基本読書

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未来を考えるうえでもっとも重要な「世界人口の減少」というテーマ──『2050年 世界人口大減少』

数十年後の世界人口がどうなっているのかというのは、最重要のトピックだ。何しろ、環境問題の悪化も、経済の状況も、文化も、都市化も、今世界で問題になっているすべてのことが人口に関係しているからだ。極端な話世界人口が10億人しかいないのであれば、少なくとも炭素排出量で大慌てする必要などまったくないのである。

そして、日本を見てもらえればわかるように、今どんどん出生率は下がり、結果的に人口の数は長期に渡って下がり続けていくと予測されている。この流れは日本だけでなく、中国でも韓国でも、東欧でもまったくかわらない。アフリカなど依然として出生率が高い国があるおかげで世界人口自体はまだ伸びているが、これが永遠に伸び続けていくと予測しする人はどこにもいない。だから、「世界人口が減少に向かう」こと自体には広く合意がとれている。問題は、「いつそれが起こるか」である。

本書は書名にも入っているように、実はそうした人口の減少が国連などが予測しているよりもずっと早く、30年後にはもうやってくるのではないか、と主張する本である。一度減り始めた人口は、特別なことが起こり得ない限り(精子を提供するだけで勝手に産まれて育つような仕組みとか)増加することなく減り続ける。『我々の目前にあるのは人口爆発ではなく人口壊滅なのだ。種としての人類は、何世代もかけて、情け容赦なく間引かれていく。人類はそのような経験をしたことは一度もない。』

「そんなことないでしょ。多くの子供を持つような政策をとれば子供は増える! 結局は政権の態度の問題」と考える人もいるだろうし、確かに金をかけて子供を産むことを積極的に支援すれば出生率に改善がみられることがわかっている。だが、人口が増えるためには人口を維持するだけの水準で生み続けなければならない。現在の日本の人口置換水準は2.07だが、どれほど支援策を出してもここを超えるのは難しい。本書では、そうした対策の数々となぜ難しいのか、といったことも語られていく。

なぜ出生率は下がっているのか?

なぜ世界的に出生率が下がっているのか? と疑問に思うかもしれない。ただ、これは日本で生きて暮らしている人ならばすでに言われなくてもわかっているのではないか。現状で日本で子供を産むというのはあまりにも大変なのだ。まず、単純に子供を産むという行為が母体にとって非常にリスキィであることはいうまでもない。また、まだまだ男女平等にはほど遠いが、女性の権利も尊重されるようになり、同時に働きに出て男性と同じようにキャリアを積み上げることも増えてきた。

そんな状態で、子供を3人も4人も産むことのリスクと代償は大きい。産む体力、育てるための体力時間、教育のための資産、仕事に復帰できる目処もたたない。中世ヨーロッパの社会では人口の90%が農業で暮らしていた。その時は、子供は「投資」になった。畑を耕す労働力が増えるからだ。だが、都市では子供は「負債」になる。金を稼ぐ労働力にはならず、むしろ現代の高水準化した労働環境に適用させるために20年以上に渡って教育を施す必要もあり、その教育費用は莫大だ。

つまり、人々は都市に住むと自然と子供の数を減らすようになる。そして、もうひとつ大きな要因とされているのは「女性に対する教育」である。ある女性が受ける教育の水準が上がれば上がるほど、女性に権利面、知識面での力が与えられ、その女性が産むであろう子供の数は減っていく。これが今、先進国だけではなく発展途上国でも起こりつつあり、世界中で出生率低下、もしくはその兆候がみられる要因だ。

施策でなんとかならないのか?

助成金を出したらどうなのだろうか? この分野で知られるのはスウェーデンで、数十年にわたり手厚い出産支援を行ってきた。たとえば、保育サービスの時間延長、男性も育児と家事を分担するキャンペーン、育児休暇は480日、ほぼ全期間で収入の80%が補償。子供がひとり増えるごとに手当が追加される手厚い家族手当、ベビーカーを押している親は公共交通機関が無料など、幅広い取り組みが行われている。

そこまでやってもスウェーデンの出生率は1.9で、人口を維持するのに足りないのである。しかも、そうした施策には莫大な費用がかかるので、不況に突入し手当が縮小すると、あっというまに出生率も下がってしまう。景気が回復し都市化が進むと出生率が下がり、景気が悪化しても手当が縮小されても出生率が下がるので、きつい状態であると言える。『良い条件が出生率を下げ、悪い条件も出生率を下げるのだ。』

日本は?

いうまでもなく日本は少子高齢化社会である。あまりにもその出生率の下がり方が急なので、本書でもまるっと一章割かれている。20歳の女性より30歳の女性の方が多く、30歳の女性より40歳の女性の方が多いのが今の社会だ。妊娠可能年齢の女性は1年毎に前年より減っていくので、もう何をどうかんばろうが増えることはない。

こうした出生率が低下していく状態の思考様式を、人口統計学者は「低出生率の罠」と呼ぶ。『「就業パターンが変わり、幼児保育施設や学校が減り、家族と子供を中心とした社会から個人を中心とした社会へのシフトが起きる。そして子供は、個人の自己実現や幸福のための一要素となる」』どういうこというと、もはや子供を持つことは社会や神に対する義務ではなく、単純にどこで暮らすとか、どこに旅行をするかのような「自己実現」のための要素と同じになってしまっているということである。

どうしたらいいのか?

このままだと、日本は2065年頃には人口が8800万人にまで減る。これはピーク時の2010年の3分の2強なので、これまで国内の需要で操業していけていた企業も、もう国内需要だけでは成り立たなくなってくるだろう。超高齢社会でもあるので、若い世代が上の世代の分を供給する年金制度や、各種税金のバランスも最悪に近くなる。

じゃあどうしたらいいんだ、となってくるが、著者らの結論は基本的には「移民を入れろ」というところに落ち着いている。移民を積極的に受け入れることで、減った分の人口の代替とするのだ。『だが日本人全体が今、ひとつの選択を迫られている。日本社会に移民を受け入れるか、それとも小国として生きるすべを学ぶか、そのどちらかしかない。おそらく日本人は後者を選ぶのではないだろうか。』

無論、そう簡単な話ではない。移民を受け入れるには受け入れ国の開放的な文化が必要だし、これから先世界人口が減って、その前提として最貧国でさえも教育や環境の整備が行われていくという前提があるので、人はますます移動しなくなる(統計的にもその結果が現れている)。もはや移民は奪い合いの時代であり、門戸を開いたからと言って大挙して押し寄せてくるような状態ではないだろう。

おわりに

別に、小国として生きていけばいいという話でもある。税金など数々の面で問題が噴出し多くの高齢者が医療が受けられなくなったり生活が続けられなくなって死亡率が増えるかもしれないが、それを受け入れる覚悟を決めればいいだけの話である。人口減少が続けば環境問題の悪化も食い止められ、小国となった方が最終的には統制がとりやすくなるなど、数十年後には良い側面もある。

本書では、その後中国やブラジル、インドでさえも人口が減っていくことを詳細なデータで追いつつ、アメリカがこれからも世界一の国であることを移民の受け入れ率などから論証していったりと非常に読み応えがある構成になっている。とにかく、未来を考えるうえで最も重要な一冊であるといっていい。文藝春秋からは昨年も『人口で語る世界史』という名著が出ているので、こちらと合わせて楽しんでもらいたい。

人口で語る世界史

人口で語る世界史