基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

SF

臓器が別の臓器に変質する感染症が広がった近未来を、臓器移植や気候変動など多様なテーマで切り取っていくSF長篇──『闇の中をどこまで高く』

闇の中をどこまで高く (海外文学セレクション)作者:セコイア・ナガマツ東京創元社Amazonこの『闇の中をどこまで高く』は、アーシュラ・K・ル=グイン賞特別賞受賞作にして1982年生まれのアメリカ作家セコイア・ナガマツによる第一長篇だ。北極病と呼ばれる感…

2055年の未来の食事の風景はどうなっているのか?──『クック・トゥ・ザ・フューチャー 3Dフードプリンターが予測する24 の未来食』

クック・トゥ・ザ・フューチャー 3Dフードプリンターが予測する24 の未来食作者:石川 伸一,石川 繭子グラフィック社Amazon仮想世界やAIなど未来により発展していくとみられる技術はいくつもあるが、そのうちのひとつに「3Dプリンタ」がある。これは3DCGなど…

第11回ハヤカワSFコンテスト特別賞受賞作にして、刺さる人にはこれ以上なく深く刺さる物語──『ここはすべての夜明けまえ』

ここはすべての夜明けまえ作者:間宮 改衣早川書房Amazonこの『ここはすべての夜明けまえ』は、第11回ハヤカワSFコンテストの特別賞を受賞したSF中篇(もしくは短めの長篇といえるかぐらい)だ。特別賞は長さが短めだったり一点突破の魅力があったりで受賞する…

『完璧な夏の日』のラヴィ・ティドハーによる、どこか懐かしさを感じる未来の情景を描いたSF長篇──『ロボットの夢の都市』

ロボットの夢の都市 (創元海外SF叢書)作者:ラヴィ・ティドハー東京創元社Amazonこの『ロボットの夢の都市』は、第二次世界大戦直前に世界各地に現れた異能力者たちの暗躍を陰鬱なトーンで描き出す『完璧な夏の日』や、ヒトラーが失脚しロンドンに移り住ん…

SFが読みたい2024年版で海外篇一位を獲得した、悪に堕ちたロボットの人生を描く長篇SF──『チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク』

チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク (竹書房文庫)作者:ジョン・スラデック竹書房Amazonこの『チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・…

時間から猫テーマまで中華SFの粋が集められた、今年ベスト級のSFアンソロジー──『宇宙の果ての本屋』

宇宙の果ての本屋 現代中華SF傑作選作者:顧適,何夕,韓松,宝樹,陸秋槎,陳楸帆,王晋康,王侃瑜,程婧波,梁清散,万象峰年,譚楷,趙海虹,昼温,江波新紀元社Amazonこの『宇宙の果ての本屋』は、日本における中華SF翻訳・紹介の立役者立原透耶編集による中華SF傑…

『皆勤の徒』の著者最新作にして、今年いちばんおもしろかった傑作SF長篇──『奏で手のヌフレツン』

奏で手のヌフレツン作者:酉島 伝法河出書房新社Amazon酉島伝法はデビュー作の連作短篇集『皆勤の徒』と第一長篇『宿借りの星』が共に日本SF大賞を獲得と、寡作ながらもその作品は常に高い評価を受けてきた。そんな酉島伝法による最新作『奏で手のヌフレツン…

『闇の左手』などが連なる《ハイニッシュ・ユニバース》物にして、奴隷制度・ジェンダーを真正面から扱ったル・グインのSF短篇集──『赦しへの四つの道』

赦しへの四つの道 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)作者:アーシュラ K ル グィン早川書房Amazonこの『赦しへの四つの道』は、の『闇の左手』などの傑作群が連なる《ハイニッシュ・ユニバース》と呼ばれる世界を舞台にした、ル・グィンによる連作短篇集だ。原…

早川書房の2000作品以上が50%割引の電子書籍セールがきたので、新作SF・ノンフィクションを中心にオススメを紹介する

ブラックフライデーに合わせて恒例となっている早川書房の50%割引のセールがきているので、今回も一年以内に刊行された新刊を中心におもしろかった作品を紹介していこうかと。夏頃のセールが2700点がセール対象だったのにくらべて今回は「2000作品以上」と…

《竜のグリオール》シリーズ最終巻にして、ファンタジィの醍醐味がぎゅっと詰まった長篇ドラゴン・ファンタジィ─『美しき血』

美しき血 竜のグリオールシリーズ (竹書房文庫)作者:ルーシャス・シェパード竹書房Amazonルーシャス・シェパードの代表作のひとつ、《竜のグリオール》シリーズの最終巻が『美しき血』として本邦でもついに刊行となった。最終巻といってもこのシリーズは長い…

