基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

演技を通してその人の人生を浮かび上がらせてゆく──『プロフェッショナル13人が語る わたしの声優道』

プロフェッショナル13人が語るわたしの声優道

プロフェッショナル13人が語るわたしの声優道

  • 作者: 井上和彦,大谷育江,関智一,田中真弓,千葉繁,飛田展男,冨永みーな,朴璐美,速水奨,平田広明,三ツ矢雄二,宮本充,森川智之,藤津亮太
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2019/05/25
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログを見る
藤津亮太さんが聞き手となって行われた、インタビュー集である。すべて雑誌『Febri』に掲載されたもの。対象は1980年代後半から1990年代前半にキャリアをスタートさせた、今ではトップのベテランの人々で、連載の単行本化は『声優語〜アニメに命を吹き込むプロフェッショナル〜』に続く二冊目/後篇となるけれども、こちらもビッグネーム揃いだ。13人の名前と目次のコピーを並べると下記になる。

朴 璐美  自分の体験・体感が根底にないと本当にならない
井上和彦  自分の幅を全部使って演じたい
千葉 繁  主役は大っ嫌い
宮本 充  「つかめた」と思ったらそこで終わり
速水 奨  子供たちが教えてくれた声優の意義
飛田展男  自分のトーンを決めつけない
関 智一  居場所を探して移動していかないとダメ
平田広明  嫌になるまでリハをするのが正解
森川智之  自分があまり出てはいけない
大谷育江  引き算の演技からリアリティが生まれる
冨永みーな  今までも、これからも、キャラクターの魂を演じる
田中真弓  「田中真弓」という看板だけで出られるようになりたい
三ツ矢雄二  ひと癖ある役を生かすも殺すも自分次第

僕はそこまで熱心にアニメを観る方ではないが、声優の方が役や演技について語るのを読んだり聞いたりするのはとても好きだ。単純に演技の技術論や思想的な部分というのは、僕の人生とは隔たりのある場所に存在しているもので単純に興味深いというのと、あまり(アニメを)観ないとはいえ、それでも今では声優の仕事に接する機会は多く(スマホゲーとかね)、何気なく耳に入ってくる「声の演技」にどれだけの思考が凝縮されているかを知ることで、もっとそうした部分を楽しめるようになるからだ。

最近はWebのインタビューとかもあるから昔よりはちゃんと技術や思考の部分の情報も出てくるようになったけど、まだまだその数は少ないと思うので、そうした点でも貴重である。本書のインタビューの進め方としては、「そもそもなぜ声優になろうとおもったのか? そのきっかけは?」という人間性の深掘りからはじまって、それまでその人物が演ってきたいろいろな役について、どのようにそれを練り上げたのか、苦難はあったのか、と掘っていくのが全篇通して共通している問いかけになる。

 インタビューは、大きくわけて2つの方向性があります。ひとつはインタビューイの人間性にフォーカスする「フーダニット(whodunit)」。もうひとつはインタビューイの行ったことに注目した「ハウダニット(howdunit)」。(……)
 本書に収められたインタビューは、インタビューイみなさんのおかげで、ハウダニット=芸談の向こう側に、フーダニット=ひととなりが浮かび上がる内容になったと自負しています。本書を通じて、多くの方が「声の演技」についてより深い関心を持っていただけたらうれしく思います。

ざっと内容を紹介する。

紹介としてはもう上記でいったん落ちているので、ざっくばらんにおもしろかったところでもつらつらと述べていこう。全体の話からすると、とにかく技術論的な面もおもしろいし、各人から飛び出す往年のエピソードも凄いしで大満足の内容である、

たとえばターンAのロラン役などでも知られる朴璐美さんが『シャーマンキング』で林原めぐみさんと高山みなみさんに毎週ご飯を御馳走になりながら「あなたがそんなに大切にしている芝居って、マイクワークもできないくらいのものなの?」「そんなに身勝手なことを舞台でやっているの?」と詰められていた話とか(舞台俳優としてキャリアを積んでいて、声優のスキルで呼ばれているのではないから、尺に合わせるとかキャラに寄せるなんて不自然なことをやりたくなかったという)。

