基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

初心者向けのオススメSF記事を書きました&補足アフタートーク

今日「それどこ」に初心者向けのSFについて寄稿したので、こちらではその補足というかアフタートークでも。そもそも「初心者向けのSF」ってなんやねんという話でもしながら、取り上げられなかった/取り上げたかった本の話でもしようかと。
srdk.rakuten.jp
取り上げた本は五冊あるが(リンク先参照)「これこそが初心者向けのSFだオラーテメーらに教えてやるぜー!」的なノリでいくと普通に荒れるので、今回は「僕はこういうSFを読んでSFの沼にズブズブハマっていきましたよ」と逃げの入った選定となった。記事の対象読者としてはSFこれまで意識しては一冊も読んだことないな〜という人たちで、短篇集は一冊入れてー恋愛ものも(打ち合わせの時に要望があったので)入れてー雪風は(自分がそれをきっかけに読み始めたので)入れてー、あとはハードSFも一つは入れてー、そりゃ飛浩隆は入れるでしょーという感じで決めた。

あとは伊藤計劃もなーディストピア物も入れたかったなーとウンウンと唸ったが、無限に紹介できるわけでもないし、紹介しすぎてもわけがわからなくなるからいいでしょう。本当は小川一水『天冥の標』は入れようと思っていたが打ち合わせで大長篇は初心者には厳しいのでは……というもっともな意見をもらいやめたりもした。

天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)

自分の好きな物を読め

初心者といっても人類はたくさんいる。誰にも楽しめる作品なんかないので、基本的には初心者だろうがなんだろうが自分が好きなものを読めばいいのだ。別にいきなりグレッグ・イーガンでもいいし。なので、本当に自由に選ぶのであれば対象読者が「何が好きか」というのを取っ掛かりにオススメするのが本当はいいのだろう。

ロボット物とか

というわけで、ロボット物、もしくは警察物が好きなら警察☓ロボット『機龍警察』でしょう。アニメ脚本家だった月村了衛氏によるデビュー作で、シリーズの巻が増す毎により複雑化する社会情勢、龍機兵と呼ばれる機甲兵装のバトルは密度を増し、どの巻もむせ返るようなジレンマに満ちあふれている。他、シルヴァン・ヌーヴェル『巨神計画』は太古の昔から地球に残された謎の巨大ロボットのパーツを発見した人類がその謎を追ううちに地球に迫る脅威へと気がついていく傑作。ピーター・トライアス『メカ・サムライ・エンパイア』はアメリカを日本が統治下においた架空史で紡がれる迫力のロボットバトル&学園物の傑作でどれも違った魅力に溢れている。

近接ジャンルとしてのアンドロイド物ならまー『BEATLESS』でしょう。長谷敏司という一種の異常者がこれでもかと作り上げた未来世界を堪能したらSFにはまり込むというか正気度が減るかもしれない。

BEATLESS 上 (角川文庫)

BEATLESS 上 (角川文庫)

イーガンとか藤井太洋とか

イーガンはわりとハードルが高いと捉えられがちだけれども、実際にはほとんどの作品は誰でも普通に読めるので短篇集『しあわせの理由』や『順列都市』でイーガンが作り出す筋の通った超理論を楽しんだりできるはず。日本だと藤井太洋『オービタル・クラウド』は恐ろしく間口の広いスペース・テロ小説で圧巻。リアルなWebプログラマやエンジニアが出てくるのでプログラマにはオススメしたかった。

オービタル・クラウド 上 (ハヤカワ文庫JA)

オービタル・クラウド 上 (ハヤカワ文庫JA)

あとはもう少し広げていくなら、野尻抱介作品どれでも(《ロケットガール》シリーズが一番好きかなあ)、谷甲州《航空宇宙軍史》シリーズをキャラ物が好きか技術者小説としての側面が好きかといったところで延々と分岐させていく感じ。翻訳ものだと好みはだいぶ古いもの(クラーク作品全般やロバート・L・フォワード『竜の卵』)に寄ってしまうけど最近ならピーター・ワッツ『ブラインドサイト』かナー。

