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日本合衆国の軍パイロットとして、メカを駆ってナチスをぶっ飛ばす!──『メカ・サムライ・エンパイア』

メカ・サムライ・エンパイア 上 (ハヤカワ文庫SF)

メカ・サムライ・エンパイア 上 (ハヤカワ文庫SF)

メカ・サムライ・エンパイア 下 (ハヤカワ文庫SF)

メカ・サムライ・エンパイア 下 (ハヤカワ文庫SF)

第二次世界大戦で枢軸側が勝利し、日本合衆国が爆誕。しかも日本合衆国はメカと呼ばれる巨大ロボ部隊を生み出しており──と滅茶苦茶キャッチーなあらすじと表紙で2016年の話題をかっさらっていった『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』の続篇がこの『メカ・サムライ・エンパイア』である! 珍しいことに、英語版の発売に先駆けてこの翻訳・日本語版がでているので、気合の入りようが違う。

それにしても、ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパンという書名も一目でこれはヤベーとビビるほどのインパクトがあるが、メカ・サムライ・エンパイアまでいくともう何がなんだかわからんが凄い。とにかくお前たちが好きそうなものを3つ並べてやったぞ感があり、巨人・大鵬・卵焼きみたいだ(このネタ、今は通じないかもしれない。子供など、大衆に人気のものをただ3つ並べた、昭和の流行語である)。

メカ・バトル・学園

さて、続篇とはいえ物語の主軸は新しい登場人物達で、話としては完全に独立(前作キャラクタやその子どもが何人も出てくるので、シリーズ・ファンとしても嬉しい)しているので、ここから読み始めても安全・安心。また、前作は「ロボが表紙なのにほとんどロボ・バトルがない!」という、一部のファン層からすると肩透かし感を感じさせる面もあるにはあったが、今作についてはそうした心配は一切無用である。

なにしろ、本作はもう最初からメカ、バトル、学園、メカ、バトル、学園、メカ、バトル、学園、といった感じで「お前ら日本人はこれが好きなんだろ!」とばかりに学園物とメカ・バトル要素をこれでもかと投入してくる上、前作の魅力的なポイントもきっちりと引き継がれ・発展させており、抜群に優れた第二作目だと感じる。

ざっとしたあらすじ

というわけでざっとあらすじを紹介してみよう。物語の舞台となるのは、1948年の7月にサンノゼへと原爆が投下され、アメリカが日本に降伏し第二次世界大戦が終了した世界。それをきっかけとしてアメリカは日本合衆国となり、アメリカ国民は天皇を崇めるよう強制され、同時に日本名を名乗ることを義務付けられるようになる。

『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』は、1988年を舞台にして、検閲局に勤める石村紅功、また特別高等警察の槻野昭子がひょんなことからタッグを組み、アメリカ人抵抗組織に協力しているらしい、『アメリカ合衆国』という反体制的なシミュレーションゲームの開発者を追うのだが、そこでいろいろときな臭い話が出て来ることになる。一方本作『メカ・サムライ・エンパイア』の主人公不二本誠は、両親共にメカ関係の軍人であり、不幸にも二人をテロで亡くしてしまったのち、大きくなったらメカパイロットになって皇国を守ると誓った生粋のメカ・パイロット志願者だ。

著者がゲーマー&ゲーム業界人であることも関係してか、前作でもゲームは重要なモチーフとなったが、今回もそれは変わらない。不二本誠もまた、ゲームでメカ・シュミレーションを繰り返す生粋のゲーマーであり、作中幾度も他のゲーマー・パイロット達とゲーム談義が繰り広げられることになる。不二本誠はゲームで鍛えた腕をひっさげ、士官学校への入試に挑戦するが悪意ある妨害によって落第。意気消沈するものの、その実力を見出され民間の警備用メカパイロット訓練生へ推薦を受け、正規ルートでこそないものの、皇国のメカ・パイロットへの道を歩き始めることになる。

この世界をより深く掘っていく。

そうして不二本誠は訓練生としての生活をはじめるのだが、何しろ始めたばっかりで巨大なロボットを操ろうというのだからなかなかうまくいかない。そもそも操縦者自身が操らなければならないので、格闘戦においての間合い、技術、模擬戦など、いわゆる「修行パート」に相当する展開が続くわけだけれども、これがまたおもしろい。

