基本読書

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読書によって夫婦の相互理解は深まるのだろうか?──『読書で離婚を考えた。』

読書で離婚を考えた。

読書で離婚を考えた。

円城塔、田辺青蛙の小説家夫婦が、課題本を出し合い交互にその本についてのエッセイを連載することによって、夫婦の相互理解につとめる──そんなコンセプトではじまったWeb連載が一冊にまとまったのが本書である。かたや理系で、わけのわからない抽象的な小説を書くと評判の円城塔さん、かたやホラー・怪談作家で読む本としては実話に近いものを好む傾向がある田辺青蛙さんと、書くものも読書傾向もさっぱり合わない二人だが、はたして読書で相互理解は進むのか!?

攻撃としての相互理解

……といえば、相互理解はなかなか進まない! そもそも本好きなんか数百冊読むような人たちが集まったところでお互いの趣味領域が一致することは稀である。

その上、確かにスタート時点ではコンセプトが「読書で夫婦間の相互理解を図ろう」となっているし、実際連載の中でもそのコンセプトは立ち戻るべき母艦として何度も繰り返されるのだが、二人の相手へのオススメ本を見る限り、その選定の基準はよくわからないことも多く、特に序盤は、"相手を驚かせてやろう"か、もしくは"相手への要望/意見を伝えよう"という方向に寄ってしまっている。

たとえば健康診断を受け医師から10キロ程痩せなさいと言われた夫に差し出すのが『板谷式つまみ食いダイエット』であったりする。それは相互理解を目的とした選書ではなく、ただの要望ではないか! その上、原稿のほとんどが本についてではなく自分と相手のことで占められている事も多い中、この連載は一応読書、書評リレーなのだから本の紹介を挟まなければいけないわけだが、こうまで実用一辺倒の本だと紹介も書きにくいというさらなるツラミまである。これではほとんど攻撃である。

とはいえ、相手が普段読まないものであったり、自分の相手に対する要望が上乗せされた本を読ませ、書評を書かせることによって意外な一面がみえてくるという側面もあるのかもしれないし、そうなると攻撃的選書もまた相互理解のための一手段といえなくもない。そして、そうした相互理解という名のもとに、ちくちくと、時にどすどすとお互いを攻撃しあうやりとりは、読んでいてやたらとおもしろくはある。

読書で離婚を考えた?

和気あいあい大いに結構であるが、やはりおもしろくあるためにはたとえ夫婦間であったとしても殺るか殺られるかの緊張感が欲しいものである。そういう意味では、狙ったかどうかはともかく、二人とも大したエンターテイナーだな、と感心してしまう。しかしそれで夫婦仲が悪くなってしまっては、あらゆる意味で本末転倒である。たとえば円城塔さんの連載回では、こんな不穏な一説が途中で挟まれることになる。

ただ、僕の中でこの連載が、「続けるごとにどんどん夫婦仲が悪くなっていく連載」と位置づけられつつあることは確かです。僕の分のエッセイが掲載された日は、明らかに妻の機嫌が悪い。
「読んだよ」と一文だけメッセージがきて、そのあと沈黙が続くとかですね。
どうせ自分は○○だから……と言いはじめるとかですね。

うーんこれはつらい。と、こんなところから書名である『読書で離婚を考えた。』に繋がってくるわけだけれども、これは少年ジャンプの主人公が途中でピンチに陥るようなもの。このあともつつがなく、仲睦まじく読書エッセイリレーは続くわけであって、つまり、特に心配する必要はない。だいたい、本書を読み終えた人がまず思うのは、「この人たち仲良すぎかよ!」という感想だろう。

ちなみに本書でざっくばらんに紹介されていく本を一部ご紹介すると、まず最初の本は吉村昭「羆嵐」、テリー・ビッスン「熊が火を発見する」でいきなり熊二連続。かと思えば大阪周辺のネタを集めた「VOWやもん!」、スティーヴン・キング「クージョ」、山田風太郎「〆の忍法帖」など各ジャンルをふらふらと蛇行し、最後はスタニスワフ・レム『ソラリス』、高見広春『バトルロワイヤル』で連載は〆られることになる。しかし、相互理解をコンセプトにした読書リレーで、最後の二冊がこのチョイスってのはなかなか凄いというか異常なものがあるなあ。

古いものから新しいもの、小説からレシピ本、折り紙本まで多種多様で、紹介もしっかりしていくので書評本的にも読み甲斐があるが、その合間合間に夫婦の初デートの話が挟まれたりして、これがまあ愉快。たとえば二人が最初のデートで食事にいった場所がサイゼリヤで、二度目が和民であったことが判明し、『今だから言えるけど、せっかく京都から出てきたのだから、全国チェーン店じゃなくって、東京じゃなきゃ行けない店に行きたかったです。』などと赤裸々に暴露されついつい笑ってしまう。

果たして夫婦は読書で相互理解に至ることができるのか? というか二人の人間が相互理解に至った状態とはどのようなものなのか? そもそも夫婦というものは相互理解をする必要があるものなのだろうか? と疑問が疑問を呼んでいく。夫婦の在り方なんかその夫婦ごとに様々だろうという大前提こそあれど、夫婦なんか理解できないぐらいがちょうどいいんじゃないのかな、むしろ理解できてしまったらお互いにつまらないのではないか──そんなことを感じさせる一冊であった。

おわりに

円城塔/田辺青蛙ファンはすでに買っているだろうが、それ以外にもほっこりしたい人、夫婦間での関係性について悩んでいる人、小説もノンフィクションもレシピ本も読みたい本好きの人などなどにはオススメである。