ディストピアやらゾンビやらポストアポカリプスやら

ディストピア小説については入れていたとしたらまあ伊藤計劃『ハーモニー』だろう。映画化前ぐらいだったか、「これまでSFって読んだことなかったんですけど伊藤計劃作品を読んでSFのおもしろさを知りました〜」という人に幾人も出会い(僕が知らない人と会わないので4〜5人だけど)、ハー伊藤計劃ってスゲーんだなーと実感した思い出がある。そういう意味では今回の選定に入れておけばよかったかなあ。

ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

『虐殺器官』も『ハーモニー』も戦場から医療まで所狭しといろんなテクノロジーが出現していて、その一つ一つが「いま・ここ」から地続きに感じられる息詰まる世界観だという点も(SF読んだことなくてもおもしろいのに)関係しているかも。あと(あんまり関係ないけど)ディストピア繋がりとしては、ゾンビ物の『パンドラの少女』も文明崩壊後の世界でゾンビ(じゃないんだけど)が蔓延しその理屈を解き明かしていくSFなので、ゾンビ物枠があったらまずもってオススメしただろう一冊。

近接サブジャンルでポストアポカリプス物──漫画だと『少女終末旅行』やらみたいな方面──だと、代表作的にはコーマック・マッカーシー『ザ・ロード』あたりを紹介しただろうなあ。あとはまあ普通に田中ロミオ『人類は衰退しましたか』か。東山彰良のド傑作『ブラックライダー』も外せない。でもこの手のジャンルって終末後の世界情景が見えてこその魅力もあるので、映像作品や漫画やゲームの方が印象には残るかも。ゲームだと『Horizon Zero Dawn』とかも傑作で──と、僕は冬木糸一というHNだが、これは組み合わせると「終末」になる。実は終末物大好きマンなのでこの手の作品はいくらでもオススメしたいのだが、とりあえずやめておこう。

そうそう、そのまたさらに近接サブジャンルとしてはゾーン物で『ストーカー』、《サザーンリーチ》三部作、《裏世界ピクニック》もどれ読んでもそれぞれ違った角度からゾーン物の良さが凝縮されててハマるよねーと話が尽きないのであった。

裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル (ハヤカワ文庫JA)

裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル (ハヤカワ文庫JA)

終わらない

そんな感じで進めていくと本当にキリがないのでざっくりいくと、SFアクション枠が存在するのであれば当然のように冲方丁『マルドゥック・スクランブル』(どうでもいいけどSFアクション枠の小説作品って実は相当少ないよね)を薦め、大長篇枠なら小川一水『天冥の標』を薦め(生まれてきたことに感謝するレベルの傑作)、SFミステリならアダム・ロバーツ『ジャック・グラス伝: 宇宙的殺人者』を薦め(あまりにもバカバカしいけどSF的に筋の通った傑作)、ゲーム、あるいは仮想世界物であるば芝村裕吏『セルフ・クラフト・ワールド』を薦めただろうな〜〜〜(雑)。

セルフ・クラフト・ワールド 1 (ハヤカワ文庫JA)

セルフ・クラフト・ワールド 1 (ハヤカワ文庫JA)

こんだけ適当に上げておけばいつか似たような依頼があってもこの記事を読めば思い出せるでしょう。でも(やっぱり)いくらなんでもきりがなさすぎるので、次やるにしても「3年以内に刊行された」とか「終末系のSFの中から」とかある程度絞り込む必要があるかもしれないなという教訓を得た。しかし、寄稿記事では僕がSFを読み始めたきっかけを「戦闘妖精雪風のカッコよさに惹かれて」と書いたんだけど、他の人はいったいどんなきっかけでSFを読み始めるたのか、気になってきたなあ。

あとはみんな初心者向けだったらこれじゃねというのがあったらどんどん呟いたりコメントくださいな。


ではそんなところで。