基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

兼業ライターの苦しみと喜びについて語る

明日3月1日に『「これから何が起こるのか」を知るための教養 SF超入門』という僕の初の単著が出るのだけど、これをPRするために(すでに書いた内容紹介文とはべつに)何か書きたいなということで兼業ライターの苦しみと喜びについて書いてみよう。初の単著、書くのは楽しい経験だったが、本業を別に持つ人間として、時間的制約など大変な面も多かった。そのあたりは話としておもしろいのではないか。
huyukiitoichi.hatenadiary.jp
最初に個人的な情報を明かしておくと、僕は都内のWeb系企業でプログラマとして働く30代の男性である。プログラマは23歳の新卒の時からずっとそうで、時によって正社員だったりフリーランスだったりと転身を繰り広げ、休止期間も時にはさみながらブログや原稿を書いてきた。転職を何度かしているので残業がある期間もない期間もあるのだが、この数年は残業はあまりしていない。また、昨年結婚しているが、二人暮らしで子供はいない。そうした人間の情報である(特に子供の有無は大きい)。

また、兼業ライターといっても僕の場合はメインフィールドが書評・ブックレビューであり、相当に特殊なライター事例(何をもって一般とするかにもよるが)であることも書いておく。

兼業ライターの喜び・良い点

収入面での補佐

で、最初に兼業ライターの良い点から紹介していきたい。いろいろあるが、ひとつは当然、収入面での補佐になってくれることだろう。僕も本業ほどではないが、確定申告が必要なほどには稼いでいるので、しっかりと家計の役に立ってくれている。基本的には本業の給与の範囲内で生活資金は貯蓄もふくめてまかなっているが、それにプラスアルファでお金が入ってきてくれるのは正直嬉しい。

別々のスキルを伸ばしていける

もう一つは、本業と副業が別の職種であるがゆえに、「別々のスキルを伸ばしていける」点にある。僕の場合は本業のプログラマーとしてのスキルと、ライターとしての文章を書き、文章を読む能力はまったく別々のスキルだ。しかし、完全に関係がないわけではなく、だからこそ役に立つことも多い。IT系やプログラミング系の知識・能力はそうした分野のSFやノンフィクションを読む時にも生きるし、逆にライターとしての文章能力もITの現場で生きる側面は多い。時に昨今はリモートで仕事が進行する分、Slackなどを使って文章で相手に自分の意図を的確に伝える能力は重要だろう。

メンタルの安定

これと関連した良い点のひとつは、二つの別種の仕事を持っているがゆえに「どっちかの調子が良くなくても、もう片方の調子が良い」ことでメンタルが安定的に保たれることもある。常に調子がいいときばかりではなく失敗することだってあるが、そんな時、もう片方の仕事が救いになってくれる(時もある)のだ。

人間関係

良い点の3つ目は、本業をやっているだけよりも人間関係が広がることだろう。僕の場合ライターは副業に加えて趣味だからこれは文脈的には「趣味の人間関係」に近いが、とはいえ仕事上の繋がりは趣味の関係とはまた違った緊張感/付き合い方があっておもしろい。僕はいま『SFマガジン』と『家電批評』で連載を持っているがその編集者とのやりとりや、それ以外の単発原稿のやりとりなど、いろいろと媒体や人ごとにやり方・進め方が違って、勉強になることが多い。たとえば、はてな経由で原稿を書くこともこれまで何度もあったが、どれもいい経験だった。

嫌な仕事が回避できる

良い点の最後のひとつは、「本業という収入の柱があるから、副業で嫌な思いを比較的回避できる」点にある。もし僕が専業ライターだったら、食っていくためにあまりやりたくもない仕事をやらないといけないこともあっただろう。しかし僕にとってはライター関連の仕事は収入源としてはあってもなくても構わないものなので、少しでもやりたくなかったり忙しかったり休みたかったら、気軽に断ることができる。

原稿料が割に合わないな、と思ったら、依頼が消えること前提で強気で交渉をすることもできる(例:この金額以下では引き受けられません、みたいに)。これは、個人的に「楽しく趣味の仕事をやる」うえで、とても重要なポイントだ。

