- 作者: 平鳥コウ,shimano
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2017/12/06
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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この題材で書くと、普通一発ネタというか、色物作品以外の何物にもならないと思うのだけど、これが意外なほど真っ当におもしろい。何しろ冒頭からして飛ばしており『あたしがこっちの世界に来てまずいちばんウケたのが避妊具が草ってことで、「やべ、草生える」って爆笑したら、「生えませんよ」とマダムは真顔で言った。』この時点で「この作品はヤバイわ」と思いながら読み進めると、既存の異世界物へのメタ的な視点・ツッコミもおもしろいし、単純に娼婦物としての描写がおもしろいし(がんばって仕事をして、厄介な客と対峙して、時々お気に入りの客だったり成長していく客と出会う楽しさもある)、それでいて後半になると幾つもの驚きが待ち受けているという「ちょっといろんな意味でウマすぎでは──」と驚かされる一冊である。
もともと小説家になろう(18禁版)の投稿作で、今も消されていないので興味が湧いた人はまず軽くWeb上で読んでもらいたいものだ。サンプルとして読めるものもあるので、この記事では軽く内容を紹介していくにとどめるとしよう。
novel18.syosetu.com
簡単なあらすじとか読みどころとか
簡単なあらすじを紹介していくが、基本的にはトラックに轢かれて死んだ後異世界に転生したJK小山ハルが春を売りながらなんとか異世界でがんばっていきましょうという話である。転生した直後、生きるため、金を稼ぐためにも『夜想の青猫亭』で採用されたハルは、わりとすぐに娼婦としての生活に慣れてしまい、一緒に死んで転生してきて冒険者になった千葉にも時々買われながら店のトップへと上り詰めていく。
この千葉がまたいいキャラで、いわゆるアニオタで転生物の知識も豊富であり、「異世界転生者テンプレートを詰め込まれたマン」として存分に気持ち悪く振る舞っていく。"気持ち悪い"というのは、その千葉を見ている視点はアニメなどほとんどみないJKのハルなのであって、その視点からすると転生時に神様から重要なスキルをもらう際に小粋なやりとりを繰り広げる、美少女ハーレムを築いたり奴隷やメイドを家に置こうとするなどという異世界転生あるあるシーンなども、当たり前だがみていて引いてしまうのだ(普通一緒に転生した同級生なんかメインヒロイン筆頭だしね)。
『だけど千葉が妙にテンション高くて初対面の神様とも仲良く漫才してたから、あたしはその寒いノリを引き気味で聞いていただけだったのだ。』というように、千葉を中心とした、「異世界転生物」に対してのツッコミ/異世界転生物で、あまり描かれない視点からの描写は、本書の読みどころのひとつだ。
「何の商売やるにしても、ギルド制だから企業秘密なんてあったもんじゃないしね。結局、自分に合った仕事見つけて手に色つけるしかないのがこっちの労働市場なんだ。俺はチートスキルがあるから、このまま普通に冒険者やってても天下を取れる。ハルは何のスキルもないから、嫌々この仕事してるんでしょ? もしも辞めたいんだったら、誰かを頼りにするしかないんじゃないかなー」
何か言いたげにあたしのおっぱいを見る千葉を無視して、あたしはシャワー浴びに行く。
なんだよ。
スキルだの無双だのって。
くだらね。
お仕事物としての側面
説明が遅れたが、けっこうたくさんお仕事の描写もあるので、そういう(セックスシーンとか、レイプとか)のが苦手な人にはあまりオススメはしない。とはいえ、特に気にしなければこれがめっぽうおもしろい。『「俺といるときは、仕事じゃなくて本当のエッチしていいよ」』という気持ち悪い男(千葉だが)がいたり、完全に演技で感じているフリをしながら客をズブズブ落とし込んだり、童貞を優しく導いてあげたり、評価され、だんだんと自分の賃金が上がっていったり──モンスターと戦うシーンなんてないが、ここにはたしかに"異世界での戦い"が描かれている(獣姦はない)。
おわりに
で、「異世界転生物を別視点から描き出したり、娼婦としてがんばっていってこのあともがんばって生きていくぞエンドなのかな……」と思いながら読んでいたのだけど、終盤になって"なぜ娼婦になったのか"への別側面からの解答や、伏線回収によって「そ、そんなオチになるとは……」と驚愕する方向へと舵をきり、見事におとしてみせる。だがトンデモというわけでなく、このオチでまた評価を一段階あげた感じ。
最初の方で「ちょっといろんな意味でウマすぎでは」と書いたのは、この題材を選んだのもそうだし、異世界物の一般的テンプレートにツッコミを入れながら進めるというフォーマットを選んだのもそうだし、それだけで終わらせなかったというのも「色んな意味で」の中に含まれている。エロに抵抗がなくて、異世界転生物をちょっと・たくさん読んだことがある人というのが一番楽しめるのではないだろうか。
あと記事のタイトルに使った台詞は僕が勝手に作ったんじゃなくて実際に作中で使われるもの。実は終盤のものなので、この記事では特に引用はせず。道中かなりきついシーンもあるのだが、そこまで読むと、エロいけど爽やかな気持ちになるだろう。