基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

2014-01-01から1年間の記事一覧

海賊と資本主義 国家の周縁から絶えず世界を刷新してきたものたち by ジャン=フィリップ・ベルニュ,ロドルフ・デュラン

これは海賊の概念を我々が普段想定するような「海で船を襲って身代金をとったり荷物を奪ったりする、海の盗賊」的なところからさらに抽象化し、資本主義や国家のルールから不可避的に発生する海賊システムが存在するという「組織論」で、真新しくて考え方が…

別荘 (ロス・クラシコス) by ホセ・ドノソ

時間は伸び縮みし、現実の有り様は歪む。秩序が崩壊し、既存の生活様式を破壊し、奔放な想像力を自由にさせるがままに任せたような象徴的な空間とエピソードが連続して物語を紡いでゆくこの本をいったいどのようにして紹介したものなのかさあ書きだそうとし…

昆虫はすごい (光文社新書) by 丸山宗利

昆虫はすごい。昆虫がいなけりゃあ繁殖できない植物がいっぱいある。生態系のかなめだ。昆虫自身の繁殖方法も多様で、繁殖が終わった瞬間にメスの餌になってしまったり、遺伝子を混合させずに自分と同じ遺伝子を持った子孫を残す種がいたり、自分の種を別の…

vN by マデリン・アシュビー

SF

未来はどうなっていくんだろう。もちろん2000年にスマートフォンやタブレットが街中を席巻している2015年を予測できなかったのと同じように、あらゆる場面での精確な未来予測など不可能な話ではある。2020年に何が起こっているのか? 大規模な戦…

全ての力を尽くして天冥の標シリーズをオススメする

この世にはたくさんの感動がある。山登りをする人間には、山を登っている時の空気の味、一歩一歩踏みしめていく時の感触といった他に代えがたい感動があるだろう。将棋をやっている人間には、将棋でしか味わえない読み合いが成立した一瞬、自分が知力の限り…

天冥の標VIII ジャイアント・アーク PART2 by 小川一水

天冥の標第一部からここまで、撒かれてきた種がここに来て一斉に芽吹きはじめた──。天冥の標が出て最初に書かれた時系列までようやく辿り着き、別側面から描いてみせたPART1だが、「その先」が書かれるのがこのPART2になる。もはやことここに至ってネタバレ…

人類は衰退しました 平常運転 (ガガガ文庫) by 田中ロミオ

シリーズの物語的な完結巻である第九巻発刊時のあとがきで触れられていた短篇集がついに出た。書き下ろしは4割ほどで、残りはアニメのBD/DVD用に書き下ろされた短編を収録したものになる。書き下ろしは時系列を巻き戻して〜というわけでもなく普通に第九巻…

四人制姉妹百合物帳 (星海社文庫) by 石川博品

これは面白かった。ただ……表現しづらい面白さだ。面白いのは確かだが、ぼかぁいったいこれのどこにこれほどの感銘をうけたのだろうか、それがいまいちわからない。いや、「どこに」なら正確にわかっていると言えるのかもしれない。本書は職業小説家である石…

なぜローカル経済から日本は甦るのか (PHP新書) by 冨山和彦

アベノミクスによるトリクルダウンの効果を非常に一面的に見積もっているのではないかとか、貿易赤字はそこまで問題じゃないでしょと思ったり、細かいところで異論があるけど発想部分は面白かったな。それは著者が学者ではなく経営コンサルタント、経営者で…

遁走状態 (新潮クレスト・ブックス) by ブライアンエヴンソン

記憶というのは主観的なものだからか、自分にとって重要でいつまでも記憶の隅にこびりついて離れないものが、他人にとってはどうでもいいことだったりすることがよくある。たとえば自分を例にとれば、小学生の時のことだ。スイミングスクールに一人で、バス…

つぼねのカトリーヌ The cream of the notes 3 (講談社文庫) by 森博嗣

今までさんざん森博嗣さんのエッセイシリーズにはいろいろ書いてきているので今更何か書くことがあるのかと言われれば別にないのだが。⇒つぶやきのクリーム the cream of the notes - 基本読書 つぼやきのテリーヌ The cream of the notes 2 (講談社文庫) by…

玩物双紙 by 新城カズマ

歴史は人の手によって書かれていくものだから、文字情報だけに頼って我々が歴史を概観すると「歴史の勝者の情報操作」に抵抗することは困難になってしまう。勝者はいかようにも歴史を書き換えられるのだから。ただし、それも言葉だけのこと。人の語る歴史を…

太陽・惑星 by 上田岳弘

世の中には「こいつは文章を、物語を書くために生まれてきたような人間だ」と思わせるような圧倒的な力を感じさせる作品を出してデビューする作家がいるが、久々にその感覚を味わった。唖然とするような発想。それをバカげた話で終わらせない説得力。最終的…

トネイロ会の非殺人事件 (光文社文庫) by 小川一水

いつもはド直球の長編SFばかり書いている小川一水さんだけども、短編も傑作揃いで芸が細かい。ただそんな中でも本作はミステリっぽい話を3編集めた短篇集になる。SF系短編はイメージの飛躍とロジックの詰め方が絶妙なイメージがあるけれど、ミステリ系の短編…

理不尽な進化 :遺伝子と運のあいだ by 吉川浩満

ダーウィンの進化論とはなぜこんなにも世間一般で誤解され続けるのか、また実際の進化論・自然淘汰説とはどのような理論なのか。また生物学という学問分野で起こった論争を丁寧に追って、分解し解説していくことで実証主義に重きがおかれる科学の分野でどの…

