- 作者: アンドリューキーン,Andrew Keen,中島由華
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2017/08/24
- メディア: 単行本
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というわけで本書『インターネットは自由を奪う――〈無料〉という落とし穴』(原題「THE INTERNET IS NOT THE ANSER」)は、そうしたインターネットの暗黒面について書かれた一冊である。共有経済だなんだ、これからはフリーだなんだ、3DプリンタによるMAKERS革命だなんだ、インターネット業界は御大層なことを述べてきたし、たしかにその多くは革命的な事象ではあるが、だいたい全部ヤベーマイナスの事象がくっついてきたじゃないかと指摘する。それは確かにその通りである。
著者のアンドリュー・キーンは口が悪く、インターネットがすべての悪を生み出しているんだといわんばかりにその問題点をズラズラと並べ立てていくので「インターネットを捨てろ」論者かと一瞬身構えてしまうかもしれない。ところが、彼自身かつてシリコンバレーで起業し、今も技術の先端にいるこの世界にどっぷりな男である。それもあって、過激な発言の数々も、インターネットが多くの利益を産むことを認めつつ、最初から立場が決まっているディベートのように意見を構築しているように読める(解説者の言を借りれば、「著者はあえてプロレスをしかけている」)。
実際何を言っているのか?
さて、では語られているインターネットの暗黒面とは何なのかだが、ここについては真新しい意見という程のものはない。インターネットのような、ただちに世界中を独占できるような世界では、市場を支配するオンライン企業は少なくなる、それによって、Google、Facebook、Amazonのような一社支配の傾向が強くなり、集権化された勝者総取り経済が生まれてしまう。アメリカではAmazonが生まれた1990年代半ばの時点で、書店の実店舗が4000軒あったのが、2014年では半減してしまった。
IT産業は他の製造業や実店舗持ちの小売業と違って雇用量が桁違いに少なく、雇用者の数も激減していく。InstagramやFacebookでは「ブランディング競争」が行われ、人々は繋がって幸福になるかと思いきや、ミシガン大学の心理学者による研究では、我々はFacebookを利用すればするほど悲しい気持ちになるという。インターネット上では海賊行為が横行し、アメリカ合衆国労働統計局の報告書によればプロとして活動しているミュージシャンは2002年から20012年に45パーセント減少した。
ネットにはデマが溢れかえり、DeNA騒動が記憶に新しいところだが、特に医療情報ではその問題が大きい(Wikipediaに投稿されている医療関連項目の90パーセントに間違いがある)。その上、『ネット上には、性格に難があって、説明責任を負えるほどの専門知識を持っていない、とげとげしい若い男性があまりにも多いのである。』
真理省がふたたび動きはじめた。シリコンヴァレーでは何もかもが、いままで主張されてきたこととは正反対のありさまだ。共有経済は、じつは利己的経済である。ソーシャルメディアは反社会的である。文化の民主化の「ロングテール」は長いお話である。「無料」のコンテンツは驚くほど高くつく。そしてインターネットの成功は大失敗なのだ。
というあたりは本書で語られていくインターネットへの警鐘のほんの一部分だが、やたらとリズミカルに巧みな比喩やたとえ話を繰り出し、文学作品などを豊富に引用しながらディスるので内容はともかく(いやいや、そんなに悪いことばかりでもないでしょと擁護したくもなるが)やたらとおもしろい。実際、税、雇用、実質的な独占、海賊版と各所で議論の追いついていない問題があるのは確かである。
おわりに
いろいろ書いてきたけれども、こうした問題にどうやって対抗すればいいのか──まずは政府による規制だろう、というのが著者の立場である。フランスは反Amazon法を制定して値下げした書籍の送料の無料化を禁止したし、トマ・ピケティはマーク・ザッカーバーグやラリー・ペイジのような大富豪を対象にしたグローバル税の導入を要求した。国をまたいで活躍するばかりに法人税や消費税をどこに納めるのかが曖昧になり、場合によっては不当に逃れてきた分をこれからは取り戻す必要がある。
難しいのは海賊行為で、ちょっと探せば目的の漫画や音楽やゲームが無料で落とせてしまう状況は狂っているとしかいいようがないが、本書ではそれに対抗するのも不可能ではないという。たとえば複数のレコードレーベルとインターネットプロバイダーが結託して、オンライン海賊行為を撲滅するためのシステム(six strikes systemとよばれるもの)を作ったりもしているというが、実態としてはまったく無意味で機能していないとする報告もある(本書の刊行は2014年だから情報がちと古いようだ)。
www.theverge.com
とはいえ『インターネットの大失敗はいま、まさに進行中だが、最終段階にあるとはかぎらない。だが改善のため、インターネットはただちに成熟し、自らの行動に責任をとらなければならない。』というように、何もせずに手をこまねいていていいわけでもない。著者はもう一つの提言としてデジタル界の新興エリートが説明責任を負うこと、ともいっているがそのあたりは読んで確かめてもらいたいところだ。
個人的にはこの件については政府による規制は必須だろうとおもっていたけれども、解説の水野祐さんはまた別の立場(私人ひとりひとりから始めるボトムアップ型の新しい社会契約論)であると述べていて、そっちも読んでみたくなった(『法のデザイン──創造性とイノベーションは法によって加速する』で論じているらしい)。
- 作者: 水野祐
- 出版社/メーカー: フィルムアート社
- 発売日: 2017/02/24
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