- 作者: マイケル・グッドウィン,ダン・E・バー,脇山美伸
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2017/03/17
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ではどのように歴史を紡いでいくのかといえば、「資本、資本家、資本主義とは何か」という根本的な部分の話からスタートし、後は現実に起こった事態に対して、「なぜそれは起こったのか?」「経済学はどのような理屈をつけたのか?」「その結果として、後に何が起こったのか?」とwhyを重ねて物語を進展させていく。
たとえば社会主義経済を説明する時に、かつて試されたものの、いろんな意味で失敗したダメダメな方法でした、というだけでなく"なぜ人々は社会主義に傾倒したのか"という当時の状況まで含めて解説をしていくのである。経済は人間の様々な営みの結果に影響を受けるから、経済史で起こった出来事をきちんと解説しようと思ったら、政治や外交政策、環境科学、心理学から戦争の歴史まで、無数の側面に触れていくことになる。だから本書は単純に経済史の本というのも違っていて、より正確に言い表すならば世界の歴史を経済的視点にフォーカスしたもの、といった感じだ。
さあ、その肝心の内容だが、これが大変素晴らしいの一言。約300ページの中に350年あまりの歴史が凝縮されており、それぞれの項目が短いながらもきちんと解説されていく。たとえば米国を大混乱に陥れたサブプライムローン問題に割り当てられているのは僅か3ページだが、その中にリスクの高いローンがどのような理屈のもと生成され、リスクなき投資にみせかけられたのか、どうしてその流れが止まらなかったのか、なぜAIGが破綻してしまったのか、といったことが全てまとめられているのだ。
もちろん文字はそれ相応に多いが(判型もデカイし)、イラストはコミカルで、何より全てがひと繫がりのストーリーとして語られていくのでやたらと楽しくストレスなく読める。だいたいどんな人でも3時間程度で読みきれるだろうし、それだけの時間で神の見えざる手、マルサスとリカード、社会主義と民主主義の対立、マルクスの資本論、ケインズの一般理論などなどなど、経済学における基礎的な知識が手に入るのだから、特筆して紹介するような部分こそないものの尋常な本ではない。
おわりに
本書に前書きを寄せている金融評論家のデヴィッド・バックは『経済学について10冊の本を読んでも、これほど多くの情報は得られない。』と書いているが、物によるとはいえこの意見には同意できる。特に時間あたりの効率でいったらマンガであることも手伝って本書がベストだ。経済史について詳しい人であっても、家に一冊置いておくと、ついつい忘れてしまった時や再確認したい時など大いに役に立つはず。
僕にとってこれまでにそのポジションにある本はクルーグマンの本や『入門経済思想史 世俗の思想家たち』などだったが、本書はその隣に置かれる一冊だ。
- 作者: ロバート・L.ハイルブローナー,Robert L. Heilbroner,八木甫,浮田聡,堀岡治男,松原隆一郎,奥井智之
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2001/12/01
- メディア: 文庫
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