基本読書

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終末的な世界を少女とロボットが旅をする、絶景ノベル──『エレクトリック・ステイト』

エレクトリック・ステイト  THE ELECTRIC STATE

エレクトリック・ステイト THE ELECTRIC STATE

  • 作者: Simon Stålenhag,シモン・ストーレンハーグ,山形浩生
  • 出版社/メーカー: グラフィック社
  • 発売日: 2019/04/08
  • メディア: 単行本
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スウェーデン出身のシモン・ストーレンハーグによって描かれた油絵チックなデジタル・イラストレーションと、その情景を補佐し、謎を散りばめることによって沸き立たせる絶妙なストーリー(小説)パートによって綴られるグラフィック・ノベルである(通常グラフィックノベルというとアメリカンコミックのことをさすことが多いと思うが、本書のような作品はグラフィック・ノベル以外を当てづらい気がする)。
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グラフィック社のサンプルイラストより引用(http://www.graphicsha.co.jp/detail.html?p=38925)
いろいろとオススメしたいポイントはあるのだが、まずはなんといっても著者の終末的な情景を描き出すイラストが凄すぎる! 舞台となっているのは1997年の春、アメリカ合衆国のパシフィカ(カリフォルニア?)と名付けられた地域。冒頭の文章で世界では無人機が活躍する戦争が長く続いたことが明かされ、そのせいで多くの民間人や子どもたちが亡くなったことがわかっている。そんな終末的な世界で、一人の少女と小さなロボットが、最初は何の目的があるのかも(読者には)わからないまま旅をする過程で、一体何が起こったってこんな世界になったのか、彼女は何のために、どこに向かっているのかが(読者に)わかっていくのがお話としての大まかな構成になる。

彼女と小さなロボットの移動は、砂漠、山脈、沿岸部、海とエリアをまたがっていき、様々な形で我々の歴史とは変質してしまったこの世界の情景を描き出していく。無人機による戦争とそれに伴う帰結はかなり広範な被害をもたらしたようで、彼女の行先にはあまり人がいないし、いても武器を持った明らかに危なそうな荒くれ者だったりする。風景は誰もメンテするものがいなくなった車やアトラクションの残骸、崩れかかっている巨大な人型のロボットのようなものなどで溢れかえっており、とにかくどこを切り取っても「終末」好きにはたまらない情景が広がっているのだ。

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http://www.graphicsha.co.jp/detail.html?p=38925
本作において凄いのはそうした終末的な情景だけではなく、一目見ただけでいったいこれはなんなんだ、用途はなんなのかと想像を強く喚起させる謎の建物群であったり、ごちゃごちゃと合体され完全な違法建築物状態になったアパートメントだったりと、様々な建築物・風景が出てくるのがめちゃくちゃ楽しい。また、基本的には本書は1ページイラスト、もう1ページはテキストと言った感じで進行していくわけだけれども、最初に書いたようにその文章が実にそそるのだ。小説のようにすべてを説明してしまうわけではなく、あくまでもイラストレーションありきの文章であり、イラストを引き立たせ、文章自体の魅力も増幅させるような見事な融合が行われている。
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イラストと文章の融合。グラフィック社のサンプルイラストより引用(http://www.graphicsha.co.jp/detail.html?p=38925)

ストーリーについて

ストーリーについては、何か大きな冒険があったりするわけではなく、あくまでも彼女たちが旅をして、ある目的地についたところでサクッと終わるシンプルなもの。だが、重要なのはそこからいかに膨らましてくれるかである。ときおり挟まれる、「最終戦争」と呼ばれる最悪な戦争で何が起こったのか、ドローン技術が発展していく過程で広範に相互接続された神経細胞が生み出した巨大な”なにか”。それがもたらした戦争とはまた異なる世界の破滅的な状況、道行く中で多くの人が頭につけて(時にそのまま死んでいる)、ニューロキャスターと呼ばれるVRヘッドギアのような何かなど、最初は謎だった幾つもの要素が明らかになっていくのは実に心躍る体験である。

もちろんイラストあっての物語ではあるけれども、非常にSF的にも満足させてくれる内容に仕上がっている。ニューロキャスターがまつわる部分のイラストレーションが特に好みだったりするのだが、それは実際に読んで確かめてもらいたい。感覚的にはFallout4とか、Last of usとか、そういう終末系の世界観のゲームを自分がプレイしている時の感覚と満足感に近いものを覚える、特異な読書体験だった。