基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

早川書房の電子書籍「海外SFセール」がきたので個人的オススメを紹介する2018年版

去年も早川書房は「海外SFセール」をやっていたのだけれども、今年もやりはじめたようなので個人的おすすめを紹介します。今回も大体半額になっている! お得! しかもシリーズ物が多くて素晴らしい。とくにセール対象が代わり映えしないようなら前回の記事を貼っつけて終わりにすりゃあいいかなぐらいに思っていたのだけれども、今年に入ってからの新刊も大量に入っているから一から書き直すぞー!
huyukiitoichi.hatenadiary.jp
前回セール対象だったやつは今回もおおむね&僕がオススメしたやつは前回の記事を読んでね。書き手のバックボーンとして、現在雑誌のSFマガジンで海外SFレビューを担当しているので、この3年ぐらいに出た海外SF新刊は全部読んでます。

あち、載せ忘れていたけれど一覧はこちら
https://www.hayakawabooks.com/n/n3b549434cf3f

ざっと紹介する──近刊の話題作

早川書房作品が一望できる『ハヤカワ文庫SF総解説2000』とかディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』とか傑作『火星の人』とかは前回紹介したのでおいておくとして、まずこの2017年〜2018年に出た近刊を中心に紹介していこう。まずなんといってもアダム・ロバーツ『ジャック・グラス伝 宇宙的殺人者』!

ジャック・グラス伝 宇宙的殺人者 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

ジャック・グラス伝 宇宙的殺人者 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

去年からめちゃくちゃ好きで年間ベストにも選んだぐらいなのだけれどもまるで推し足りない。著者いわく『"黄金期"のSF小説と、"黄金期"の推理小説を合体』させたSFミステリィだが、一篇目からして「太陽系最強の密室」というあまりにもあんまりな状況からはじまって唖然とし、二篇目「超光速殺人」、三篇目の「ありえない銃」まで読むと「SFとはいえそんなんありかよ」とゴロゴロ転げ回るはめになる。だが、どこまでも筋は通っており、ミステリとしてもSFとしてもオススメしたい。
時空のゆりかご (ハヤカワ文庫SF)

時空のゆりかご (ハヤカワ文庫SF)

次に時間SFとして傑作なのがエラン・マスタイ『時空のゆりかご』。

人類が無尽蔵のエネルギィを手に入れて裕福に暮らしている”もう一つの2016年”で、人類初の時間航行へと挑み歴史を変えてしまい、世界を我々のよく知る”この世界”、主人公視点だと”ディストピア”に変えてしまった一人の男の物語。勝手にこっちをディストピア認定すんじゃねえぞと憤りを感じるが、主人公もまたこの世界で暮らすうちに、ディストピアであったとしても愛着を覚えはじめ、自分はどのような人生を、世界を選ぶべきなのかをもう一度考え直していくことになる……。

猫のゆりかご

猫のゆりかご

『シュタインズゲート』好きにはぜひオススメしたいところ。『猫のゆりかご』ライクな書名だけど、終盤に立ち現れる廃墟、退廃的なヴィジョンなど、中身もちゃんとヴォネガットみのある作品だ。本家『猫のゆりかご』もセール対象で300円。
隣接界 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

隣接界 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

近刊の話題作というと忘れちゃいけないのがクリストファー・プリーストの集大成的作品『隣接界』。昨年の『SFが読みたい!』で海外篇の1位を獲得した、約束されし勝利の傑作。近未来の英国を舞台に、徐々に進みつつある環境汚染、生態悪化、国家間の関係は悪化の一途を辿る暗い時代を扱いながらも、秘密任務を遂行途中の手品師、かつての男の影を追う女性パイロットと、彼女に恋に落ちる英空軍の整備兵。

本書はそんな無数の人々の物語を取り上げながら、人が痕跡を残さずに消失する新兵器によって、状況的に明らかに死んでいる。しかし、生きていないともいいきれない──そんな"はっきりしない"、"可能性に揺らぎのある世界"を描き続けていく傑作である。プリースト作品は『双生児』、『無幻諸島から』もセールになっているのでこの機会に揃えてしまうのもいいかも。傑作しか書けねえのかよみたいな作家なので。

