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サイバーパンクのすべてが内包されているかのような傑作──『サイバーパンク2077』

【PS4】サイバーパンク2077

【PS4】サイバーパンク2077

  • 発売日: 2020/12/10
  • メディア: Video Game
『サイバーパンク2077』が発売された。もう何年待ったことか。幾度もの延期を繰り返し、ようやくマスターアップしたかと思いきやまさかのそこから再度の延期を繰り返し、と出る前から話題沸騰。そしていざ出てからも、バグがあまりに多すぎてドタバタの返金受付、PS Storeからの削除と悪い意味で話題がたえない。

めちゃくちゃな注目度

だがそれだけの話題が巻き起こるのも事前注目の高さ故。開発会社のCD PROJEKT REDのウィッチャーシリーズは世界累計販売本数が5000万本という異次元の売れ方をし、このサイバーパンクについても事前予約だけで800万本の売上を誇る(デジタル74%、物理26%)。その期待はただごとではないし、ここまで世界のゲーマーが盛り上がる自体がこれから先あるのだろうかというレベルで盛り上がっている。

サイバーパンクの夢がここにある

そんな良くも悪くも話題を集めまくっているこのゲーム、おもしろいのかどうかといえば──いやー、これがもうめたくそにおもしろい! サイバーパンク好きにとっては、これほどの作品はない。サイバーパンクの要素をこれでもかと世界に詰め込んでいて、道を歩けばどこに目を向けても身体を義体化した人間が歩いている。そこに一歩操作キャラクターのVとして踏み込んで見れば、俺は、俺はついにサイバーパンクの世界に入ったんだ!! という異常な興奮の波が押し寄せてくる。

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ザ・サイバーパンクというような風景

サイバーパンクの世界とは何か? 体を義体化し、体中に入れ墨を入れた人間が山程歩く街並み。妙な感じで日本語や漢字がブレンドされた看板。サイボーグ化されたギャングたち、それをハッキングして目を盗んだりクラッシュさせたりする電脳・バトル! 攻殻機動隊で皆の心を鷲掴みにした首の後ろからワイヤーを伸ばして情報を受け渡す描写!(本作では手首)サイバーパンクとはサイバネティックとパンクロックからきた造語であるが、それを体現するかのようにパンクな登場人物の数々! 

それらがすべて詰め込まれた舞台のナイトシティは、伝説になれる場所であると語られる。混沌としていて、変化を続け、その実態を掴ませない。歩けば歩くほど風景が変わっていき、建物は多層的に折り重なっていて、まるでアスレチック遊具のよう。どれもが我々の今知っている現代の未来像ではなく、サイバーパンクが生まれた80年代に夢想された、古くて、新しい未来像だ。物語の主人公であり我々の分身であるVは、あるバックグラウンドから出てきてこのナイトシティにたどり着いた一人のゴロツキであり、ナイトシティでデカい仕事=犯罪をやって名をあげようと企んでいる。

ナイトシティでは暴力が絶えず、勢力同士の抗争がたえず、都市の至るところに悪漢が潜んでいる。明らかに住むには適さぬこの都市には、世界を一変させうるほどのテクノロジーも眠っていて、度胸と能力で金をガンガン稼いでいけば、何の権力もない下っ端から”伝説”になることだってできる、無限の可能性が秘められた都市だ。命の安全性は保証されないが、だからこそ上に登ることもできる。

プレイをはじめて驚いたのは、サイバーパンク要素のすべてはここに詰められているのではないのか、というほどに圧倒的な物量だった。メイン舞台のナイトシティの名前は『ニューロマンサー』からの引用だし、途中で出てくるブードゥー教もギブスンの『カウント・ゼロ』との関連がある。街のデザインにこれまでのサイバーパンク系作品がありったけ盛り込まれているのは一目瞭然だが(日本語のネオンサイン、AKIRA的なバイク、腕から出るワイヤー)、シナリオ的にも自我を持ち始めたAIの暴走、洗脳じみたハッキング、人体改造と宗教の問題、ブレインダンスという人の過去の記憶を3D上で再現する装置、人間の精神をチップの中で再現する技術など、サイバーパンクではおなじみの要素、意匠がこれでもかというほどに盛り込まれている。

