- 作者:キース・クーパー
- 発売日: 2021/04/24
- メディア: 単行本
本書『彼らはどこにいるのか』はそうした地球外知的生命探査をめぐる現在の科学の状況について、化学と生物学、進化研究と神経科学、惑星気候化学に歴史学に人類学と、一見地球外生命探査に関係なさそうな分野までも含めて、横断的に論じてみせた一冊である。
地球外生命を探査しようとした時に、まず思いつくのは、電波なり何なりを発し、存在しているであろう知的生命にキャッチしてもらうことになるだろう。しかし、本書はそこにパラドックス──、本書の原題である「The Contact Paradox」──が存在すると主張する。我々はもちろん、地球外生命とコンタクトをとりたい。情報をやりとりし、技術が提供してもらえたら嬉しいが、そうでなくても「我々は宇宙で孤独な種ではない」という、ある種革命的な発見それ自体が報酬になる。
しかし、事はそう単純な話ではない。未知のウイルスが伝搬する可能性がある。技術の供与が人類間のパワーバランスを崩壊させる可能性もある。相手が異星種族に友好的である保証も、どこにもない。宇宙が静かなのは、捕食者に居場所を知られたくないからかもしれないのだ。
これが「コンタクトのパラドックス」だ。われわれは、ほかの生命とコンタクトをとる地球外生命の証拠を宇宙に探し求めている。人類がこの宇宙で他者と共存できるように。ところがわれわれは、コンタクトをとろうとすべきかどうかの判断に自信がない状況にある。利他行動の仮定から、生命がもちうる知能のタイプの違いまで、天の川銀河に入植する能力から、フェルミのパラドックスの謎まで、これまでSETIについて明らかにした何もかもが、そして言うまでもなく、われわれ自身の歴史における偶然のコンタクトさえもが、用心せよとわれわれに教えている。
自分たちから友好のメッセージを広く発信すべきなのか否か。本書は、この回答困難な問いに一定の理屈の通った答えを出すために、様々な分野を横断しながら情報を集め、整理していく。たとえば、知能をどう定義すべきなのか。地球外生命が利他的行動をとる可能性はどれぐらいあるのか。地球に似た惑星しか、知的生命の住処となりえないのか。
生命は天の川銀河に入植できるのか、文明はどのように終わりを迎えるのか。2019年あたりまでの最新の探査事情にも触れていて、この手の地球外生命探査本としてはいま一番読むべき一冊といえるだろう。
地球は奇跡の惑星か?
メッセージを送るリスクがどうとか以前の問題として、地球外生命が存在しないのであればお話にならない。依然として答えはないわけだけれども、いる説、いない説どちらも新しい説が出てきている。たとえば、地球外生命が存在しないことを示す強い仮説として、「生命は地球のような奇跡の惑星にしか存在しないのではないか」というものがある。
たとえば、大気の二酸化炭素を調整するために重要な火山活動を伴うプレート運動が太陽系では地球にしか存在しないとか、衛星である月や、太陽系の木星が地球に衝突する隕石を防いでくれているとか、無数の理由が「地球が奇跡の存在である」ことを支持している。だが──と、本書ではそれが絶対ではない理由も次々とあげていく。たとえば、大量に発見されているスーパーアース(地球の数倍程度の質量を持ち、主成分が固体の惑星)でもプレート運動が起こる可能性があるとか。
木星が地球に飛来する彗星を防いでくれているとする仮説についても、木星はむしろ四方八方に物を散らし、多くの天体を我々の方へ飛ばしているとするシミュレーションがある。つまり木星はむしろ生存には邪魔な可能性があるのだ。そう考えていくと「地球は意外と奇跡の惑星ではないかもしれない」という仮説も湧いてくる。それを後押しするのが、「銀河のハビタブルゾーン」という考え方で、これによると、地球は銀河のハビタブルゾーンの離れた場所に位置している可能性がある。
当初、銀河の中心は恒星の密度が高く、大災害である超新星爆発や惑星同士の接触が多く生命は立ち入れない場所だという考え方があった(『レア・アース』)。が、逆にそれは銀河中心には惑星を形成する材料がたくさんあることを示していて、中心から離れるごとに惑星はできにくくなる。そう考えると、地球は最適な位置にいるエデンの園のように思われているが、最良の場所に位置しているとはいえなくなってくる。
銀河帝国は存在するのか?
地球外文明が存在するとして、それらが惑星間を結び移動するような銀河帝国を築いている可能性はあるのか? 作り上げているとして我々はそれを観測できるのか? という問いかけもなされていく。
たとえば我々がそうであるように、地球外文明も発展に伴って相応に大きなエネルギーを必要とするようになるはずだ。そうすると、恒星をまるごと太陽光パネルのようなもので覆ってエネルギー源とするのが一番効率が良いのではないか、と想像した科学者(フリーマン・ダイソン)がいる。惑星規模の大規模な操作は観測可能な異変を生むから、それを観測しようという試みも生まれる。たとえば、ダイソン球はかなりの排熱を出すと予測されるから、ダイソン球があると仮定し、恒星や銀河全体を見て、余分な赤外放射を探すプロジェクトが実施された(1000光年の距離まで探したが、それらしいものは何ひとつみつからなかった)。
そもそも、そこまでの地球外文明が存在するのであれば探査プローブを送り込むなどできそうなものである。自己複製して光速の10%程度で移動できる探査機を送り出す文明を想定すると、長めにみても5000万年程度で天の川銀河を征服しつくしてしまう。そうであるならば、我々の目の前に地球外生命体による探査機が現れないのはおかしい。しかし、自己複製するとはいえ長い年月の間には放射線などによるコピーのエラーが起こるり、一部が確実に失敗する。それを考慮に入れ、モデル化すると、確実に波の流れは細くなり途中で途絶えるとする、SF作家で科学者でもあるジェフリー・ランディスによる「浸透モデル」理論もある。
「銀河帝国を作るような文明はなぜ我々のところにこないのか」問題については、アクロバティックな仮説もある。ブラックホールは時空に穴を開け、新たな子宇宙を作り出すことができるとする仮説をもとに、先進文明はブラックホールに自分たちの新しい宇宙を作ったりするので、我々の宇宙に彼らが現れない理由になるというのだ。先進文明はブラックホールをエネルギー源にしたりストレージにしたりする理論もあり、それ故にブラックホールに集まるのだ説もあり、いくらなんでもぶっとびすぎだが、とにかく思考を自由にはためかせていくのである。
おわりに
と、ざっと紹介してきたが膨大な本書の内容のほんの一部にすぎない。METI (Messaging Extraterrestrial Intelligence)の支持者たちは、良い結果を強調し悪い可能性は隠すが、METIの批判者は危険なシナリオを強調し衝動でリスクをとるなと主張する。どちらも極端な話であり、重要なのは情報を集めることだ。
近年、ケプラー宇宙望遠鏡などが集めた天文データに対して、機械学習を用いて特別な目当てなく奇妙なデータを収集・分析したり、大気中の二酸化炭素濃度を観測する(二酸化炭素は光の一部を吸収するので、分光観測で調べることができる)、「テクノシグネチャー」や「バイオシグネチャー」と呼ばれる手法も発展してきた。探査も分析もより高度かつ効率的になってきていて、意外とあっさり、地球外文明の痕跡が見つかってもおかしくはない、そう実感させてくれる一冊だった。