基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

またまた早川書房1600作品が50%割引の大型電子書籍セールがきたので、SF・ノンフィクション中心にオススメを紹介する

早川書房の1600作品が最大50%割引という大型の電子書籍セールが来たので、僕が読了済みのものからオススメを紹介しよう。早川書房は定期的にこの規模のセールをやることで知られているが、そのたびにラインナップが異なる。特に、前回のセール時には刊行間もなかった作品なども今回は多数セールに入っているので、今回は主に2022年1月〜以降に刊行されたセール品を中心にオススメを紹介していこう。
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まずは目玉のSFから紹介していこう。

早川書房公式ページの刊行年月リストから一個一個セールになっているかな……と確認していったのだが(Kindleページの検索機能が劣悪なので)、今回は特に小説が豊作だった印象。たとえば、最初に紹介しておきたいのは春暮康一の『法治の獣』

著者はハヤカワSFコンテスト出身者としては珍しい、科学考証を厳し目に行うハードSF系の書き手である。本作は第二作目にあたる、ファーストコンタクトをメインテーマに据えた3篇の中篇集だ。どれも《系外進出》シリーズと呼ばれる一連の未来史に属す作品で、地球から何十光年も離れた場所で、人類が未知の生物と出会う時の困難と興奮が生物学的にハードな筆致と共に描き出されている。

その生物の科学的・化学的な性質の書き込みの緻密さ、それを検証していく手付き、そして最終的にSF的なワンダーに結実する様など、日本初の生物学系SF✗ファーストコンタクト作品としてはトップレベルの作品で、22年刊行の日本SFでなにかとりあえず一冊探している人に、最初に手渡したい作品だ。オススメ。

神林長平を代表する《戦闘妖精・雪風》シリーズの13年ぶりの最新作(4作目)『アグレッサーズ 戦闘妖精・雪風』もセール中。未知の異性体であるジャムと大型戦闘機である雪風とそのパイロットである零、人間と機械の関係性の変化を通して知性とは、意識とは、人間の意味を問うてきたこのシリーズだが、巻が進むごとにより問いは観念的となっていった。今回は何がどうなったら人類はジャムに「勝利」したといえるのか。また、これまでフェアリイ空軍とジャム、その二者間の戦いで進行してきた物語が軸足を「人類社会」に移し、ここにきて作品世界が大きな広がりを獲得することになった。著者の「最前線」を堪能できる最新作だ。既作も全部セール中。

新人系のSF作品

新人系のSF作品も軽く触れていこう。第9回ハヤカワSFコンテストで優秀賞を受賞した、安野貴博『サーキット・スイッチャー』は自動運転とその内部に搭載されたアルゴリズムが生み出した悲劇とサスペンスフルに描き出した、技術描写の緻密さが光る長篇。現代の自動運転の課題を浮き彫りにする作品で、次作にも期待がかかる。同じく第9回コンテストで大賞を受賞した人間六度『スター・シェイカー』は荒削りな才能を見せてくれるテレポートSF長篇。誰もがテレポートをできるようになって一変した社会で、テレポートの仕組み、理屈を追求しながら(たとえば瞬時に移動するといっても地球は太陽の周りを凄まじい速度で公転しているのであって、どのように座標を計算しているのか? など)、とんでもない景色まで到達してみせる。また、AIテーマの長篇『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』でデビューを飾った竹田人造の受賞後第一作にして今度は法廷でのAI活用やサイバー技術の課題と可能性を扱った『AI法廷のハッカー弁護士』もなかなかの出来。

海外SF

続いて、海外SFを紹介していこう。最初に取り上げたいのは、第一次世界大戦中にインターネットや携帯電話が発展し、高度な監視システムが構築されたIFのドイツを描き出すアンドレアス・エシュバッハ『NSA』。ドイツがどのように監視体制を築き上げ、データを用いてユダヤ人や政府内の裏切り者をあぶり出すのか? をアンネ・フランクなど実在の人物を多数交えながら描き出していくのが魅力のひとつだが、そうした技術はそのまま現代の我々に対しても用いられているものでもあって──と、改変歴史のおもしろさだけではなく、現代的な意義も併せ持った作品だ。もうひとつ、これはSFであることを明かすこと自体がネタバレになる系の物語だが、フランス作家エルヴェ・ル・テリエによる『異常【アノマリー】』は2022年の海外SFとしては外せない一作だ。殺し屋や売れない作家、がんを告知された男など、何の繋がりもない人たちの生活が描写された後、彼らが乗り合わせ、未曾有の巨大嵐に遭遇した飛行機で”なにか”が起こったことが明かされていく。自分自身のありえたかもしれない未来や可能性を知ることについての物語で、ラストは衝撃的。刊行は一昔前だが新版が今年刊行されたのがニール・スティーヴンスンの『スノウ・クラッシュ』。メタヴァースの初出元として知られる。一時期Facebook(現Meta)のマネージャ陣は『スノウ・クラッシュ』が必読書だったとされているし、Oculusの創業者パルマー・ラッキーやGoogleの創業者ラリー・ペイジなどIT業界のそうそうたるプレイヤーが影響を受けた作品として本作を挙げている。今読んでも斬新な印象を残す(実は言語SFとしても優れている)長篇で、おすすめ。クリスティーナ・スウィーニー=ビアードのデビュー作『男たちを知らない女』は、男だけを殺す感染症が広まって社会の構成要員のメインが女性になった社会を描き出す、感染症&(『大奥』的な)ジェンダーSFの長篇。たとえば、清掃員や軍人、電気技師といったほとんどが男性で構成される職業はどうなるのか? 支配層の多数が男性の中国の政治はどう変わるのか──? など、思考実験的におもしろかった。他、続編系をざっと紹介していくと、ゲームが超有名になってしまった大河ファンタジィの《ウィッチャー》シリーズの短篇集『ウィッチャー短篇集2 運命の剣』も既刊すべてと合わせてセール中。個人的にウィッチャーは長篇もいいがそれと並ぶか超えていくぐらいに短篇が素晴らしいと思っているので、ファンタジィが好きならゲームを未プレイでも読んでほしいなあ。Netflixのドラマも良い出来だ。あとは、意識のみを自動恒星間探査機の制御役として取り付けられてしまった哀れなオタクのボブが、自身を3Dプリンタなどで複製しながら宇宙を開発していくさまをゲーム的に描き出したデニス・E・テイラー《われらはレギオン》三部作。その久々の続篇となる『われらはレギオン4 驚異のシリンダー世界』もセール中。

