基本読書

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「宇宙の終わり」について現在の物理学から考えられる5つのシナリオ──『宇宙の終わりに何が起こるのか』

始まりあるものにはすべて終わりがあるというが、宇宙にもまた終わりはあるのだろうか。宇宙にもビッグバンという起点があるから、ないということはないだろう。著者はノースカロライナ州立大学の理論宇宙物理学者だが、これまで宇宙論関連の文献で宇宙は変化することなく永続すると示唆するものには出会ったことはないと語る。

おそらく、宇宙は終わるのだろう。しかし、どうやって? といえば、それは当然まだ確定しない。なので、本書は宇宙物理学界で現在議論されている5つのシナリオに沿ってどのように宇宙が終わるのかを解説している。どんなシナリオになるにせよそれは数百、数千億年先の話であって、今を生きている我々には明らかに関係がないことではあるものの、そうした絶対に自分が体験することのない未来のことも、ある程度の根拠を持って推測できるのが科学の、物理学のおもしろさであり、本書には宇宙ってこの先いったいどうなっちゃうのー!? というわくわく感に満ちている。

ビッグクランチ

というわけでざっと5つのシナリオを紹介してみよう。まず最初のシナリオは「ビッグクランチ」。前提として、宇宙は全体が膨張していて、空間そのものが日々拡大しつつある。当然、我々が属する銀河や他の銀河はどんどん離れ離れになっていく。

そうすると次に湧いてくる疑問は「それってどこまで膨張するのか?」である。普通に考えたら風船を膨らませ続けたら破裂するようにどこかで破綻しそうなものではあるが、一方、宇宙という常識を超えたものなのだから無限に膨張し続けてもおかしくない気はする──が、ビッグクランチは膨張には限界があるとする仮説である。

上に向けて放り投げたボールが上昇した後重力に負けて下に落ちてくるように、膨張が続いた宇宙はどこかのタイミングで自身の重力に負けて収縮に転じるとするのだ。

膨張する宇宙の物理学も、これとたいへんよく似た原理に従う。膨張を開始させる最初の推進力にあたるもの(ビッグバン)があり、それ以降は宇宙に存在するすべてのもの(銀河、恒星、ブラックホールなど)の重力が膨張を妨げるようにはたらいて、膨張を減速させ、すべてのものをふたたび一点に収束させようとする。

膨張する宇宙にしか住んだことがないので収縮したらどうなるのか想像できないが、銀河と銀河の距離は縮まり、それによって合体が頻繁におこり、あらたに恒星、惑星が生まれる可能性もある。そこにはひょっとしたら生物が生まれるかもしれない。だが、長期的にみれば収縮していくので、ひんぱんに超新星爆発が起こり、その放射にさらされて新しい惑星も、生まれたかもしれない生物も、綺麗に消えるだろう。

熱的死、ビッグリップ

2つ目のシナリオは「熱的死」だ。この宇宙は50億年ほどの間ずっと加速しているが、膨張を加速させるもととして、ダークエネルギーという観測こそできていないもののいないとおかしい、未知のエネルギーが関係しているのではないかと言われている。

熱的死シナリオとは、宇宙の膨張が終わることなく続き、それによって増大した空っぽの空間にダークエネルギーも増加して、膨張がいっそう進むという悪循環が進んだ果てに訪れる状況のことである。太陽などの恒星も何億年も経てばいずれ燃え尽き、燃えカスになってしまう。粒子が崩壊し、ブラックホールも蒸発(光さえも飲み込むとされるブラックホールだが、長い時間をかければ蒸発する)し、宇宙は空虚な状態になる。エントロピーの増大すら行われず、世界からは時間の矢すらも失われてしまう。

私には、次の事実をもう一度述べるしかない。時間の矢と熱力学第二法則は宇宙のはたらきにとって絶対に不可欠なので、エントロピーがもはや上昇しないなら、何も起こりえない。どんな組織構造も存在できず、どんな進化も、どんな種類の意味のあるプロセスも起こりえない。

続く3つ目のシナリオ「ビッグリップ」も熱的死と同じくダークエネルギーによる宇宙の膨張加速を前提にしている。この仮説では、ダークエネルギーの圧力とエネルギー密度の比(w)が仮に時間経過で変化して-1以下となった時(w<-1)、宇宙の膨張の加速速度が熱的死シナリオで考えられているレベルを遥かに超え、最終的には原子まで含めたすべてがばらばらになるとするなんともド派手な仮説である。

仮にこれが起こった時、最初は巨大な銀河団同士が離れ離れになっていくぐらいだが、すべての空間が膨張の一途をたどるので、損なわれていない構造はすべて内部の空間が膨張する圧力で大きな負担を受ける。太陽系と地球も例外ではなく、最初に太陽系の惑星の軌道がめちゃくちゃになり、月も地球を離れ、地球の大気は薄れ(地球の)表面プレートもカオス的に移動し、最後は爆発する(本当に本書にそう書いてある)『ものの数時間で、地球はもはや、自らを一体に保てなくなる。地球は爆発する。』

地球が爆発してもカプセルなどに入って宇宙空間で一時的には生き延びられるかもしれないが、やがて原子や分子を一体に保つ電磁力がすべての物質の内部空間が膨張し続けるのに絶えきれなくなって、分子それ自体がちぎれて原子へと解体。その後原子の中心にある原子核そのものが崩壊してしまう。これが「すべてがバラバラになる」の意味だ。一番恐ろしい説といってもいいが、今のところwの値が-1以下に変動しそうな兆候はなく、ありうるとしても1880億年以上先のことだとしている。

他ふたつ

他ふたつはさらっとすませると、4つ目のシナリオは「真空崩壊」。物を机の上などにおいておくと、それは安定しているように見えるが、場合によっては地面に落ちることもある。真空崩壊とは、我々の今の宇宙は安定しているようにみえても、実際にはこの机の上に置かれているような状態なのではないか、と示唆する仮説である。

仮に我々が何らかのきっかけで机から下に落とされると、何もかもが破壊される。『その転覆が起こることを、「真空崩壊」とよぶ。それは素早く、徹底的で、痛みをともなわず、完全に万物を破壊することができる。』

最後は、「ビッグ・バウンス」で、宇宙が膨張を続けた後に収縮して、そのまま潰れるのではなく跳ね返ってふたたび膨張するという理論である。何度も収縮と膨張を繰り返す場合は「サイクリック宇宙論」とよばれ、宇宙は果てしなく跳ね返りを繰り返し、無限にリサイクルが続く──これ、考え方としてはすっきりしているが、宇宙全体が原子以下の一点に収縮しつつある時に何が起こるのかは現状さっぱりである。

おわりに

本書の良いところは、こうしたシナリオをただ解説するだけでなく、なぜそうしたシナリオがありえるといわれているのか、というのをきちんとひとつひとつ前提から解説していってくれるところである。たとえば、真空崩壊に関して言えばヒッグス場や量子トンネル効果について、またダークエネルギー系の仮説では宇宙が膨張していると確証を持って言えるのは何故なのかなど懇切丁寧に説明してくれる。

宇宙終焉のシナリオはひと目を引くが、本書はそうした魅力的な謎を釣り針として、よりおもしろい宇宙物理学のトピックスにいざなかってくれる。著者が現役バリバリの宇宙物理学者であることも手伝って、執筆中に入ってきた最新ニュースなども積極的に取り込まれているのも嬉しい。