兼業ライターの苦しみ

時間がない

一方で、もちろん苦しみがないわけではない。まず筆頭の苦しみといえるのは、時間がなくなることだろう。特にこれは僕が副業としてライターだけでなくこのブログを書いているからなのもあるが、常にやることがある。更新量は多くしたいし、それはページビュー以前に、ブログを書くのが楽しいからそうしたいのだ。

しかし、そうなると休みはなくなってしまう。特にこの3〜4年というもの、常に頭の片隅で「少しでも本の原稿を進めないと……」と焦りばかりあって、なにもない休日は(たぶん)一日も存在しなかった。連載原稿があるからその作業は毎月定例的に襲いかかってくるし、実際にはそれ以外の単発原稿も多い。中には何冊も本を読んで調べ物をしないといけないものも、何日かかけないと書けない原稿もある。

休日だけでは足りず、平日も19:00に仕事を定時で上がった後、ご飯を食べたり休憩をして、20:00から2時間から3時間ほど作業をする──そんな日が多い。締切前は日付が変わって寝る直前までうーんうーん言いながら書いているときも多い。

旅行先でも仕事

休みがないと何が起こるのかといえば、たとえば僕は数年前にイギリスに旅行に行っていた時も仕事の原稿を書いていたし、先週の福島の旅館に行った時も原稿を書いていた。昨年も本のゲラを一刻も速くかえさないといけなかったのだが、結婚にあたっての両家の顔合わせという一大イベントが重なったこともあった。その時も、相手の実家まで新幹線で移動し、会食の会場に行くまでの数時間の間に快活クラブに駆け込んで必死にゲラをやっていて、さすがにこれはよくない(僕自身が大変だし、そんなおいつめられた状況でやっていると仕事の質も下がる)と反省する出来事であった。

そうして時間がなくなっていって一番問題と言えるのは本業に使える時間もなくなっていくことで、業務時間中は集中しているのだが、プログラマは時間外学習も当たり前のようにやっている人が多い。僕の場合そうした時間はほぼとることができない。副業を持つことで収入を多角化させスキルも多方面に伸ばすこともできるが、一方でそれがどちらも中途半端にするリスクもはらんでいる。

暫定の結論

暫定の結論としては、本業と副業、どちらも共倒れになるほど余裕がなくなるのであれば兼業はやめたほうがよさそうだ。一方、それで耐えきれるのなら、兼業は多くのものをもたらしてくれる。僕は今のところ耐えられているといえそうで、専業ライターになるつもりもなければ、兼業ライターをやめるつもりもない。

しかし今考えてみるとこれは副業の種類が「ライター」という、それ単体で食っていくのが厳しいものであるがゆえのケースであるような気もするね。たとえばこれで僕の副業&趣味の種類が動画編集で自分が仕事がとぎれないぐらいの腕前だったら(よく知らない業界の話だから適当だけど)余裕で食っていけそうだし、こんな記事を書くわけでもなく、サクッと専業動画編集者になっている可能性はある。

ブロガーという喜び

そうした副業と本業との間に第三軸としてのブロガーもある。仮に僕が本業も副業も中途半端になってどちらの評価もかんばしくなくなり依頼がゼロになったとしても、ブログという自分の城があれば僕は好きな文章を好きなように書いて楽しむこと自体は保証されている。個人ブログは年々時代に取り残されていっているのは間違いないが、かといって僕の書くことの楽しみが減っているわけではない。*1

おわりに

というわけで本業と副業、また第三軸としてのブログを書くことについての話だった。時間がとれず本業も副業も共倒れになってしまったら問題外だが、この3つ+αをバランス良く、今後もがんばっていきたい。

結果的にあまり宣伝にならなかったが『「これから何が起こるのか」を知るための教養 SF超入門』、明日発売なのであらためてよろしくお願いいたします。

*1:この数年は他のことに手をつける余裕がなかったが、今後(というか今年)は動画の作成に手を出すのもおもしろいかなと思っている。自分が出てきて本を紹介するYouTuber形式ではなく、ゆっくりやVOICEROID解説系の動画を作りたいとずっと思っていたのだ(昔ニコニコ動画に投稿したこともあるのだが、やめてしまった)。