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ブラックホールに身を投げたらどんな最後を迎えるのか?──『とんでもない死に方の科学: もし○○したら、あなたはこう死ぬ』

とんでもない死に方の科学: もし○○したら、あなたはこう死ぬ

とんでもない死に方の科学: もし○○したら、あなたはこう死ぬ

  • 作者: コーディー・キャシディー,ポール・ドハティー,梶山あゆみ
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2018/06/07
  • メディア: 単行本
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身近な疑問を物理的に追求していくとどうなるのかをゆるいイラストと共に解説した『ホワット・イフ?:野球のボールを光速で投げたらどうなるか』という本が3年前に話題になったが、本書はその死に方に的を絞ったバージョンのような本だ。著者自身は、はじめにで『要するに、スティーヴン・キングとスティーヴン・ホーキングを足して二で割ったような本』──本書はグロテスクな死と真面目な科学が合わさった本だから──といっているが、うーん、それは両者を甘くみすぎな言葉だとは思う。
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45通りの死に方が本書では網羅されている。実際に遭遇しそうなものはほとんどなく、「旅客機に乗っていて窓が割れたら」とか、「もしこんなことがおこったらどうなるんだろう?」と科学的に想像を膨らませられるような題材が多い。なので、死に方を通して雑多な科学的事象について考えるような一冊である。題材も「お、それは気になる」というものが多いし、文章もユーモアたっぷりでいいし(ちとくどいが)、合間合間に挟まれる雑学は勉強になる。いい感じの科学雑学ノンフィクションだ。

たとえば旅客機に乗っていて窓が割れたら何が起こるのかと言えば、高度1万mの気温は-54℃ほどしかないから、まずものすごい勢いで凍傷になる。そのうえ、空気がひどく薄いため、15秒もすると意識を失ってしまうので、酸素マスクをしないと気絶することになるだろう。ま、対策をしようが死ぬので考えても無駄だろうが。

実際にギリギリまで試した人たち

実際にギリギリまで試した人たちの実体験も多数紹介されているが、「眠れなかったら」の章はなかなか恐ろしい。航行の科学プロジェクトの一環で、高校生のガードナー少年は公式の監視を絶え間なくつけた状態でなんと264時間も眠らずにいたという。人間眠らないでいるとどうなるかというと、3日目には横断歩道の信号を間違え、4日目の夜には自分がプロのアメフト選手だと信じて疑わなくなり、6日目には筋肉のコントロールがままならなくなり、短期記憶もおぼつかなくなったという。

結果途中で切り上げたわけだが、「死んでないやんけ」とツッコミを入れるのはさすがにひどい。そのかわり、ラットでの実験が紹介されている。ラットを眠らせずにいると2週間で死ぬらしい。眠らずにいる人間の脳機能が死ぬ直前にどうなるのかは、ラットの実験の時に用いられた動き続ける床に自分が乗ればわかるかもしれない。

「アメリカから中国まで穴を掘ってその中に飛び込んだら」はその問いに対する解答よりも、参考として挙げられている実例の方が興味深かった。かつて、どこまで深く掘れるか試してみようというアホな着想で1970年にはじめられた超大型プロジェクトによって、「コラ半島超深度掘削坑」というデカイ穴が生み出されたのだが、この時は深さ1万2262メートルで温度が180℃になって掘削ドリルの接合部分が溶けてしまい計画は断念されたという。要するに、地下は掘ればほるほどと熱くなるのだ。

ちなみにこれでもまだ地球の直径の0.1%にも満たないので、地球を貫く穴をつくるのはなかなか厳しい試みであることが先人の果敢なチャレンジによってわかる。

ブラックホールに身を投げたら

記事のタイトルに使った「ブラックホールに身を投げたら」も愉快なテーマだろう。

といってもまだまだ研究途上で、ブラックホールの中に入ってからどうなるのかはわかっていない。なので飛び込む前の話しか出来ないが、ブラックホールは事象の地平線という引き返し不能なポイントに囲まれており、落下者がその地平を超えて落下すると、速度は30万キロメートルの光速に近づいており、脱出しようとどんなに試みても失敗に終わることになる。強烈な重力のせいで、光さえも脱出できないのだ。

実は、これほどの速度になっても何もぶつかるものがないので意外と平気なのだという(最低限の装備はないと死ぬが)。水素などのごくごく小さな粒子であってもかなり危険だが、ほとんどのブラックホールは純粋な真空に取り巻かれているので、大丈夫なのだ。だがさすがに中心部まで近づくと、中心の特異点から生じる潮汐力によって、スパゲッティのように細長く引き伸ばされ、引き裂かれて死ぬことになる。

ここからはこの本に書いてあることではないが、ブラックホールの事象の地平に近づくと、遠くの観測者からみると、時間の進み方が遅くなるのも愉快な点だ。逆にいうと、地平に近づく当の観測者にとっては、時間の進み方は通常通り=外部宇宙の時間は早く進むように見える。つまり、観測者がブラックホールの事象の近くで長いこと浮かんでいると、宇宙の何十万年といった展開が一瞬でみられるかもしれないのだ。

おわりに

要約を続けてもしょうがないのでこんなところでやめておくが、個人的には「木星まで旅行したら」、「無数の蚊に刺されつづけたら」なども興味深かった。前者はガス惑星なので、木星に落ちていっても地面に激突して死んだりしないんだよね。後者は大量の蚊に刺され続けると何分ぐらいで死ぬのかという仮説がおもしろい。

なにかに役に立つような本でもないのだが、笑って読めて話のネタにもなるだろう。それに、ひょっとして飛行機の窓が割れたりなんかしたら本書を読んでいてよかった! となるかもしれないし──とか書いていたら本当に4月に窓が割れて死亡者が出る事故が起こっていた。ひえええ。
www.huffingtonpost.jp

ホワット・イフ?:野球のボールを光速で投げたらどうなるか

ホワット・イフ?:野球のボールを光速で投げたらどうなるか