それも、メインシナリオに組み込まれているのはその一部でしかない。多くの要素は街を探索していく中、メインと関係がないサイドの中で展開していくので、それらを自由に受けたり断ったりしていく中で、「自分はこのサイバーパンク世界の中で生きているんだ!!」という感覚が巻き起こってくる。言ってしまえば、これまでの膨大なサイバーパンクの歴史を一つの都市に強引に盛り合わせたような作品だ。

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ナイトシティーは場所によってまったく違った風景を見せる

それって新しい要素はないってこと? と思うかもしれないが、ここまでの物量でサイバーパンク世界を現出させようとした作品などこれまで一つもないのだから、膨大なサイバーパンクからの引用の集積それ自体が新しい。やりながら、ほとんど奇跡みたいな作品だなと思っていた(………奇跡? の代償として凄まじい量のバグが盛り込まれてしまったが……それはまたあとで触れよう)

やることが……やることが多い……

我々プレイヤーは伝説となるためにナイトシティを駆け回るのだけれども、やることがとにかく多い。やることが多すぎ、それが楽しくて、最初の30時間は寝る間も惜しんでやっていたぐらいだ。少しでも街を歩くとやることが降ってくるのである。

たとえば、都市中に武装勢力が巣食っていて、そいつらを片っ端からぶちのめしていくのもいい。街を歩いていたら近くで銃声がするからどれどれと覗きにいってみたら警察と武装集団が殺し合いをしているなんてしょっちゅうだ。ちょっかいをだしたらそのまま仕事(サイドジョブ)が始まることも数多い。街中の至るところにサイドジョブが配置されていて、我々Vとしてはナイトシティの伝説になるのが目的なのだが、その過程でサイバネを体中に仕込んだ格闘家たちと殴り合いをして頂点を目指してもいいし、自慢の車でカーレースに挑んで頂点を目指してもいい。

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サイドジョブ中の一コマ

正義の心で市長選に望む夫妻の手助けをしていく過程で、市長をめぐるドロドロの内幕、技術戦に巻き込まれていくのもいい。心を病んで部屋から出てこなくなってしまった警官に寄り添ってやったり、神の啓示を受けた宗教家が、磔刑にあって死ぬ瞬間の記憶を取得し売りさばくために乗っかってもいいし、説得してもいい。警官と一緒に子どもたちを誘拐して回っている謎の誘拐犯をとっつかまえにいってもいい。

カッコいい車やバイクがいろんな場所で売っているので、車をコレクションして回るのもいい。自分の体にパーツを仕込めるので、腕にブレードを仕込んで敵を両腕で斬殺してもいいし、足にバネを仕込んで二段ジャンプできるようにしてもいい。二段ジャンプをできるように仕込んだ時は、嬉しくて街中ぴょんぴょん飛び回ってしまった。とにかく高低差の大きいマップなので、ジャンプで行ける範囲が広がるのだ。

戦闘スタイルも多彩に選択でき、ステルスキル、近接格闘、銃撃、ハッキング等様々な軸があり、自分なりに伸ばすことができる。僕はやっぱりサイバーパンクといえばトンチキ日本(忍者)とハッキングでしょ! という感じで刀を持った近接格闘ハッキング忍者を想定してこの2つの能力を伸ばしていたが、外部からハッキングをして撹乱・数を減らしてから、刀を持って敵陣に切り込んで片っ端から斬り殺していくのは楽しい経験だった。こうした育成・成長要素はこうしたRPG、ハクスラではありきたりなものだが、ハッキング主体で考え、自分の体を改造し、見た目と能力を大きく買えていく喜びは、「サイバーパンク」ならではのものだ。

