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ファンにはたまらん一冊──『村上春樹 翻訳(ほとんど)全仕事』

村上春樹 翻訳(ほとんど)全仕事

村上春樹 翻訳(ほとんど)全仕事

これまで村上春樹さんが訳してきた本をひとつひとつ取り上げながら(概ね70冊ぐらいかな)、本人が簡単なコメントを残していくスタイルで構成された一冊である。

簡単なといっても多いものだと800文字、少なくてもだいたい400字ぐらいはあり、そのほとんどが当時の思い出話であったり、著者と交流した際の思い出話であったり書評のような文章でなかなかに読み応えがある。僕はけっこう春樹翻訳を読んできたと思うけれども、「おお、こんなのが出てたんだなあ」と意外な一冊もあったりして、こうやってまとまってくれると拾いこぼしを防げるので大変ありがたい。

村上春樹翻訳で記憶に強く残っているのはレイモンド・カーヴァー関連の本(の中でも個人的には大聖堂)、ティム・オブライエンの『本当の戦争の話をしよう』、サリンジャーだとキャッチャーよりかは『フラニーとズーイ』、レイモンド・チャンドラーなら『ロング・グッド・バイ』で、代表的なところが多いか*1。マーセル・セローの『極北』やダーグ・ソールスターの『Novel 11,Book 18』のような村上春樹さんが自分で"発見"しておもしろすぎて訳してしまった系のものは例外なくアタリだったので記憶に残っている。特に極北はよくぞ訳してくれたものだと感動したものだ。

あとは翻訳企画ではおなじみの、柴田元幸さんとの対談も載っている。失礼ながらこの二人しょっちゅう話しているイメージがあるので、新しい話題があるのかなと思っていたのだが、少なくとも僕は読んだことがない話が多くておもしろかった。

村上さんの翻訳を柴田さんがチェックしていた時の話が多いか。個人的におもしろかったのは、その柴田チェックを早川書房から出ている物にはしたことがなくて、理由は早川書房は翻訳慣れしているから、編集部内でチェックしてくれるのだという話。早川の翻訳編集の方が文章を一文一文原書と突き合わせてチェックをしているのは聞いたことがあって、その際に「海外翻訳の編集者って滅茶苦茶大変なんだな〜〜〜」と恐れ慄いていたから、普通はそんなにしないのかと驚いたのであった。

とまあ、そんな感じの本です。おもしろかった。

*1:フラニーとズーイはほんとよかったな。チャンドラーもちょっとびっくりするぐらいに村上春樹訳がよかった記憶がある。