竹書房文庫のSFで電子書籍セールが開催しているので、おすすめを紹介する

竹書房文庫から刊行の《竜のグリオール》シリーズ全作刊行を記念して、竹書房文庫の中でもSFに絞った電子書籍セールが開催されているので(13日まで)、竹書房文庫の布教ついでに紹介しようかと。竹書房はSFのイメージは持たれていないかもしれないが、近年はS…

科学とSFの相互発展の歴史を、小説、映画、ドラマなど多方面から描き出す──『サイエンス・フィクション大全 映画、文学、芸術で描かれたSFの世界』

SF

サイエンス・フィクション大全 映画、文学、芸術で描かれたSFの世界グラフィック社AmazonSF、サイエンス・フィクションとはサイエンスとついているように基本的には科学をテーマ・取り扱ったフィクションのことを指す(科学を扱わなくてもSFに分類されるが、…

欧米で話題沸騰の気候変動にまつわるすべての領域を描き出そうとした野心的な気候変動SF──『未来省』

未来省(The Ministry for the Future)作者:キム・スタンリー・ロビンスン,坂村健パーソナルメディアAmazonこの『未来省』は、『レッド・マーズ』、『グリーン・マーズ』、『ブルー・マーズ』の三作からなる火星三部作や『2312 太陽系動乱』などで知られるキ…

全世界の誰もがこの人間の影響を受ける、お騒がせ男初の公式伝記にしてアイザックソンの最高傑作──『イーロン・マスク』

イーロン・マスク 上 (文春e-book)作者:ウォルター・アイザックソン文藝春秋Amazonこの『イーロン・マスク』は、その名の通りイーロン・マスク初の公式伝記である。マスクの伝記自体はこれまでにも出て、翻訳もされている(読んだけどおもしろい)が、その中に…

オールドスタイルなスペースオペラの土台に宇宙のすべてが乗っかった、圧巻のオープンワールドRPG──『Starfield』

store.steampowered.com ベセスダの新作ゲーム『Starfield』、XboxGamePassに加入してプレミアム・エディションを追加購入した人は9月1日からプレイできた。現時点で35時間ほどプレイし、各勢力のミッションもいくつかたしなみながらメインミッションも一応…

『SF超入門』のオーディオブックが出るのでオーディオブック自体の良さをオススメする。

「これから何が起こるのか」を知るための教養SF超入門作者:冬木 糸一AudibleAmazon僕は今年の3月に『SF超入門』という、SF(小説)の入門本、ガイド本を出したのだけどありがたいことにこれをオーディオブックにしてもらえることになった。オーディオブックは…

並行宇宙の地球〈怪獣惑星〉の怪獣たちを保護し、地球を守るために日夜戦う保護協会の面々を描く、『老人と宇宙』著者による怪獣SF──『怪獣保護協会』

怪獣保護協会作者:ジョン スコルジー早川書房Amazonこの『怪獣保護協会』は、『老人と宇宙』など数多のSF作品・シリーズで知られるジョン・スコルジーの最新邦訳長篇である。スコルジーはもともとSF愛好家であり、作品にもSF小説・映画・アニメネタが(時と…

現代ならではの形でAI・ロボットの反乱を描き出す、AI反乱SF傑作選──『ロボット・アップライジング』

ロボット・アップライジング AIロボット反乱SF傑作選 (創元SF文庫)作者:スコット・シグラー,チャールズ・ユウ,ヒュー・ハウイー,アーネスト・クライン,コリイ・ドクトロウ,ジュリアナ・バゴット,アレステア・レナルズ,イアン・マクドナルド,ロビン・ワッサー…

飲み会で顔をあわせた韓国作家らが生み出した、スチームパンク・シェアワールドアンソロジー──『蒸気駆動の男: 朝鮮王朝スチームパンク年代記』

蒸気駆動の男: 朝鮮王朝スチームパンク年代記 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 5060)作者:イ・ソヨン,チョン・ミョンソプ,パク・エジン,キム・イファン,パク・ハル早川書房Amazonこの『蒸気駆動の男』は、飲み会に居合わせた5人の韓国人作家がその場で盛り上がっ…

韓国SFに多大な影響を与え、現代韓国で「最もSFらしいSFを書く」といわれる作家のSF短篇集──『どれほど似ているか』

どれほど似ているか作者:キム・ボヨン河出書房新社Amazonこの『どれほど似ているか』は韓国の作家キム・ボヨンのSF短篇集である。「文藝」に掲載されたされた「赤ずきんのお嬢さん」や「SFマガジン」に掲載された「0と1の間」など断片的に作品が紹介されてき…