「激詰めじゃん!」とびびってしまうんだけれども、特にそういう雰囲気もなく「良いアドバイスをもらった」的に話しているのがまた格好いい(いや、実際にいい師弟関係というか、アドバイスだったんだろうけど)。あと、朴さんのターンAの頃の収録エピソードも凄く、交通事故にあって骨折した状態で収録現場にいったら『「そんな状態で来るな!」と言われ『なんでですかー!』と泣きながら食い下がったり。』とか、とにかく気持ちの面が強い。朴璐美さんインタビューの回はその精神性の面と演技の面が直接につながっているところがよく現れていてとても好きだ。

読んでいて、やはり同じ年代にデビューした人たちを対象としたインタビューなので、その経歴や思考に共通性があるのもおもしろいところ。たとえば今では声優にあこがれて入ってくる人が多いだろうが、千葉繁さんや朴璐美さんなどなど、みなもとは実写の役者の世界からたまたま声優の仕事も受け始めて──という形で入ってきている。千葉繁さんは『ビーストウォーズ』の異常なアドリブなんかも有名だが、そのルーツとしては実写の世界でアドリブをいうことが多い(カットがかかるまでアドリブでもたせるとか)ことから、アニメでもやってみようかと実験的に始めたという。

そうしたアドリブはアニメの常識とは異なるから「台本に書いてないことをしゃべるんじゃない!」と怒られるのだけれども、どうせずっとこの場にいるんじゃねえんだから、とつっきった先でおもしろいと認められたり、やっぱある程度の外挿というか、他文脈の挿入って重要だよな、とあらためて思わされたりもする。

70点より0点のほうがいい?

もうひとつおもしろかったのが関智一さんの回で、僕なんかからすると関智一さんってもう大ベテラン中の大ベテランでスゲー上手い人の印象だが、とにかくその過去は苦労話ばかりである。たとえば、『エスカフローネ』で、音響監督の若林(和弘)さんから呼ばれて、「お前はいつも70点の芝居ばかりする」と怒られた話を披露している。『「100点か0点かどちらかにしてくれ。70点の芝居をされたら直しようがない」』と。いや、70点の方が簡単に直せるんじゃね? と読みながら疑問に思っていたのだけれども、同様の話を三ツ矢雄二さんもしていて、それで腑に落ちた。

文脈的には、最近の深夜アニメの出演者の声、発声法や、演技の仕方が似通っており、それは専門学校で習ってきたことを器用にこなしていて、自分の個性をうまく見いだせないまま平均値のところで割り切ってしまっているのではないか。人を育てるには、下手でもいいものを持っている人間をプロデューサーやディレクターなりがまずちゃんと見つけて、面倒をみてあげないと、という話をしているところである。

 例えば『ドラえもん』('79 もちひら了監督ほか)を思い出せば、ジャイアンやスネ夫なんて、みんなすごく個性的なしゃべり方が出来ていたでしょう? 平均値でいいと思っていたらああいう個性はできあがりません。僕がよく言うのは「お芝居においては100点か0点がよくて、70点均一はダメだ」ということです。70点で可もなく不可もなくやり過ごしていけば飽きられてしまうし、そうじゃない人に追い抜かれていく運命をたどります。むしろ0点のほうが、その正反対をやれば100点になるのでいいんです。専門学校で習うことも大切だけれども、それ以外にも大切なことはたくさんあるということを知ってほしいですね。

うーんなるほどね、芸事の世界ってのはそういうものなんだろうなあ、と常に60点ぐらいを狙ってなんとかあらゆる状況をやり過ごそうとしている人間的にはちょっとびびりながら思ってしまう。いや、僕もね、たしかにある局面においては0か100かを狙っていったほうがいいのかもしれんね……と考えさせる一節である。ま、締めがあれだけどだいたいそんな感じの本です。オススメ!

声優語 ~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~

声優語 ~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~