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孤島に聳えるオメガ城へと6人の専門家+一人のジャーナリストが集められる、森博嗣最新ミステリィ長篇──『オメガ城の惨劇 SAIKAWA Sohei's Last Case』

この『オメガ城の惨劇』は、有料会員サービスへと移行したメフィストで目玉として連載されていた森博嗣による小説にエピローグを追加した長篇小説になる。

タイトルにギリシャ文字のオメガと入っていると、書名に『φは壊れたね』などギリシャ文字の入るGシリーズを彷彿とさせるが、これは特にシリーズ作品というわけではなく、いわば外伝、シリーズ外作品にあたるようだ(公式ホームページのシリーズ外小説に入っているので)。まあ、それは副題にシリーズ既読者には馴染みの深い「SAIKAWA」の名前が入っていることからも明らかかもしれない。
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S&Mで主役を張った後、他作品ではあまりその姿を表すことのない犀川創平のその後が判明し、しかもラストケースとくればシリーズ読者としては読み逃せないわけだが、今回は舞台も相当凝っている。孤島に存在する謎多きオメガ城。そこに、何の目的かもわからぬ招待状がサイカワ・ソウヘイを含む各分野の専門家へと届く。

普通なら多忙な専門家らが行くわけがないが、招待状の送り主には「MAGATA Shiki」と記載されており、もしかしたら……と期待を抱く人々は城へと集まってくることになる。ミステリィでは数多の傑作が並ぶ孤島、孤城もの。しかもそこに集まってくるのは各分野を代表する専門家(本文中では一度も彼らに対して「天才」という表現は使われないが(使われるのは真賀田四季のみ)、書籍紹介文には『招待に応じた六人の天才と一人の雑誌記者』とはっきり記載されている笑)──とくれば、西尾維新の『クビキリサイクル』も思わせる設定で、盛り上がらないわけがない。

これまでシリーズを読んできた読者へのご褒美のような長篇だ。

あらすじなど

物語の語り手は雑誌記者のミヤチ・ノエミで、日本人名だがフランスの雑誌記者で、漢字には弱い。そのため、登場人物は基本的に漢字表記ではなく、サイカワ、マガタ・シキとカタカナ表記で進行していく。各分野の専門家が呼ばれているわけだが、彼女の場合は出版社に招待状が着ていたので、編集長の代わりにやってきている。

他は量子力学が専門のジェリィ・グリーン、フランスで最も有名な数学者のアラン・レーヌなどそうそうたる面子である。そんな人物らが、出会ってすることとくればまずはいったい自分たちは何のために集められたのかという相談だ。そもそも招待が本当に真賀田四季からのものなのかすらわからないし、真賀田四季以外からの招待だったとしてその目的も不明。仮に真賀田四季からの誘いだったとして、実際に真賀田四季が現れるのか。また、現れなかったとして何が起こるのかも謎である。

招待客の7人が城に到着すると、そこには執事など城の関係者がいるが、彼らも何者かに雇われ派遣された人々であり、真賀田四季との繋がりはない。何事もなく全員を集めた食事会が始まるが、それが終わった頃、青い瞳の真賀田四季本人が彼らの前に姿を現すことになる。『「来るつもりはなかったのです。私の名前で皆さんが集められたことを知りました。責任を感じたわけでもありませんが、ちょうど近くにおりましたので、皆様のお顔を拝見して、お言葉を聞くのも一興と思いました」』

出現した真賀田四季は潜水艦に乗ってきたと語り、参加者らに簡単な言葉をかけ(『レーヌ先生には、期待しております。コンピュータ技術者は、固唾を飲んで見守っております。ただ、どんな形であれ、その応用技術は長続きしません(……)』)、すぐにその姿を消してしまう。映像的なトリックでも、ロボットというわけでもなさそうであり、あらためて自分たちが呼ばれた理由は何なのかを彼らは語り合うが、結局のところ答えはでない。そして、無論、孤島の孤城に集められた専門家らの間で何も起こらぬ訳もなく、その夜には殺人事件が起こってしまう──。

おわりに

いろいろ書きたいこともあるのだが、本作において明かせることは多くない。

事件の真相もそうだし、事件に関連した様々な謎(Last Caseと書かれているが一体何が最後なのか?、このオメガ城はなんのため、そもそもどこに建てられた城なのか?)もあり、読み進めていくたびに予想外の謎と真相が明らかとなっていく。犀川最後の事件!? どんなすさまじい事件なんだー!? と期待して読むと肩透かしを食らうかもしれないが、真賀田四季に犀川にとどまらず、あの懐かしのキャラにあのキャラまで──!? と番外編らしいというか、月刊誌の人気漫画が週刊誌に一話だけ出張してくるみたいな感じにファンサたっぷりな長篇である。