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次の世界への道標──『光の量子コンピューター』

光の量子コンピューター (インターナショナル新書)

光の量子コンピューター (インターナショナル新書)

光子を用いた量子コンピュータについての一冊である。決して光のコンピュータがあるからといって闇のコンピュータがあるわけではない(最初勘違いした)。

著者は量子テレポーテーション分野の研究者にして今なお新しい成果を発表し続けている古澤明氏。さすがに量子コンピュータについての説明は複雑な計算を要する部分も多く本書を読めばまるっとその原理がわかるというわけではないが、非常にシンプルにその原理を説明すると共に、最前線の研究者によって「いま」何ができて、眼の前に見えている難題をクリアしていった先に「どのような革新的な技術が生まれるのか」を提示し、わずか180ページほどの内容で非常にワクワクさせてくれる。

量子コンピュータとはいったいなんなのか

量子コンピュータとなんなのか。そもそも量子とはなにかといえば、原子や分子、電子に光子のような小さな物質のエネルギーの単位のことで、そうした非常に小さな素粒子の世界ではエネルギーは離散的な値を取るようになり、これを量子化という。

知識がなければ何をいっているかわからないだろうが、量子の世界でのふるまいは我々が普段目にする物質世界の常識とはかなり異なった面がある。量子には粒子性と波動性の二重性があるのだが、量子を観測すると必ずどちらかに定まった状態しか観測されない=観測されることによって量子の状態が確定されてしまう、逆にいうとそれ以前は複数の存在確率によって分裂したかのような状態になっている。

量子コンピュータは名前についているぐらいなのでその量子を用いるわけなのだが、どう使うのか、何の利点があるのか。利点のひとつは、その計算速度にある。古典的な(現在皆が使う)コンピュータでは、6という数字が入力されたら二進法の110に変換し、1、1、0の3個のビットに分けて論理ゲートを通すことで論理演算を行うが、量子コンピュータもこの手順は同じ。ただ量子の性質上、1量子ビットは0と1、2つの状態の重ね合わせの状態として扱うことができるので、n量子ビットの計算では2n乗通りの状態を同時に表すことができる(30量子ビットなら10億通りを処理できる)

 古典コンピューターのビットが「0」か「1」のどちらかの値を取るのに対し、量子ビットでは、重ね合わせの状態を作ることで、複数の値を同時に取ることができ、さらに干渉により、問題に対する解のすべての候補の中から正解を超並列計算により選び出せるのである。

で、量子コンピュータにはまだ利点があって、たとえば低消費電力であるというのもその理由のひとつ(これは僕も本書を読んで初めて知った)。古典コンピュータは電子回路を電子が移動することで計算を行うのだけれども、入力と出力ではエネルギー状態が異なり(入力の方が高い)、電子は低いエネルギー状態(出力)から高いエネルギー状態(入力)に戻ることは出来ないから、その差分が熱エネルギーとして消費されてしまう。だが、量子コンピュータの場合はエネルギーの状態に高低差がないため理論上は熱エネルギーとして排出する必要がない=必要エネルギーは極小でいいのである。

これは個人レベルだとどうでもよさそうにみえるが、スパコンは1日何百万、何千万の電気代を使うものがあり、そう考えるとその面だけみてもメリットは大きい。

実現の困難性

それだけきくと量子コンピュータ最高じゃんとっとと作ろとなるがこれがなかなか難しい。量子コンピュータを作るには量子の重ね合わせという特殊な状態を利用しなければならないので少なくともその状態を維持しなければならないわけだが、熱などの外部環境によってすぐに状況が崩れてしまうのだ。原子やイオンを使うもの、超伝導体を使うものなどいろいろあるがその場合絶対零度に近い極低温にしなければ量子が重ね合わせの状態になることはなく、その状況を維持するのがなかなか大変だ。

それに対して、著者が実際に何年も研究している光量子コンピュータでは光子を用いるので、その点を解決できるとする。たとえば、一個の光子のエネルギーは数万℃なので周囲の環境の温度など関係なく、その上光子は外部との相互作用が極めて小さいので一度生成した光の量子状態は壊れにくく維持されやすい他、単一光子を検出しやすく伝送しやすいなどいくつもの利点がある。で、ここから本書ではどのようにしてその光子を用いて量子コンピュータを作るのか、量子テレポーテーションとは何か、量子コンピュータを作る上で必須のエラー訂正処理をどのように量子コンピュータで実現するのかと言った込み入った話に分け入っていくわけではあるが、そこは図が入り乱れた複雑な説明になっていくのでこの記事で解説するのは諦めさせてもらう。

1998年に世界で初めて無条件の量子テレポーテーション実験を実現させた時の古澤さんのエピソードは読んでいて胸が熱くなってくるものだった。

おわりに

これまでに古澤さんがやってきたことも凄いが、これからやろうとしていることのヴィジョンにも破壊的なものがある。光量子コンピュータの大規模化のために考案された時間領域多重一方向量子計算方式、ループ型光量子コンピュータの実証について、さらにはその先にある全世界的な光量子通信の可能性までいくと、この先もういったいどんな未来が到来するのか皆目見当もつかなくなってしまう。

 また、量子計算処理を実現できた段階で、それをネットワーク化していくことにより、光量子通信に発展させていきたいと考えている。将来、光量子コンピュータが実現し、さらに光量子通信に拡張していくことで、スーパー・スーパー・コンピューターネットワークが実現するものと期待している。それが私の究極の目標だ。

講談社ブルーバックスではなく集英社のインターナショナル新書なのでそこまで内容も専門的ではないので興味がある人はぜひてにとってもらいたいところ。古澤さんはブルーバックスの著作もあるし、そちらも読んでみよう。