基本読書

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メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故 (講談社文庫)

地震発生、原発事故発生のリアルタイムに何が起こっていたのか、現場と政治や意思決定がどのようなプロセスの元行われたのかなどの詳細な記述から、その後の賠償責任をどうするのかの流れ、再稼働か、もしくは停止かといった判断がどのような情報の元、誰が行ったのかといったことの詳細かつ渾身のルポタージュ。約一年前に出たものに大幅加筆し、文庫化して最近でたみたいだ。

ここで明かされる内容は、かなりすごい。「未曾有の危機に対して果敢にリーダーシップと責任を負って決断する人間たち」というような前向きなすごさではなく、唖然としてしまうような責任逃れ、状況を誰も把握できておらず、組織間の情報伝達がまったく行われていない、勝手に空気を読んで保身の為の、まるで状況がわかっていない指示を出す。保身、保身、保身、能力の欠如。その結果としての、悲惨な現場。

「THE・日本企業」というかなんというか。たとえば上の人間は誰も責任を取りたがらず、「天災時の免責事項に当たる」として賠償を最小限に抑えようとする東電の意識は完全に「自分たちも被害者である」というもので、明らかに「東電以外」の人間と意識が異なっている。今まで殿様商売だったのだ。莫大な金を背景にあらゆる組織へ仕事を発注し、政財界への根回しも周到でそうした人間関係の維持に長けていた。

電力が不足しているので計画停電を行うというのも唖然とする話の連続で特に驚いたのが、東電から14日にいきなり計画停電をするという。いくらなんでも無理だということで枝野と福山が「自宅療養の患者もいるから大企業などの電力需要者に節電をよびかけて医療機関などへの電力を融通してくれ」と要請すると、藤本という東電電力需給担当の副社長は

「大口は当社のお客様ですから、節電してほしい、ということはできません」と突っぱねた。

らしい。まあなんともひどい話だ。状況のルポは詳細で、その時の混乱ぶりがよく伝わってくる。誰も現場の状況を把握していない。聴いても何も帰ってこない。打開策を求めても、技術者、科学者、経営者は誰も何も示せなかった。しかもそんな状況で3月13日に、朝のテレビ局の報道が東電に対してあまりよくないとなれば東電関係者は営業ルートで抗議をかけるなどそんな状況でも保身というか、平時の常識で動いていて笑っちゃう滑稽さだ。

事態がいったん収束してからも、こうしたどろどろとした物語は続く。銀行からの金の貸付、必死に天災時の免責事項をたてに賠償を逃れようとする、自分たちの給料を減らしたがらない、天下り、といった東電側の腐敗しきった状況から、政治の側では菅下ろし、さらには今後の「原発以後」の新しいエネルギー利権を狙って各種の思惑が入り乱れていくことになる。

大きな事故があって、そこで多くの教訓が生まれたおかげで今後原発は、前よりはかなり安全になっていくとは思う。それ以前に、既に技術的には今回のような旧タイプの原発だったからというのが大きい。今のほとんどのタイプの原発は水素を触媒を使って別の物質に変える仕組みが存在しているので、そうしたことはもう起こらないと言われている。

それでも技術的に遥かに進んで、自動でやってくれるようになり、今を生きている人達がみんな危機感を共有していても、今から生まれてくる子どもたちがそれを運用していく時に危機感を共有していないとダメなのだ。マニュアルに書かれたことをただやるだけしかできない人間では、かつてない状況に対応できない。

そしてそれが可能なんじゃろうか。今回対応のまずさは、ひとつの理由として東電が市場主義にさらされていなかったことがあるだろうメルトダウン ドキュメント福島第一原発事故 / 大鹿靖明 - 誰が得するんだよこの書評 公営でこそないものの失敗しても潰されないし、そもそも競争がないんだからそんなもんは民間ではない。

完全に計算できる環境下ならともかく、いろんな事象が関わってくる中でただ「市場にゆだねる」のが答えなのかというと正直よくわからないけど、とにかく現状のような「最悪のぐだぐだ」よりかは遥かにマシだろうと思う。……なにをやっても今回よりひどくなることがあるようには思えないけど。

本書を読んでこの国で危機にたいするときどんなことがその内部で起こっているのか、その一端を知るだけでも大いに意味があると思う。危機的状況下で何の情報源を頼りにするのか、政府の発表を待つか、と考えていたら死ぬかもしれない、とにかく自分で考えて行動するようになるだろうから。

メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故 (講談社文庫)

メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故 (講談社文庫)