ケチもつける──バグ

絶賛を続けてきたがケチもつけさせてもらう! まずバグは多すぎる! 僕がプレイしたのはパソコン版でスペックも高いから、条件としては最良だが、バグは当然起きる。フリーズも稀に起きる。バグが多いことの問題はバグだけでなく、自分が要素を見逃しているだけでもバグかな?? と思って切り分けが難しくなることだ。幸いメインクエストで進行に関わる問題は発生しなかったが、サイドでは幾度もおかしくなり、進行できなくなってセーブ&ロードを行ったのも一度や二度ではない

もちろん返金を受け付けたPS4版の評判はよくない。こちらは、バグを少なくすることは今後のアップデートでマシになっていくことが期待できるが、純粋なマシンスペック上の限界があり、特に初期PS4ではこのゲームのおもしろさのコアみたいな部分──この雑多な「都市」を体験するところ──に制限がかかることは覚悟する必要があるだろう。すでに大きなアップデートが繰り返されているし、プレイ中に落ちることを覚悟の上なら、遊べるのではないか(やってないのでわからん)。

こうした問題は、バグがあることよりも(この規模のゲームならバグがないなんてことはありえない)、ぎりぎりまでPS4などの動作がキツい、フリーズが多発することを隠していた点にあるわけだけれども、ゲームの出来とは関係ないのでおいておく。

ケチもつける──一人称とVについて

もう一点、これはゲーム・シナリオというか構成上つっかかったところだが、今作は自分の容姿を自由に決定できる一人称ゲームで、没入を前提としている。僕は自分がサイバーパンク世界に没入するのが夢だったから自分に似た形でカスタムして、自分なりのロールに従ってプレイしていたのだが(敵は皆殺し、選択肢は最も極悪非道なものを選ぶ)、このゲームにはVという強固なキャラクターが存在し、プレイしていくうちに自分が設定したキャラクターとVの乖離が大きくなっていった。このVのキャラクターが、つまんねえんだよね。プレイヤーの選択肢に任せるという前提があるから味付けが控え目になっているのはあるんだけど、その割には自己主張が強い。

ケチもつける──シナリオについて

シナリオに関しても、少し不満がある。僕は『ウィッチャー3』の壮大で長大なメインストーリーが好きだった。自分自身が世界の行末に大きな影響を与えていると感じられる、大きな分岐点となる選択肢の数々も最高だ。しかし、多くのプレイヤーから長すぎると苦情がきたことを反省し、本作はメインが刈り込まれて短くなってしまっている。メイン部分のみをプレイするなら15〜20時間程度で終わるだろう。

だから、ということもないのだろうけれど、このメインシナリオ部分だけでいえば、秀逸なサイバーパンク作品の範疇を出ない──というより、この規模の作品であることを考えると、ちゃちな終わりになってしまっているように感じる。これは作品の欠点ではなく、(長すぎると苦情がたくさん来ていたのは事実なのだし)僕の好みの問題ではある。何より、ゲームはナイトシティを満喫させることに重点を置いており、一本の縦軸であるメインストーリーの充実度は、そこまで重要ではないと感じる。

おわりに

と、不満も含めて述べてきたけれども、もはや二度と出ることのないレベルのサイバーパンクの傑作であることは間違いない。いつか、何年か経ったあとに2020年、あるいは2021年の体験として、バグの狂騒も含めて、『サイバーパンク2077』を遊んでいてよかった、と思うだろう。あの時代、あの空気の中で、このゲームを遊んだのだと。ゲームの発売とはお祭りであり、特に全世界で事前予約だけで800万も売れるようなゲームの場合は(オンライン要素がなかったとしても)なおさらだ。

プレイしている間、ずっとサイバーパンクの夢を見ているかのようだった。

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美しいナイトシティの風景

IGN japanで別途サイバーパンクとは何なのか、という記事を書いているのでこっちも読んでね。
jp.ign.com