基本読書

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第一次世界大戦において魔術やオカルトはどんな働きをしたのか──『スーパーナチュラル・ウォー』

現代は魔術や予言には厳しい時代であるといえる。21世紀の今ノストラダムスの大予言のようなものを多くの人が信じ込む状況は想像しがたい。だが、20世紀には多くの人が大真面目に信じていたわけだし、それは時を遡るほど顕著になる。

本書『スーパーナチュラル・ウォー』は、第一次世界大戦に的を絞って、そこでオカルト、魔術、民間信仰がどのような働きをしたのかについて書かれた一冊である。兵士は様々なお守りや像を持って戦場や塹壕に飛び込んだが、どのようなお守りが人気だったのか。また、特定のものが人気である場合、なぜそれが人気だったのか。占い師や占星術師は大戦時にどのような役割を果たしていたのか、人気だったのか。

人の心のより深いところにある謎やさらに別の領域に関する歴史もまた歴史である。本書をお読みいただければ、超自然が戦争体験に関して多くを教えてくれること、また戦争が超自然体験に関して多くを教えてくれることをご理解いただけるだろう。

今もオカルト・民間信仰というのは消えてなくなったわけではない。ただ、それは第一次世界大戦時とまったく同じものが流行っているわけではなく、時代ごと、文化ごとに信仰にも細かな差異と歴史があり、本書はそれを丁寧にたどり直していくことで第一次世界大戦に別側面からの光を当て直している。端的に、非常に面白かった。

構成とか

構成としては、予言、霊・霊能者たち。占い、護身のお守りなどジャンルにわかれてそれぞれが戦時下においてどのように運用されていたのかを見ていくことになる。たとえば、大戦前後には膨大な数の予言が生まれていた。ノストラダムスや、7世紀頃に活躍した予言者など、歴史上の人物の予言が引きずり出されたほか、適当なことをいって現代の予言者として名をあげようとする人物も大勢いたようである。

有名な一人に儀式魔術師のアレイスター・クロウリーがいる。彼は別名義で1910年、バルツァベルという火星の霊を呼び出したと主張し、ヨーロッパで戦争が起こるのかという質問にイェスと答えている。他にも、ユリウス・カエサルと霊的インタビューを行うという企画があり、1909年の最初の接触時にカエサルが「何が起きようとしていますか?」の問いに「戦争、恐ろしい戦争。」と答えていた記録も出版されて残されている。カエサルにインタビューしてどうすんねんと思うが(現代にもやってる人がいるけど……)このような例は枚挙に暇がなく、そういう時代だったのだ。

この時代の予言は絶大な力を持っていて、戦争が始まってからも「(占星術師である)ムーアのアルマナックに1918年には戦争が終わると書いてあったから」といった占い経由で安心した人が大勢いたようである。

そして、戦争の開始や集結だけでなく、戦争がより大きな世界的変化の兆しであると解釈し大衆を扇動する勢力も現れる。エレナ・ブラヴァツキーによって創立された神智学運動がそれで、この勢力は千年王国待望論を推し、『大戦は大いなる宇宙的運動、善のちからと悪の力の必然の戦いと解釈』した。大戦の宇宙的意義を理解するには、有史以前の何百万年も前にはじまったアトランティス時代を理解する必要がある──と、壮大な思想・特殊な世界観が大真面目に語られているのでおもしろい。

霊、ヴィジョンの出現

霊、ヴィジョンの存在も多数報告されている。たとえば、『デイリー・ニュース』その他では、1917年にテムズ川上空に天使が出現したと報道されている。ホントに天使なんか信じていたの?? というと、実際当時ですらすでに懐疑的な扱いを請けていたようだ。1915、18年には聖母マリアの目撃証言もとられている。

戦闘区域では、戦死した人の幽霊を見るのは日常茶飯事だったという。第一次世界大戦時には莫大な数の死者が出たから、実際に幽霊がいるかいないかはともかくとして、いなくなってしまった人のことを考えすぎたり、自分が死んだ後のことを恐怖するあまりにその姿を見たり死後にも生があると錯覚することに不思議はないだろう。

幽霊を信じている人が多いということは心霊術師たちの出番ということでもある。心霊術は当時すでに非難されていたが、同時に交霊会が宗教礼拝とセラピーの混合物としての機能を果たしていて、遺族を慰めるにあたって一定の役割を果たしていたようだ。『アーサー・コナン・ドイルや著名物理学者サー・オリヴァー・ロッジ(1851〜1940)といった有名人が発表する霊媒の話は、死など存在しないという確信がもたらす強力な、そして吸引力のある慰めの表現となった。』
同様の機能をはたしていたと見られるものの一つに、民間の占い師がある。これは、自信満々でそれっぽいことを言えば女性が独りで金を稼げる当時珍しい職業であった。この占い師もまた、戦時下における民間セラピストとみなすことができる。『戦時中の占い師たちの意義は、かれらの予想がいんちきとか当たる外れるといった問題ではなく、交戦各国の集合的精神状態への影響という面で考察すべきだろう。』

おわりに

家族を失い強烈に精神が揺さぶられている状態の人間が幽霊を見たり奇怪な体験をすることは非常に理解しやすいが、それがどのような種類と形をとるのかを追求していくことで、当時の社会・文化の側面が浮かび上がってくる。

たとえば、「死人の靴や衣服を身につけるのはよくない」や「1本のマッチで3本の煙草に火を付けると3人の喫煙者のうち1人が死ぬ」といった幸運や不運に関する発想があったが、なぜそうした伝承が生まれたのかというのも、社会に根づいた長い歴史があるのである。