本作の舞台は前作から約40年後で、それだけの時間が経つとボブの複製は一万人以上になり、コピーのたびに微小な変更が加えられるためにボブたちの思想の違いがあらわになっていて、内紛が激化していく。あいかわらず筆致は軽快で、前三部作が好きだった人は必ず楽しめるだろう。

ノンフィクション系

続いてノンフィクション。最初に紹介したいのは、ジェフ・ホーキンスの『脳は世界をどう見ているのか』だ。われわれ人間は日々新たなことを学び、記憶し、未来を予測しながら複雑な行動をしてみせる。それは脳のどこが、どのような仕組みで可能にしているのか? を解説していく。その肝となるのは脳の7割もの容量を占める新皮質の基本アルゴリズム「予測」と「座標系」で──と、これ以上は複雑なので立ち入らないが、今年出た脳科学系の本でもトップクラスにおもしろかった一冊だ。脳科学・神経科学系でもいっこおもしろかったのが、デイヴィッド・イーグルマンの『脳の地図を書き換える 神経科学の冒険』。脳には可塑性(損傷から復活したり、柔軟に変化していく力)があることが知られているが、その研究の最前線を教えてくれる一冊だ。たとえば脳が半分なくなった子供が驚異の回復をみせた事例。目の不自由な人が点字を使って文字を読む時、脳の中で何が起きるのか。また、損傷以外の、脳神経の「拡張」の方向の議論についてなど、SF的にもおもしろい作品である。SF的という意味では、『オウムアムア 異星文明との遭遇』もおもしろかった。2017年に突如太陽系外から飛来した天体「オウムアムア」。これは当初常識はずれの形状と加速をしていたため、異星人の宇宙船なんじゃないか? という研究者もいたが、本書はその考察を行った一冊である。今では異星人の宇宙船ではないとする考えが支配的になったので、ちとテンションが落ちる本ではあるのだけど。ちなみに同じくセール対象の『最後の宇宙飛行士』もオウムアムアが関係する一冊。最近Meta社の凋落が激しいが、なぜそんなことになってしまったのかを描き出すのが『フェイスブックの失墜』というノンフィクション。自由な社風と責任感の欠如、マーク・ザッカーバーグに権力が集中しすぎて、ナンバー2のサンドバーグでさえ批判的意見を持っていてもそれを通すことができないなど、混乱が克明に描写されていく。いかに巨大な企業でも落ちる時はあっという間だ。『ハヤカワ文庫JA総解説1500』は1500点のハヤカワ文庫JA作品を何十人ものライターが総掛かりで全部紹介した一冊。全部読まなくても、持っておくと将来「あの作品ってどんな話だったっけ…」という時にさっと振り返ることができて便利だ。

新作というわけではないが触れておきたいもの

新作ではないが触れておきたい作品としては、映画が公開されたばかりの『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』は独立した二作を読むとリンクが浮かび上がってくる、特殊なSFである。平行世界の存在が実証された世界で、この構成だからこそできる仕掛けが仕組まれていく。映画はみていないので何もいえないが、小説は優れた青春平行世界物で、この機会に読むのも良いだろう。

『三体』とか『プロジェクト・ヘイル・メアリー』なんかの定番作品もセールになってます。

おわりに

と、ざっと振り返ってみた。期せずして今年のベストブック記事みたいになってしまったが、ベスト記事はベスト記事でまた別にあげるつもりなので乞うご期待。

あと、2022年以前の作品については前回セール時の記事も参考になると思うのでよかったらどうぞ。
huyukiitoichi.hatenadiary.jp