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東京創元社のSF小説50%割引の電子書籍セールがきたので、オススメを紹介する

創元SF文庫が創刊60周年ということで、創元SF文庫総解説などいろいろな企画が動いている。その流れのひとつで、ゴールデンウィークに合わせて創元SF文庫作品が中心にKindleで50%オフセールがはじまっているので、今回は僕の個人的なオススメを中心に紹介していきたい。このブログでは早川書房セールはよく紹介しているけど東京創元社セールの紹介ははじめてなので、掘り出し物もあるだろう。
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まずは豊富な海外のテーマ・アンソロジーから

今回はセールの総点数は60点とそう多くないが、その中でもオススメなのが海外SFのテーマ・アンソロジーシリーズ。たとえば2018年刊行の『スタートボタンを押してください』はゲーム系のSFを集めた傑作選で、『紙の動物園』のケン・リュウ、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』のアンディ・ウィアー、『ゲームウォーズ』のアーネスト・クラインが序文を書き─、装画はゲームのコンセプトアーティストなどを多数手掛ける緒賀岳志と鉄壁の布陣の一冊でゲーム好きには刺さるアンソロジーだ。他、一番新しいのだと巨大宇宙SF傑作選の『黄金の人工太陽』、銀河連邦SF傑作選の『不死身の戦艦』なども短篇の中にスケール性があっていいのだが個人的な好みでいえばAIロボットSF傑作選の『創られた心』が一番すきだ。労働用のロボットが導入された社会を描き出すものから”未来のロボットのための物語”としておとぎ話を翻案し語られていくソフィア・サマター「ロボットのためのおとぎ話」など、テーマアンソロジーながらも広がりの感じられる一冊だ。

話題の長篇

続いて話題の長篇を紹介していこう。その筆頭といえるのが、前人未到の3年連続ヒューゴー賞長篇部門を受賞した〈破壊された地球〉三部作の第一部と第二部が50%オフになっている。数百年ごとに〈第五の季節〉と呼ばれる天変地異が起こりそのつど文明が壊滅的な状態になってしまう過酷な環境を舞台に、エネルギーをコントロールできる特殊な力を持った”オロジェン”と呼ばれる人たちの物語が描かれていく。

オロジェンはこの惑星の文明を救う存在であると同時に差別も受けていて──、と差別のテーマも含みながら、三部作全体としては”惑星規模のサイエンス・ファンタジー”とでもいう、いわばFateの型月世界的なおもしろさの領域に踏み込んでいく。複雑な文脈と設定が混淆する話で、好みは分かれる作品だが好きな人にはたまらない。

話題作といえばデビュー長篇でヒューゴー、ネビュラ、星雲賞など全世界で9冠を達成した《叛逆航路》シリーズも現状全4巻がセール対象。数千の体を持ち、動かしてきたAI生体兵器が裏切りにあい一つの体に押し込められ、敵であり同じく数千体の自己を持つ皇帝を打倒するために動く──というのがメインプロットのスペース・オペラ/宇宙SFだが、艦隊同士のどんぱちはメインではなくジェンダーや差別と宗教の問題、さらには複数の自己を有することの意味や苦悩といったアイデンティティを描き出す、ニュースタンダードとでもいうべきシリーズだった。時代を表す作品だ。もう一つオススメなのが《巨神計画》三部作。一言でいえば巨大人型ロボットものなのだが、第一部、二部、三部でまったく異なるロボットもののおもしろさを堪能させてくれる長篇だ。たとえば第一部はアメリカで全長6.9メートルにも及ぶ巨大な「手」が発見され、体の各パーツが世界中に散らばっていることが判明したことからいったいこれは何者が残したものなのか、意図は、言語は、起動方法は──を周辺諸国との調整・諜報と共に描き出していくポリティカル・サスペンス。第二部はいよいよそのロボットが動き出して、それどころか──と二転三転していく。おもしろいよ!あと、ジョージ・クルーニー監督主演映画の『ミッドナイト・スカイ』原作の『世界の終わりの天文台』もセール中。映画は観てないのでわからないが、この原作小説は世界が終わりつつある中、北極諸島の端っこにある天文台にたった一人残り、研究を進めている男性がどこからか現れた見知らぬ少女と出会ってしまう話で、しっとりと進行していく。終末ものの雰囲気が好きな人にはおすすめしたい。

日本作家の作品

日本作家の作品も多数セールになっている。東京創元社は創元SF短編賞を開催して、短篇でデビューした作家を多数抱えている関係上、アンソロジーや短篇集が多い傾向にある。たとえば創元日本SFアンソロジーの《Genesis》シリーズは全5巻がセール対象。創元デビュー作家のみならず、ロボット✗ミステリーの《ユア・フォルマ》シリーズで電撃文庫デビューした菊石まれほだったり、小川一水の短篇だったりが(巻によっては)入っているのも嬉しい。個人的なおすすめは3巻『されど星は流れる』もう一つ、時間SFアンソロジーの『時を歩く』、宇宙SFアンソロジーの『宙を数える』も両テーマアンソロジーもセール中。各作家の特色が色濃く出た『時を歩く』も良いのだが、『宙を数える』収録の宮西建礼「もしもぼくらが生まれていたら」が、地球への隕石衝突回避を物理的にどうしたらいいのかをに学生らが計算しながら様々なアイデアを検討していくハードSF(+で仕掛けもある)で、日本では珍しいタイプの書き手&作品なので、一冊買うならこっちをおすすめしておきたい。アンソロジー以外でいうと、創元SF短編賞出身の作家、石川宗生の最初の短篇集『半分世界』は特におすすめ。表題作は会社から帰宅する途中の吉田大輔が突如として19329人に分裂してしまった話で、こうした「明らかにおかしい状況」になったら世界は、法律は、人権は、個人はどうなってしまうのかを緻密に描き出していく、最近の作品も紹介すると、代表作『裏世界ピクニック』がアニメ化もされた宮澤伊織の連作長篇『神々の歩法』も良い。ただ裏世界〜とテイスト自体は大きく違うので要注意。高次元の知性体が超新星爆発で吹き飛ばされ、地球にやってきて人間と融合した”憑依体”が存在する世界で、人類に攻撃を仕掛ける憑依体と人類を守ろうとする憑依体の戦いが描かれていく。設定と構造自体はほぼ『ウルトラマン』なのだが、舞台は未来なので米軍のサイボーグ部隊がサポートしてくれたり、SFっぽい理屈もたっぷり語られたりと、現代のアクションSFとしての読みどころも十分。空木春宵のデビュー短篇集『感応グラン=ギニョル』もあわせておすすめしたい。表題作は昭和初期、欠損のある少女ばかりを集め、血塗れの怪奇と残酷とを得意とする劇の一座「浅草グラン=ギニョル」に、心が失われた少女がやってくる。少女は心がない代わりに他人の思考や感覚を読み取り、他者に共有することができて──。

時代や舞台立てからもわかるように未来を志向したSFではなく夢野久作・江戸川乱歩あたりを彷彿とさせる、幻想・怪奇寄りの短篇が多いが、憎悪や情念を暗く美しく表現する能力が飛び抜けており、現代の日本作家の中でも唯一無二の存在といえる。

おわりに

あと、『フレドリック・ブラウンSF短編全集』も全部50%オフになっているのでブラウン好きは買っておくのがよいだろう(普通に買うと一冊3000円以上する)。

最後に宣伝

現実と紐付けてSFに入門するための『SF超入門』という本を書いたのでよかったら読んでね。東京創元社のSFもちゃんと紹介しています。