基本読書

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ワンクリック―ジェフ・ベゾス率いるAmazonの隆盛

いま世に広がる巨大IT企業の創設者たちの伝記はどれもおもしろい。伝記の定義がよくわからないからこの言葉を使うのはとりあえずやめよう。まあ活動を追った著作、というぐらいにしておいて。FacebookザッカーバーグAppleジョブズGoogleのセルゲイ・プリンにラリー・ペイジ、そしてなんといってもマイクロソフトビル・ゲイツ

今や国家を超えるほどの巨大企業を作り上げてきた彼らはやはり幼少時から天才と名高く、学生の頃には既にその才能を開花させている。夢は誰も彼も大きい。全員失敗するビジョンがまったくみえない異才の人間どもだ。ビル・ゲイツは世界のすべてにパーソナルコンピュータを届け、Googleはこの世のすべてを検索可能にし、Facebookは人間関係を円滑にさせる公共事業であると言っている。

そしてそのどれもがまだ途上にあるのだ。どれだけデカい夢なんだよ、という話でもある。ジェフ・べゾフのAmazonも、かれらの大望に負けていない。

「我々は、電子商取引ならココという場所になりたいと考えています。誰かがなにかをオンラインで買いたいと考えたとき、それが我々が取り扱っていない物であっても我々のところに来てもらえるようになりたいのです。オンラインで買ってもいいかなぁと思う物をオンラインで簡単に見付けられるようにしたい──売るのが我々でなくても、です」

と語っている。この「売るのが我々でなくても」という部分がけっこう重要で、本書で繰り返し語られるAmazonの、というかベゾスの「顧客第一主義」を表現しているものになっている。たとえばカスタマーレビューを出した時も、「売り物に酷評をつけられるようにするなんて!」と忠告があったそうだけど、けっきょくのところ顧客は「正当な評価」を欲しがっているわけで、これを担保することで最終的な売上に通じると考えているようだ。

本書で個人的に面白かったのは次のようなものだ。1.悲観的で、あまり目立たなかったという他の大IT企業創設者たちとは違ったベゾスの人間性、2.シンプルな目標と、シンプルな戦法、3.今では当たり前になった文化が当初どのように受け取られ、あるいは発想されたのかを知ること。 3についてはカスタマーレビューのようなことだ。今ではあって当たり前のものだけど、当初は馬鹿なことをしていると批判されたわけだ。

1については、これがけっこう面白いんだよね。学生時代のベゾスは友人談からすれば強烈な印象を残すタイプではなかったらしい。あんまりもてなかったみたいだし。「私は、初めて会って30分で『彼、かっこよくない?』と女性に言ってもらえるタイプではありませんから。ぼうっとしているほうで……『こういう人を探していたのよ』と言ってもらえるタイプではないのです」と自分でも語っている。なんか惨めだ。億万長者なのだが。

もっとも卒業した後、事業を起こすためにまずは会社に入って学ぼうということで入ったり、転職してわずか26歳で副社長になったり、能力自体はとてつもなくあったのだろう。アピールが下手だったのかもしれない。学生時代というやつは自分からアピールしないとなかなか能力がわかりづらいが、実業の世界は結果がわかりやすいので、評価も早かったのかもしれない。

2のシンプルな目標の部分だが、これが実をいえば一番すごいと思う。まだオンラインでのビジネスがそれ程一般的でなかった時に、「オンライン書店を起こす」と決めて、そこに向けて起業のパワーを集中させる。技術志向ではないが、とにかく収益の上がりがわかりやすい。そしていきなり手を広げるのではなく、「本」に絞ったのも凄い。

まずは仕入れが多く、よく知られていて、種類がたくさんあって(インターネットの利点が活かせる)と本の売買はとにかくインターネットとよくマッチしていた。ちなみに開業資金はほぼすべて自分と、それから家族から出してもらっておりその理由を「スタートアップが多少なりとも成功する確率はわずかに10%、自分の可能性もたぶん30%ぐらい」と考えていたからだという。これもまた現実的ではある。堅実だ。

Amazonの社是は「人々がオンラインで買いたいと思うモノがすべて見つけられる企業、顧客第一主義を世界で一番実現する企業になる」だそうなのだけど、シンプルだね。で、このシンプルさはその次にいっても変わらない。次というのは、注文システムの話だ。有名なワンクリック注文システムがあるけど、これも当たり前になった感があるが最初は画期的だった。押せば、くるんだから。注文システムをする時の摩擦は限りなく少ない。

「いかに効率的に注文を行い、届けるのか」が最上の目標としてあるように思う。そうした発想から、キンドルストアをみるとまた違ったことが見えてくるのではないか。ようは「いかに効率的に注文を処理」したとしても、「物を運んでいる限りタイムラグは避けられない」のである。しかし「デジタルに出来るものは、デジタルに」することによって、発送のタイムラグすら完全に消滅させることができるのである。

KindleHDは映画や音楽まで入れることが出来る。シェア的にはiPadにまだまだ負けているだろうけれど、配信の方で有利に立っているのはKindleだろう(Apple電子書籍Storeが最近出たが、どうなるだろうか)。映画と音楽ではまだまだAppleが強いからなんともいえないかな? とにかくこの競争が最終的にどのようなバランスをみせるのか気になる所でもある。

ベゾスは他の創設者たちと比べてあまり目立たないけれど、その行なっていることはGoogleマイクロソフトの掲げる目標にまったく負けていないぐらいシンプルで、革新的で、破壊的である。読んでおいて損はない本だ。

ワンクリック ジェフ・ベゾス率いるAMAZONの隆盛

ワンクリック ジェフ・ベゾス率いるAMAZONの隆盛