「きみたちにはまだ構えを最適化する余地がある。人間のつもりでいてはだめだ。乗機の重量配分を研究して、より早く動ける方法を研究しろ。それぞれの戦法にあわせた膝や肘の最適な位置をみつけるんだ。地形や使う武器しだいでは、逆運動学装置の調整が鍵をにぎる。千分の一秒の差が戦いの流れを一変させる」

たとえばこうしてメカがどうやって機動し、操縦者にはどのような苦難がふりかかるのかといったディティールが掘り下げられ、同時に日本合衆国とドイツの一瞬即発な情勢下で、ドイツからアメリカ東海岸へと留学しており誠と良い仲になっていくグリゼルダとの関係性は、この政治的緊張化にある世界の姿をよく描き出していく。*1

「ドイツは同盟国です」と誠は語るが、多数派の認識は『名ばかりだ。攻撃の機会を狙っている。手を出してこないのは、こちらのメカにかなわないからだ。そこで色仕掛けで皇国にそむくやつを探している。おまえのようなやつをな。』というもので、グリゼルダを信じたかったとしても、二人の仲は安泰とはいえない状況だ。こうした国際間の微妙な緊張関係周りの書き込みが、ぐっと増えたのも個人的には嬉しい。

陸軍士官学校(BEAM)へと入学が許可され、物語が学園パートに移ってからは、授業や演説を通して前作ではわからなかったこの世界の背景が描写されていくのもまたおもしろい。最初期のメカは天皇陛下を象徴する像としての意味が強かったが、怖気づいたアメリカ人とカナダ人は本物の巨人が歩いていると思い込み、日本軍に開発続行を決意させたなど。それに加えて、変人揃いだが腕のある学園の友人たちとの生活、トーナメント形式のメカバトルで勝ち続けた最上位メンバーは五虎と呼ばれ、実力の証明になるなど、学園・ロボバトル物としては燃えずにはいられない展開が続く。

多種多様なメカたち

前作とはうってかわって、人型にとどまらず大量に新メカが投入されるのもたまらない。ロシアの地形と気候に適合した冬期仕様のニホンザル級メカ。蟹メカ。数十年に渡る遺伝子操作によって腫瘍から作り出された怪物である、ドイツの兵器バイオメカ。犬猫の精神モデルに、四脚メカを操縦させる実験。極めつけは敵バイオメガに対抗するため作られた、それぞれ固有の名と装備を持ったリバイアサン級メカだ!

やっぱ人型ロボットっていえば量産型もいいけど一点物のオリジナルな機体もないとねー! とテンション爆上がりしつつ、誠とグリゼルダの緊迫する政治状況下で進展する危うい恋模様であったり、オリジナル・メカ達の無数の日本のロボットゲーム・アニメを彷彿とさせる装備や性能だったりに興奮していると、あっという間に最後まで読み切ってしまっている。バイオメガの操作方法、終盤の「そんなんありかい」「そこまでやるんかい」な展開など、人型ロボット物・ファンとしてはたまらない演出・設定がてんこ盛りなので、ぜひ読んで確かめてみてもらいたい所だ。

おわりに

続篇も構想中のようなので、この主人公たちが続投するのか(かなりきっちりケリがついているので、なさそうだけど)、はたまたまったく別の人々・時代を中心に展開するのか……今からすでに楽しみで仕方がない。※追記 また著者からコメントがあり、続篇は全部新キャラで、数年後を舞台にまったく別のお話が展開するそうです。『Thank you for this incredible review with so much insight! Very great to read! Also the next book will be all new characters with different story set a few years forward 😃😃』*2

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 上 (ハヤカワ文庫SF)

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 上 (ハヤカワ文庫SF)

*1:ちなみにピーター・トライアスさんは感想をつぶやくとスーパー・エゴサーチによってツイッタでお礼を言ってくれる凄い人で、今回もツイッタで呟いていたら今作の狙いを語ってくれてありがたかった。『Yay glad you find it interesting! I really want to develop the world and explore much more about it this time and explore the cultural intersection 😃 also much more Mecha!』https://twitter.com/TieryasXu/status/987141158097715200

*2:https://twitter.com/TieryasXu/status/987533452340678657