盛り上がっているとはいっても、よーしじゃあ自分もゲームつくるかあ! と入っていくにはハードルが高い。UnityやUEは手軽とはいえそれでもかなりの知識量や根気が求められるし、多くの人を楽しませるゲームを少人数で作ろうと思ったら、数年単位の時間はかかる。本業を持って片手間で制作を進められればそれが一番安全だが、それだといつまで経っても完成しなかったり、モチベーションを保つのも難しい。
ゲームを作ると一言でいっても、そこにはプログラムやグラフィック以外の多くの知識と手間も求められる。本書『インディーゲーム・サバイバルガイド』が取り扱っているのは、そうしたゲーム制作における具体的な開発以外の部分の情報、ガイドである。それも、ゲームをただ開発してストアに登録するだけではなく、それで食っていく、マネタイズのためにどうしたらいいのか、という知見が豊富に含まれている。
たとえば、作ったゲームをどう宣伝すればいいのか。プレスリリースを打つときに、何が必要なのか。キービジュアルの作成方法。パブリッシャーとの契約やイベントに出展する方法やその意味、税金や法人登記について。モチベーションを保ち続ける方法、海外展開の場合は翻訳家の探し方、収益の得方、販売計画の立て方、法律をおかさないためのTIPS、声優への依頼の仕方や相場観、デザイナーやシナリオライタに仕事を発注する分業のやり方、ゲームプラットフォームの手数料など、ゲーム開発に必要な、プログラミング周り以外の情報がここで網羅されているといっていい。
有名なインディーゲーム開発者らの対談
おもしろいのは、そうしたTIPSの合間にインディーゲーム開発者らの対談が挿入されていることだ。ほぼ個人で作っている人もいれば、少人数チームを組んで制作している人も、フリーランス的に働きながらその合間にゲームを作っている人もいて、と様々なスタイルの開発者がいて、どの対談もゲーム制作において参考になる。
たとえばカニ同士の対戦ゲームで大会が開かれるまでになったゲームである『カニノケンカ -FightCrab-』の開発者ぬっそさんと、猫耳少女のアンニカの冒険を3D環境で描き出し話題になった『ジラフとアンニカ』の斉藤敦士さんはどちらもゲーム開発会社に就職して経験を詰んだ後に独立してゲーム開発で食っている人たちで、経験があるからこその見積もりや見込み、また不安が語られていてまたおもしろい。
まだ環境が整備されているわけではないうえに、インディーゲーム開発は長ければ5年以上かかったりもするので、個人でゲームを開発して食っていく人生を選択することは、かなりの博打要素を含んでいる。それをどう軽減するのかが独立にあたっては重要だ。斎藤さんの方は、会社に勤めている最中にインディーゲームイベントに出していくうちにパブリッシング提案が5社ぐらいからきて、契約金もしくはミニマムギャランティーの話があったので2年位は生活が大丈夫かな、という目算があったからこそ退職に踏み切ることができたという。そのへんの見積もりの立て方というか、ダメだった時の退路を確保してこの道を選ぶのが、インディーゲーム開発を継続的に続けていくためには必要なことだ、というのは本書を通して繰り返されることでもある。
私がちょうど会社を辞めたときって、『ジラフとアンニカ』が50%くらいできていたんです。ちょうどそれくらいの進捗を出している人向けにいうと……みんながみんなこのやり方がいいかはわかんないんですけど、私は「あと2年で完成させる」とまず期限を切ったんです。2年間ぶんのスケジュールと予算を立てたんですよ。50%もできていると、あとはなにが足りなくて、なにを作らなくてはいけないかがある程度わかると思うので、そこを全部細かく書き出しました。誰に頼むかとか、ここにはこれくらいお金がかかるとか、計算して出しました。
一度ゲームをリリースして、ヒットしてお金が入ってきても(『ジラフとアンニカ』も『カニノケンカ』もインディーゲー界隈ではヒットしている方)、次作はどうしようか、という悩みもあるわけで、そのへんの不安も赤裸々に語られている。
現場の知見
対談では、実製作者たちならではの現場の知見が対談に多く盛り込まれているのもおもしろい。元チュンソフトの和尚さんと、『くまのレストラン』などで知られるDaigoさんのスマホゲーム開発者同士の対談では、ワールドワイドで遊んでもらえる可能性のあるゲームの場合、そもそも発展途上国でお金が払うことができなかったりすると広告を見れば最後まで遊べるアプリはすごく喜ばれるし、(ゲーム制作者側としては広告を入れるのは恐怖だが)そもそもユーザも広告モデルに慣れてきているとか。
投げ銭機能を入れても誰も課金しないから、ゲームクリア後にお金を払うことでスタッフロールやクレジットに名前を載せられる仕組みを開発したり、「課金の代わりに広告を(連続で)200回見てくれるなら遊んでもいいよ」システムの導入だったりと、マネタイズに関しての実験的な話が勉強になる。200回も広告なんかみねえだろ、と思いながら読んでいたのだが、そこにまた別のミニゲーム要素を追加することで広告を見るほうへユーザの行動を誘導していたり(具体的な手法は読んでほしい)、それもABテストで実施していたり、経験豊富なゲーム開発者ならではの手順を踏んでいる。
おわりに
他、対談では少人数のゲーム開発会社を立ち上げて制作を行う『グノーシア』の川勝徹さんと『ALTER EGO』の大野真樹さんだったり、フリーランスとして仕事もこなしながらゲーム開発を行う『アンリアルライフ』のhako生活さんと『in:darkインダーク』を出したおづみかんさんの対談だったりと、ゲーム開発を持続的に行い、マネタイズするためにはどうしたらいいのかについて、異なる視点の知見が溢れている。
『グノーシア』は複数人でプレイされる人狼ゲームをひとり用に落とし込んだゲームだが、こうしたチャレンジングなゲーム(データとして需要の確証がとりづらいこと、ひとりで遊ぶ人狼ゲームのデザイン上のノウハウがわからないことなどが参入障壁として挙げられている)を出せることこそがインディーの必要性なんだ、という話も対談中にはあって、「インディーだからこそできること」の観点がまたおもしろかった。
超具体的な本なだけに誰もが必要とする本ではないが、これを読むと個人・小規模ゲーム開発がより身近に感じられるようになるだろう。これからゲーム開発エンジンも発展していくだろうし、インディーゲームはこれからもっとおもしろく、数も増えるに違いない。本書を読んでインディーゲーム開発者が増えてくれれば、一介のゲーマーとしても素晴らしいことだ。