文体の科学 by 山本貴光

ほとんどの場合文体を論じるといえば小説かもしくは詩についてだが、本書は法律文から科学における文章、批評から小説、辞書まで幅広い分野の文体を視野に入れ、一つ一つ文章上の特性を確認していく内容になっている。さらには単に書かれた文章それ自体を見…

ニルヤの島 by 柴田勝家

SF

一読してするりと飲み込める作品ではないが、その分きっちり読めば応えがある。こりゃまた随分とえらい変化球を投げ込んできたものだと拍手したくなる一作だ。著者の柴田勝家さんは第二回SFコンテスト受賞作でこれが新人デビュー作だが、構成的にも語り的に…

日本経済はなぜ浮上しないのか アベノミクス第2ステージへの論点 by 片岡剛士

アベノミクスも始まってから2年が経とうとしており、その成果もある程度見えてきたところだ。ただ、インフレターゲットを設定しての金融政策、財政政策を行っていくと断言したとはいっても魔法でもなんでもないのだから影響が出てくるのには時間がかかる。…

はやぶさ2の真実 どうなる日本の宇宙探査 (講談社現代新書) by 松浦晋也

現在時点で打ち上がっている可能性もあったはやぶさ2だが、現状延期中で次の予定は12月3日になっている。一応予備日として12月1〜9日までおさえ、計算しているはずなのでそのどこかでは打ち上がってくれると信じたいところだ。小惑星も天体も常に動…

森博嗣・泣き虫弱虫・グッデイ

話のまくら さあさあさあ2014年11月も本日で終了になりましてとうとう2014年最後の月へと移行してしまう今日この頃みなさんいかがお過ごしでしょうか。僕はといえば今年はゆっくりと休養をとってぜんぜん働かなかったので元気いっぱいだし2014…

孤独の価値 (幻冬舎新書) by 森博嗣

思考を自由にするために、思考をする。この『孤独の価値』を読んでいて、森博嗣さんがここ何年か出している新書群を一言で言い表すなら、こういう表現が良いのではないかと思った。たとえば昨年出版された「やりがいのある仕事」という幻想 (朝日新書) - 基…

グッデイ (ビームコミックス) by 須藤真澄

我々は今のところ将来的に全員死ぬ。小学校入学より確実に死ぬのだから、みんな準備しておけばよく、なぜそれじゃあこの世界では死別がとても悲しいものかのように描かれるのだろうと不思議に思うところだ。しかしそれはいつ死ぬかはほとんどの場合、当人に…

セラピスト by 最相葉月

記事を書くかどうか結構悩んだ本(内的なブログに載せる基準に達しているか否かの判断)だったけれども、やっぱり面白かったから書くことにした。内容としては河合隼雄と中井久夫のカウンセリング界隈では有名な二人を主軸にして、箱庭療法やカウンセリング…

宇宙人相場 (ハヤカワ文庫 JA シ 4-3) by 芝村裕吏

SF

いやあ、これは素敵なお話だ。読み終えたあとしみじみとして、じわじわと心地よさが広がっていくような。特別なことはほとんど起こらない。宇宙人と相場という異質な単語が組み合わされているものの、別に宇宙人が人間には理解できない金融取引をするとか、…

インターステラー観た(ネタバレしまくり)

観た。いやー凄かったなあ。もう観終えた後呆然としてこれはいったいなんだったんだろうと考えているうちにあっという間にスタッフロールが終わってしまった。長かった。トイレに行く間もないほどの緊迫感の連続だ。とにかく金額を集める上で通るのが不思議…

泣き虫弱虫諸葛孔明 by 酒見賢一

第四部を読んでいてもたってもいられなくなったので、この類まれな傑作三国志小説について、簡単なシリーズ総評を書いておく。シリーズは現在まだ続く。第一部、第二部は文庫化済みであり、第三部はまだ。第四部は今日出た。 酒見賢一が獲得した新しい語りの…

偏愛蔵書室 by 諏訪哲史

普段本についてあれこれ書いているせいか、あまり人が本についてあれこれ書いた文章を読みたくないと意識的に避けてしまう。出来が悪ければイライラするし、出来が良ければ自分が書こうと思えなくなってしまうからだけど、それ以前に好みの問題もある。僕は…

エウロペアナ: 二〇世紀史概説 (エクス・リブリス) by パトリクオウジェドニーク

僕が普段よく行く、平日の12;00〜14;00に来た人は500円でカットしてもらえるという10分カット真っ青の激安髪切り屋では切り終わった後必ず「髪すいときますか」と聞いてくる。すいとくってなんやねん、すいとくことによるメリットとデメリットを提示せえや…

見てしまう人びと:幻覚の脳科学 by オリヴァー・サックス

我々は、現実をありのまま見ているわけではない。赤外線も見えなければ紫外線も見えないし、網膜に刺激がきてから知覚が成立するまでに約100ミリ秒の遅れが存在している。我々が見ている世界は常に現実から遅れ、脳が処理した映像を「見せられている」と言え…

地上最後の刑事 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) by ベン H ウィンタース

書名からして出オチ感半端ないけれども、人類が滅亡しかかっていて小さい村に一人だけいる刑事──とかそういう意味ではなく、半年後に小惑星が地球に衝突して人類はあぼーんするよという世界で懸命に刑事稼業に励む刑事さんを追っていくお話だ。こういう大味…