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無根拠なサイエンスノンフィクションを見分けるためのいくつかのやり方

科学的とはどういう意味か (幻冬舎新書)

科学的とはどういう意味か (幻冬舎新書)

今日は本当はとある一冊のサイエンスノンフィクションについて書こうと思っていたのだが、1000字ぐらい書きながら裏とりを続けているうちに「これはちょっと厳しいな……」という感じになってきてしまった。なのでそれは取りやめ、無根拠なサイエンスノンフィクションを見分けるためのいくつかのやり方について書こうと思う。

僕自身が常にこれから書いていくようなことをやっているわけではないし、僕が無根拠なサイエンスノンフィクションを全て見分けられているというつもりもない。基本的には心構えや、頭に入れておくといいかも、ぐらいの地道な話が多くなるだろう。

1.同分野の本を何冊も読む

この世には無根拠なサイエンスノンフィクションが溢れかえっていて、特に医療系の本だとその悪影響は大きい。誤った情報を信じて治療を続け、取り返しがつかない状態になってしまっては悔やんでも悔やみきれないだろう。だから、書評を書くような一部の人間だけでなく、誰であってもその正誤を判定できるにこしことはない。

とはいえある程度の知識がなければ「専門家の言っていることだから……」と頭から信じ込んでしまうのも仕方のないことだし、僕だってあまり読んだことのない分野の本を読む時は著者の言っていることがどこまで正確なのかわからなくて、いつも心細い気持ちがする。というわけで、無根拠なサイエンスノンフィクションを見分けるための最初のやり方は、「同分野の本を何冊も読む」ということになる。

地道すぎる! と思うかもしれないが、実際地道な話である。生物学、生態学、宇宙物理学、神経科学など、どのジャンルであっても、複数冊読むことで定説は何なのか、ある意見が異端なのかそうではないのかといったことが理解できるようになる。AとBが違うことを言っていると「何故なのか? どちらが正しいのか?」と考えるきっかけになり、研究の裏がとれなかったとしても多数決で判断できる局面も多い。

2.参照元の有無を調べる。

参照元の表記は重要だ。サイエンスノンフィクションは大抵、著者らの行った実験だけではなく他者が書いた論文、本への参照によって成り立っている。多くの数字が本の中には出てくるが、どのような人数、手法で行われた結果の数字なのかといったことまでは事細かく書かないことも多い。故に、少なくとも興味を持った人が参照し、検証できるようにしておくのは基本である(と僕は思っている)。

きちんとしたサイエンスノンフィクションにはこの表記が巻末(かもしくは章の終わり)に載っていて、僕も別にすべてのリンクを辿るわけではないが、本文中での説明が足りなかったり、数字におかしなところがあると場合にはいくつかピックアップして検索して実際に読んでみることも多い。また、時として参照先がまったく載っていない本もある。それで即根拠のないサイエンスノンフィクションということになるわけではないが、これはその本の正当性を怪しみ始めるきっかけとなる。

3.ちゃんとした実験、統計での調査が行われているのかを判断する

さあ、参照元が表記されており、さらには書籍内で詳しく実験や研究がどのように進められたのかが書いてあったとしよう。それだけで安心とはいえない。何しろ統計とは難しく、悪気がなくとも間違えるケースも多いからである。検定力が不足しているのではないか? 因果関係を取り違えていないか? 望む結果が引き出せるまで何度も実験を繰り返していないか? など、いくらでも誤った結果が引き出されている可能性があるので、統計や実験の誤りについての知識があるにこしたことはない。

ダメな統計学: 悲惨なほど完全なる手引書

ダメな統計学: 悲惨なほど完全なる手引書

統計学については『ダメな統計学』がオススメ。

4.著者の経歴を調べる

これはかなり当たり前の話だが、著者の経歴を調べるのも有効だ。たとえば著者は書かれている内容に関して、きちんとした専門家(研究者)なのだろうか? それとも取材して書いているサイエンスライターなのか? サイエンスライターだとして、実績はどの程度あるのか? これまで書いてきた本はなんなのか?

その辺がまず基本だが、著者の立場も重要だ。たとえばベジタリアンの著者が書いた肉食批判本であれば、内容は事実が肉食主義者を攻撃するために一面的に都合の良い情報ばかりを取り上げていないか? と考え始めるきっかけになる。食肉関係者が書いた本であれば、肉食を不要に擁護し菜食主義者を強烈に批判する内容になっているかもしれない。どちらにせよ、自分が属する業界、立場の不利になる発言はしづらいと考えるのが自然であり、公正な場合もあるが、怪しみながら読むべきだろう。

5.読者を騙すテクニックを使っていないかを判断する。

巧妙なライターであれば、間違ったことは言わないようにして読者に都合の良い情報を誤認させることも容易である。たとえば「衝撃的な調査結果(例をつくると、りんごを1日1個食べると心臓疾患による死亡率が30パーセント上がるとか)」が「載っている記事があった」とだけ書くと、内容の真偽はともかく「あった」のは事実であり、嘘はいわずに読者に対してはりんごに悪影響があると誤認させることができる。

こうしたテクニックは無数にありすぎて、こういう風に気をつけろ、ということはできないんだけれども、まあたくさん読んでいるとだいたい手管もわかってきてそうそう騙されなくなってくるし、こうした騙しのテクニックを使う著者はその時点で信頼できない、とある種のわかりやすい判断材料にもなる。1.と同じくたくさん読むのはひとつの手だが、『詭弁論理学』あたりを読むのもいいだろう。

詭弁論理学 改版 (中公新書 448)

詭弁論理学 改版 (中公新書 448)

6.翻訳本の場合は、原題でreviewを検索する

読んでいると、上述の理由であったり、数値に違和感があったり、実験手法がどこがどうおかしいとは指摘できなくても怪しかったりで「なんか変だなあ」と思うことがある。そういう時、翻訳本でオススメしたいのは原題+reviewで検索して、いくつか書評を読み漁ることだ。僕は一サイトではなく、存在する限り二サイトでも三サイトでも調べてみることが多い。基本的に批判的な意見を書かないメディアもあるし、できれば専門性の高いサイトの方が当然信頼性は高いので、読み比べてみる。

そうするとけっこうちゃんとした批判が出てきたりする。その批判があっているのか、といった検証は必要だが、より専門的な観点からの問題点の指摘が読めることもあり、何度も助けられたことがある(根拠のあやふやな本を紹介せずに済んだり)。

7.数字の怪しい研究が出てきたら、類似の論文を調べる

6に近いが、数字の怪しい研究が出てきたら、同様の主題を扱った論文をいくつかピックアップして調べるのも重要な手だ。基本的に英語で調べることになるが、最近はGoogle翻訳の精度もいいし、ブラウザに入れられる便利な辞書アプリもいくらでもあるから、英語がめちゃくちゃ苦手でもいくらかは内容を把握できるだろう。

おわりに

と、思いつく順に書いていったが、1ができるのが一番いいのかな、とは思う。一冊だけでそのジャンルを知り尽くした気にならないで、何冊も読んで同一の箇所と差異のある場所をきちんと認識していく。その上でなお、「これもまた間違っているかもしれない」と認識しながら読み続けていくしかない。何にせよ地道な話である。