『ダリフラ』に影響を受けて書かれた、やりたい放題の中国風ロボットSF──『鋼鉄紅女』

鋼鉄紅女 (ハヤカワ文庫SF)作者:シーラン ジェイ ジャオ早川書房Amazonこの『鋼鉄紅女』は中国出身で幼少期にカナダに移住した作家・ユーチューバーのシーラン・ジェイ・ジャオのデビュー長篇である(21年刊)。タイトルにも入れたが、TRIGGER&A-1制作によ…

移民から気候変動までギリシャの問題が色濃く反映された、傑作ぞろいのSFアンソロジー──『ギリシャSF傑作選 ノヴァ・ヘラス』

ギリシャSF傑作選 ノヴァ・ヘラス (竹書房文庫 ば 3-1)作者:ヴァッソ・クリストウ竹書房Amazonこの『ギリシャSF傑作選』はその名のとおり、ギリシャのSF短篇が集められたアンソロジーである。版元は竹書房。流れ的にはイスラエルSF傑作選『シオンズ・フィク…

東京創元社のSF小説50%割引の電子書籍セールがきたので、オススメを紹介する

創元SF文庫が創刊60周年ということで、創元SF文庫総解説などいろいろな企画が動いている。その流れのひとつで、ゴールデンウィークに合わせて創元SF文庫作品が中心にKindleで50%オフセールがはじまっているので、今回は僕の個人的なオススメを中心に紹介し…

グレッグ・ベアの傑作&代表的中篇が二つまとまった記念碑的一冊!──『鏖戦/凍月』

鏖戦【おうせん】/凍月【いてづき】作者:グレッグ・ベア早川書房Amazonこの『鏖戦/凍月』はハードSFの巨匠にして『ブラッド・ミュージック』などの著作で知られるグレッグ・ベアの代表的中篇二つをまとめた一冊になる。グレッグ・ベアは1951年生まれの作家で…

インカ帝国「が」スペインを侵略した架空の歴史を描く、読む『シヴィライゼーション』とでも言うべき改変歴史長篇──『文明交錯』

SF

文明交錯 (海外文学セレクション)作者:ローラン・ビネ東京創元社Amazonこの『文明交錯』は、スペインがインカ帝国を征服した史実を反転させ、逆にインカ帝国がスペインを征服していたら世界はどう変わっていったのかを描き出す歴史改変長篇だ。著者は『HHhH―…

今まで意識したこともなかった領域に言葉で触れる方法を教えてくれる、期待の新進アメリカ作家のSF短篇集──『アメリカへようこそ』

アメリカへようこそ (角川書店単行本)作者:マシュー・ベイカー,田内 志文KADOKAWAAmazonこの『アメリカへようこそ』はアメリカの新進作家マシュー・ベイカーの初の短篇集の邦訳である。どうやらアメリカでは「注目すべきストーリーテラー10人」に選ばれるな…

物理術師から幻術師まで、大きく異る方向の天才魔法使いが6人集められ、最終的に排除する1人を決める、ファンタジー×SF長篇──『アトラス6』

アトラス6 上 (ハヤカワ文庫FT)作者:オリヴィー ブレイク早川書房Amazonこの『アトラス6』は著者オリヴィー・ブレイクがロースクール在学中にセルフパブリッシングで刊行したのち、爆発的に人気が出てAmazonPrimeでのドラマ化も決定している話題のファンタ…

魔術的闘争と共にアメリカの黒人差別の歴史を描き出す、ドラマ原作にもなったホラー連作短篇集──『ラヴクラフト・カントリー』

ラヴクラフト・カントリー (創元推理文庫)作者:マット・ラフ東京創元社Amazonこの『ラヴクラフト・カントリー』はファンタジーや幻想系の作品で知られるマット・ラフによるホラー・幻想の連作短篇集となる。まだ黒人差別が色濃く残る1950年代を舞台に、黒人…

生物兵器による破滅から宇宙人の侵略まで、幅広く滅亡を考察していく──『人類滅亡の科学 「滅びのシナリオ」と「回避する方法」』

人類滅亡の科学 「滅びのシナリオ」と「回避する方法」作者:マーシャル・ブレイン日経ナショナル ジオグラフィックAmazonこの『人類滅亡の科学』はその署名通りに、人類の滅亡のパターンをリストアップし、それに対してどのように滅びうるのかという「滅びの…

史上初の三年連続ヒューゴー賞を受賞した、惑星規模のサイエンス・ファンタジー三部作、ついに完結!──『輝石の空』

輝石の空 〈破壊された地球〉三部作 (創元SF文庫)作者:N・K・ジェミシン東京創元社Amazonこの『輝石の空』は、『第五の季節』、『オベリスクの門』に続くサイエンス・ファンタジー《破壊された地球》三部作の完結巻である。なんといっても注目すべきは、歴…