべきだ──などなど。で、僕は小学生にしてまったくその通りだと感銘を受け、以後人を本心から褒め、聞き役に回ることで相手をコントロールできることに気がついてしまった(嫌な小学生だな)。

今も僕は相手の良いところを探し、褒めるようにしている。逆に自分が褒められた場合は「この人間はこっちをコントロールしようとしているのではないか」と過剰な警戒を抱くようになった(それはどうなんだ)。ともあれ、そうした経験があったおかげで僕は"本を読むってのは使えるぞ!"とかなり早い段階で気がつくことができたのである。そういう意味でレールが変わった一冊といえるだろう。

膚の下

もう一冊は神林長平先生の『膚の下』という小説である。

神林作品の中でも代表作といえる火星三部作、その刊行順としては最後になる作品なのだが、僕はこれを読んで完全に頭がおかしくなってしまった。読んでいる最中に時間の経過が一切感じられなくなって、読み始めたときは朝だったのに、読み終えて外に目をやったらもう日が沈んでいた。そして、そのままいてもたってもいられなくなってブログ「基本読書」を立ち上げ、その興奮をそのまま書き付け更新し、移転し、10年後に至る現在までちまちまと更新し続けている。
plaza.rakuten.co.jp
今なお『膚の下』を読んだときの熱狂は自分の中に残っている。「基本読書」のおかげで、SFマガジンやHONZなど無数の媒体で文章を書くことにもなった。先日は機会があり神林先生に直接お会いして感謝を直接伝えることもできた。もし『膚の下』を読んでいなかったら──とたまに考える。文章はなんらかの切っ掛かけで書いていたのかもしれないが、今のような形では書いていなかったと思う。

あくまでも僕個人の話ではあるが、読書によって常に人生には微細な変化が加えられ、時として強烈な一撃によってレールが大きく切り替わってしまうことがあるのだ。きっと、みなそれぞれ自分の"レールが切り替わった体験談"があるだろう。

膚(はだえ)の下〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)

膚(はだえ)の下〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)

膚の下 (下)

膚の下 (下)

*1:※シミルボンに投稿した自己紹介コラムをブログ用に編集して記載しております。