基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

ハヤカワ文庫JAから700点以上が50%割引の大型セールがきたのでおすすめを紹介する。

先日から早川書房から刊行されているSFマガジンではハヤカワ文庫JA全解説を3号連続で行っていた。僕も10点ぐらいの作品に解説を書いたのだが、その全解説がおわったこのタイミングで、ハヤカワ文庫JA700点以上の割引セールがやってきた。
amzn.to
このセール終了が12月2日なので滑り込なのだが、今回は僕が読了済みの中からオススメの作品を一部紹介してみよう。ハヤカワ文庫JAのラインナップはほとんどがSFやファンタジィで、小川一水の『天冥の標』から伊藤計劃の『虐殺器官』『ハーモニー』といった定番の作品から、この数ヶ月に出たような最新の作品まで幅広く揃っている。ハヤカワ文庫JAは先日出た『異常論文』で総計1500点になり、700点強は(電子書籍がない作品も多いことを考えると)かなりのカバー率となる。

新作・準新作

最初にこの一年ぐらいで刊行された作品からオススメを紹介しておくと、森山光太郎による異世界戦記三部作の第一部『隷王戦記1 フルースィーヤの血盟』が半額になっている。『銀河英雄伝説』や北方謙三の三国志や水滸伝が好きで、『ホビットの冒険や』『指輪物語』のような作品が、世界を一から作ってみたいという夢を抱かせてくれたと語る著者だけに、本作は異世界の作り込みがまず素晴らしい。

冒頭こそ様々な国家と勢力に分割され、世はまさに大乱世であった──みたいな戦記物としてはありがちに感じられるのだが、槍も剣も縦断も効かない邪兵を生み出す能力者など、数万の兵力に匹敵し戦況を一変させるほどの特殊な力が存在し、能力バトル戦記のような様相を呈している。能力の発動シーン、その演出などがまた最高にかっこいいんだこれが。全3部作で、現在2巻まで刊行中である。

続けて紹介したのは今年はじめに刊行された、本格的なスチームパンク系(蒸気錬金妖精譚)小説である花田一三六『蒸気と錬金 Stealchemy Fairytale』。蒸気機関を利用することで〈第五元素結晶〉の大量生産が可能になり、それに伴って蒸気錬金術が普及した19世紀末が舞台。表紙のかわいい女の子は蒸気錬金式幻燈機と呼ばれるAIのようなもので、語り手の売れない小説家の相棒となって未知の島である〈アヴァロン〉の探索に同行するのだが──といった流れで、蒸気錬金術士とそれとはまた別の力である〈理法〉の使い手、大英帝国とアヴァロンの対立が描かれていくことになる。19世紀の雰囲気・文化であったり、スチームパンク好きにはたまらない作品だ。今回のセールの目玉のひとつといえるのが、伴名練編集で日本SFの忘れられかけていた短編を蘇らせていくアンソロジー『日本SFの臨界点』シリーズである。複数作家の作品を集めた『日本SFの臨界点[恋愛篇] 死んだ恋人からの手紙』や『日本SFの臨界点[怪奇篇] ちまみれ家族』から、中井紀夫、新城カズマ、石黒達昌ら一人の作家の短編を集めたアンソロジーまで5冊出ている。中でも一冊あげるとしたら、オススメは今年の8月に出た『日本SFの臨界点 石黒達昌 冬至草/雪女』だ。

石黒達昌は近年作品を発表しておらず知る人ぞ知る作家になっているが(僕も読んだことなかった)、本書を読んでそのおもしろさ、日本SFの中でのオリジナル性に驚いてしまった。際限なく増殖する悪性腫瘍が身体にありながらも、それと共存しているようにみえる謎のホヤを研究して娘の神経芽細胞腫治療に役立てようとする弁護士の父親を描く短編「希望のホヤ」、横書きの論文形式で図表も用いながらハネネズミという架空生物の生態と構造を事細かく描き出していく「平成3年5月2日,後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺伸彦博士,並びに,」など、科学的・論文的な描写と構成がどの作品にも共通している。素晴らしい作品ばかりなので、読んでみてほしい。

ガンパレや刀剣乱舞で有名な芝村裕吏作品も半額になっている。中でも今年の2月に刊行されたばかりの『統計外事態』は、2041年の近未来の日本を舞台に、既存のデータから予測不能な「統計外の事態」に対応していく統計分析官を主人公に描き出す物語。日本や世界の行末が数々の統計と共に示されていて、展開自体は、え、そっちにいくの!? と驚くような方向にいって賛否分かれそうだが、おもしろいと思う。芝村裕吏作品の中で一番オススメなのは『セルフ・クラフト・ワールド』だけど。

シリーズ系

huyukiitoichi.hatenadiary.jp
セールだと嬉しいのがシリーズで何冊も出ているような作品をまとめて安く買えることで、いくつかシリーズ系でオススメの作品も紹介してみたい。ひとつ言うまでもないのは日本SF大賞も受賞した小川一水『天冥の標』で、とにかく超ド級のスケールの物語なので一度紹介した記事を読んで(ついでに買ってほしい)。

あとは現在日本のアクションSF小説の最高峰をひた走る冲方丁によるマルドゥック・シリーズも、最新シリーズである『マルドゥック・アノニマス』が最新6巻までまとめてセール中。漫画化や映画化もされた『マルドゥック・スクランブル』に触れたことがある人は多いかもしれないが、この『アノニマス』はその後のバロットが能力者たちによる”勢力”間の争いを描き出していて、集団能力バトル物としてもこれを超えるものは他にないんじゃないか、というレベルの作品になっている。他はアニメ化もされたゾーン物の傑作である宮澤伊織『裏世界ピクニック』も最新6巻まで、『機龍警察』シリーズも昨年12月刊行の3作目『機龍警察 暗黒市場』までセール中。4作目の未亡旅団はまだ文庫になってないのね。

それ以外

それ以外の作品を挙げていくと、たとえば『天冥の標』後の第一作である小川一水の百合SF『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』は、男女の夫婦者が大気を泳ぐ魚を捕まえて暮らす旧時代的な未来社会での同性間の愛情を描き出していく長篇で、比較的コンパクトに小川一水作品の良さが堪能できる一冊なのでオススメ。『横浜駅SF』の柞刈湯葉による初の短篇集『人間たちの話』は、気候変動によって地球の気温が0度以下になった終末世界を描き出す「冬の時代」からみなが監視社会を楽しんでいるゾットする光景を描き出す「たのしい超監視社会」、透明人間の科学的な道理をじっくりと描き出す「No Reaction」などその射程の広さと技の冴えが堪能できる一冊で、まだ読んでいない/持っていないなら一度手を出してほしい。

と、ざっとあげてみたがこんなかんじだろうか。次いつセールがくるのかまったくわからないので、僕もこういう時に読んだことがあったり紙で持っている本であってもけっこう買い直している。