七人のイヴ ? (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

七人のイヴ ? (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

もう一つ絶対に外せないのがニール・スティーヴンスン『七人のイヴ』。これは原書ではデカイ1巻本だったのを日本では3分冊にして出していて、今回のセールになっているのは1巻だけなんだけど(先月完結したばっかだしね)僕のオールタイム・ベスト級の傑作海外SFになったので、この記事の中で一冊だけ買うとしたらなんとかこれを選んでくれねえかなあと思っている。物語は、何の前触れもなしに月が破裂し、地球はしばらく後に破片の墜落によって地表が壊滅的な状況になることが判明。

人類は地球近郊に環境循環型の宇宙船を建造し、5千年から1万年後、地球に帰還できる日を待つことになる。なんといっても凄えのはそうした状況が遠い未来ではなく近未来を舞台に、現実的な技術・科学描写と共に語られていくことで、人間が宇宙で1万年も暮らすなんて絶対に無理! と誰もが思う中、エンジニアと政治家が突き進んでいく! 舞台が宇宙に移ってから人間が政治的対立から逃れられぬ様、宇宙で起こるはじめての紛争、戦争──とどこを切り取っても興奮が巻き起こる傑作である。

シリーズ物

スターダスト ローダンNEO (ハヤカワ文庫SF)

スターダスト ローダンNEO (ハヤカワ文庫SF)

セールで嬉しいのはシリーズ物がガッとお得に変えてしまうところにある。世界最長のSFシリーズである〈ローダン〉シリーズを圧縮・現代向けに設定・展開を練り直したリブート・シリーズである〈ローダンNEO〉シリーズが1巻から第一サイクル終了の8巻までセール中。もともと安いけど、50%OFFで340円になっている。現在既に10巻目が出ており、すぐに何十巻も出てしまうので、追いつくなら今だろう。
七王国の玉座〔改訂新版〕(上)(氷と炎の歌1)

七王国の玉座〔改訂新版〕(上)(氷と炎の歌1)

あとは、ドラマ(『ゲーム・オブ・スローンズ』)のほうが圧倒的な知名度を誇る〈氷と炎の歌〉シリーズもセール中でアホみたいに分厚い文庫が500円で買える! ドラマも無論おもしろいんだけど、原作は原作で一人一人の心情、思想、行動を深く深く掘り下げていき、この世界が迎える大きな変化を体験していく楽しさが満ちている傑作ファンタジィなんだよなあ。
ドゥームズデイ・ブック(上)

ドゥームズデイ・ブック(上)

エンダーシリーズやハイペリオン4部作などもあるが、個人的にオススメしたいのはコニー・ウィリスのタイムトラベル・シリーズだ。前「それどこ」のでも紹介したけれども、僕が一番好きな時間SF作品でもある。いずれもタイムトラベル技術が開発された未来のオックスフォード大学の歴史研究家たちを描いており、ペストが万円した14世紀を舞台に展開する『ドゥームズデイ・ブック』は悲劇の、19世紀を舞台にドタバタコメディを繰り広げる『犬は勘定に入れません』は喜劇の大傑作だ。
ブラックアウト

ブラックアウト

そして、『ブラックアウト』『オール・クリア』はその全てを内包したド傑作なのだ。最後の二作は、読んでいて感情が枯れるかと思うぐらい全てを突き動かされた。
孤児たちの軍隊

孤児たちの軍隊

ミリタリーSFファン的には〈彷徨える艦隊〉シリーズがどうも全部セールになっているようなので揃えるにはいいかも。王道中の王道で、今から読んでも楽しめるはず。10巻以上もある作品を今から追うのはちょっと……という方には『孤児たちの軍隊』がリアルな軍隊描写が素晴らしく5巻ですっきり完結しているのでオススメ!

おわりに

あんまりオススメしすぎてもしょうがないのでこんなところで……と思ったけど忘れていたのがあって、『ネクサス』は他者の脳と通信をして強烈な一体感をもたらす「ネクサス」など無数の技術革新が生まれた世界をリアルに描き出している素晴らしい近未来SFだし、イーガンの新刊『シルトの梯子』も近年のイーガン作品の中では読みやすい方で人類と新しい時空との対決を描き出している傑作である。いや、こうしてふりかえるとこの一年でほんとにおもしろい海外SFがたくさん出たなあ。

シルトの梯子 (ハヤカワ文庫SF)

シルトの梯子 (ハヤカワ文庫SF)

ここで紹介したものはだいたいこのブログに記事があると思うので詳細な内容が知りたかったら検索したりしてね。ではでは。