- 作者:ジェイソン・フリード,デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン
- 発売日: 2020/07/02
- メディア: 文庫
この二人、これまで何冊も本を出していて(『小さなチーム、大きな仕事』)、こんな本出してたっけ? 現状にあわせて翻訳したのかな?? と思っていたら前に単行本で出ていた『強いチームはオフィスを捨てる』の改題しての文庫化であった。まったく別のタイトルになってはいるものの、一冊通してリモートワークについての話であることには違いがない。原書は2013年頃刊行の本ではあるけれども、リモートワークに必要なもの・利点に本質的な違いはないから、十分活用できるだろう。
なぜリモートワークなのか?
著者の二人は自分たちの会社が基本的にフルリモートであることもあって、リモートの推進に超積極的で本書でもその姿勢をガンガンに押し出してくる。会社は邪魔だらけであり、やたらと話しかけられたりミーティングを入れられたりして仕事にならない。もちろん家で仕事をするにしても邪魔は多い。テレビやゲームや動画。だがしかし、こうした邪魔は自分でコントロールできるものだ──、しかも、通勤もない!
子どもがいる家庭だったり、そうはいかんケースもあるだろうと思うが、そのへんは「部屋が完全に分けられる前提」で想定していなさそうである。まあ、実際に我社は永久不変にリモートワークですというのであれば家賃の高い都会に住む必要もないわけで、より広い家に転居できるのかもしれない。あと、家がどうしても集中できなければカフェなどでやればいいという話もあり、必ずしも在宅を想定していない。
あまりにもリモートワークの美点を推してくるので若干ひいてしまう面もあるのだけれども、リモートワークがオフィスでの仕事と比べて素晴らしいことに、深く同意する。僕もプログラマなので今年は3月に入ってから毎日家で仕事をしているし、それで特に問題も感じていない。コミュニケーションの情報量はオフィスに行くときよりは減少しているが、少し相談したいことがあればDiscordで通話いいすか? と5分ぐらい処理について相談してやっていれば大きな齟齬は起こらない。
何より通勤がいらないのは素晴らしい。通勤時間に読書ができるとか運動になるという人もいるのかもしれないが、僕は電車みたいな集中できない空間・場所で読書をする気になれないし、運動なら家の中でも十分にできる。リングフィットもあるし、VRを使ったかなり本格的な運動もある。YouTubeのストレッチ動画をみながらストレッチも毎日しているから、むしろ通勤する時よりも身体は健康的だ。
通勤がいらないから、仕事をはじめる10分前まで寝ていられるのは最高だ。服も着替えなくていいからパンツ一丁で仕事ができるのもいい。仕事が終わった瞬間にゲームを起動することだってできる。さらに、これは「結果的に」ということだけれども、もはや新型コロナが全世界的な終息を迎えることが難しく、今後「分散」がキイワードになっていく以上、部分的にであってもできるかぎりリモートワーク体制をとり、分散した上で仕事を回していく方法を模索していかなければならない。
アメリカでは本書刊行直前にYahoo、刊行後にはIBMが積極的なリモートをとりやめたり(本書でもIBMはリモートを積極的に取り入れオフィスを削減したと成功事例として挙げられている)とリモート非推進の動きが出てきていたのだけれども、こうなってしまったら「そうもいっていられない」だろう。
どんな欠点があるのか?
ともあれ、そうした動きが出てくるぐらいなのでリモートワークは何も完全無欠な働き方というわけではない。さっきも書いたようにコミュニケーション総量は減少する。最初から信頼関係の築けているチームであればリモートになっても変わらずに仕事ができるはずだが、たとえば新人や中途が入ってきた時に信頼関係を遠隔で築き、教えながらやるというのは(無理ではないけれども)なかなか面倒くさいものだ。
あと、文字コミュニケーションが主体になるので、どうしても文字での伝達能力が低いと「いったいなにをいってるんだ??」みたいなすれ違いも多くなる傾向もある。本書では、そうした懸念に対してひとつひとつ丁寧にその突破策(あるいは、それは誤解だという指摘)をしてみせる。たとえば、コミュニケーションの不足に関してはバーチャルな雑談の場所を作ること。週に一度、「最近やっていること」で進捗などの共有をはかること。言葉の使い方が下手くそな人間はいるものだから、汚い言葉使いや逆ギレをしている人間を見つけたら積極的に注意していくこと(マネージャーでも、社員同士でも)。採用活動で文章力のある人を雇うなど、無数に提案されていく。
ベースキャンプみたいに最初からリモート前提なら問題ないだろうが、今回みたいに急にリモートワークに移行すると、どうしても合わなくて、家では仕事ができないから出社させてほしいという人もいる。一番良いのは、そうしたスタイルが社員によって自由に選べることだろう。週に一回ぐらい出社してやりたい人もいれば、まったく出社したくない人も、全日出社したい人もいる。
ちなみに、このベースキャンプ社でも最初に採用したあとの数週間についてはシカゴの本社に呼び寄せてみんな(少数の出社している人たち)と一緒に仕事をさせ、信頼関係を築かせるという。やはりここまでリモートを推奨している会社であっても最初の信頼関係構築は対面じゃないと難しいと感じるんだな、と思う。また、それ以外にも年に数回は全社員が同じ場所に集まってのミーティングを行うそうだ。
おわりに
ベースキャンプ社の中には、旅をしながら仕事をしている人も何人もいるという。リモートワークには通勤時間がなくなるとか、集中力が保てるという即時的な利点もあるが、より本質的には「場所」から自由になった働き方ができることこそが利点なのだといえる。250ページ程度の薄い文庫なので、気になる方はパラパラっと手にとってめくってもらいたい。