基本読書

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寿命一〇〇〇年: 長命科学の最先端

よく「なんでもっと未来に生まれて来なかったんだろう」と考える。そしたら火星にいけたかもしれないし、ひょっとしたらもっと遠くまでいけたかもしれないし、いま・ここでは想像もできないような状況に立ち会えたかもしれないのにと。22世紀まで生きてドラえもんが生まれるかどうか確認してからじゃないと死にたくない。

寿命が一〇〇〇年あれば、22世紀にドラえもんが生まれるかどうか確かめることが出来る。一〇〇〇年も生きたら飽きてしまうかもしれないが、そうしたら自分で自分が死ぬ日を決めればいい。自分で自分が死ぬ日を決めるというのは、ことの是非をおいておけば、人間として自由な在り方だと思う。他の動物にはできない高度な決定だ。

本書がおっているのはオーブリー・デグレイという一人の異端の科学者だ。彼は人が老いて死んでいく原因は主に7つにまとめられるとして、この問題をすべて解決することで人は死から解放されると主張している。当然多くの生物学者から反論から倫理的な反論まで様々な攻撃にあうが、誰も彼の話を科学的に否定できてはいない。

最初デ・グレイが書いた不死についての論文では、死を招く9つの老化原因について語っている。その後足したり引いたりして、最終的に7つにおさまった。これらの原因はいずれもよく知られているもので、とっぴなものではない。デ・グレイが主張していることの特異性は、「代謝は理解しなくていい。代謝が生み出す複雑でないたった7つの廃棄物(老化の原因)を取り除くだけでいい。」という部分にある。

ようするに僕達の身体は常にかっかと燃え上がり運動し三六度以上の温度をたもっていて、そこで何をやっているのかは複雑でよくわからんけど長生きするためにはそんなことを詳しく知る必要はないということだ。

下記に簡単に7つの老化による死亡原因についてまとめてみた。

1.体内の分子が年齢とともに絡まり、硬くなり、あらゆる場所でくっついていく
2.年齢と共に起きるミトコンドリアの衰え
3.細胞内にたまるゴミ
4.細胞外間隙にたまるゴミ
5.細胞が老いて、機能をはたさない厄介者になること
6.一部の細胞が死に、まわりの細胞に毒素をばらまくこと。
7.細胞核の遺伝子が突然変異を起こし、癌になること。

これら7つの要因は、どれかひとつを解決すればいいという問題ではない。どれも加齢とともにリスクがあがっていく問題なので、たとえ7個中6個を解決したとしても、結局最後の問題にリスクが集中してしまえば人間の寿命は一〇〇〇年には到達しえないだろう。なので真に寿命を伸ばそうと考えたら、これら7つをすべて解決する必要がある。

そして解決法とされるのが以下の7つだ。

1.絡み合い、くっついた分子結合は、絡んだ場所を切る医薬品を使えばいい。
2.ミトコンドリアについては、健康なミトコンドリア遺伝子を細胞核内に注入すれば、老化細胞が衰えるのを防ぐことが出来る。
3.細胞内のゴミは、細胞のゴミ処理システムを刺激して掃除させる。
4.細胞外のゴミは、身体の免疫系を刺激することで排除する。
5.老いた細胞は免疫系を強化してこうした細胞を取り除くことが出来る。
6.細胞が死に、毒素をまらまくことも免疫系で解決できる。
7.癌は……難しい。

癌は難しい。癌は突然変異で発生する。突然起こる癌をどうやって予防したらいい? ただこれにもデ・グレイは解決策を見出している。もちろんまだまったく実用化されてはいないが、理論としては読んでいて非常に面白かった。概論はこんなようなものだ。

細胞の染色体の末端にはテロメア(真核生物の染色体の末端部にある構造。染色体末端を保護する役目をもつ。Wikipediaより)というものがある。こいつは細胞が分裂するたびに短くなるので、細胞は無限に分裂することはできない。テロメラーゼと呼ばれる修復酵素も体内にあるが、こいつは加齢にともなってとぼしくなり、染色体はすり減って限界にいたる。

老年学者は老いて朽ちていく細胞にこのテロメラーゼをどうやって供給するかを考えているが、癌研究者はこの逆──つまり癌が増殖しないようにテロメラーゼを如何にして締めだすかを考えている。癌細胞からテロメラーゼを除去できれば増殖はとまるが、問題は身体にとってテロメラーゼは不可欠なものだということだ。

デ・グレイは「実は不可欠じゃないし、取り除いてもいいんじゃないか」と提唱した。テロメラーゼ遺伝子を除去すると、体内のすべての細胞がテロメアを修復できなくなる。それはつまり新しい細胞が作れなくなり、血液・腸・皮膚などを維持するために定期的な新しい幹細胞の抽出処置を行わなければいけないことを意味している。

しかし細胞は異常な分裂をおこさず、新しい細胞をつくることができず、突然変異が起こらない=癌は発症しなくなる。新しい幹細胞を手でどうやって与えるのかというのはいまのところ誰も知らない・実現できない。ただ将来にわたって出来ないと考える理由はない。癌になると、細胞は不死身になる。だから、そうした細胞の発生を防ぎ、私たち自身が不死身になるのだ。*1

生存に不可欠な機能をとっぱらってやれというなかなかファンキーな説だ。正直言ってまったく魅力はないが、将来のことを考えればそうも言っては居られない。環は一箇所でも弱いところがあると、そこから切れてしまうのだ。もし最後の一箇所が残ったら、この方法が検討されるようになるだろう。

さて、僕らはそのうち一〇〇〇年生きられるようになるんだろうか。そもそも生きられたとして、生きるべきなのだろうか。ヒトラーのような人間が一〇〇〇年の独裁国家を築きあげたり、一部の人間だけが何もかも独占するような未来が来ないとも言えない。うーんどうなんだろうな。個人的な感情だけで言えば、人が死ぬなんて不自由な真似を許したくないと思う。あなたはどう思うだろうか。

寿命一〇〇〇年: 長命科学の最先端

寿命一〇〇〇年: 長命科学の最先端

*1:p219