はじめに
本の雑誌2020年11月号から転載します。この月はやっぱり『LIFESPAN』が良かったな。老いがなくなった世界はどのように社会が変わっているのだろう、というところもがっつりかいていて、SF読者的にもおもしろかった。このあと、2021年には訳者の梶山さんを交えた『LIFESPAN』の読書会にも参加したりしていました。
本の雑誌2020年11月号原稿
- 作者:デビッド・A・シンクレア,マシュー・D・ラプラント
- 発売日: 2020/09/01
- メディア: Kindle版
本書で著者は、人間の老化のメカニズムを解き明かし、その仕組み上老化は治療可能な病気であると宣言してみせる。著者が追い求めているのは単に最高寿命や平均寿命の延長ではなく、「健康でいられる期間の延長」だ。そのために、我々は何をすればいいのか。寿命がのびた結果、社会にどのような変化が訪れるのか(たとえば、誰もが一二〇歳まで生きるようになったら、社会保障費は耐えきれるのか)といった問いかけを、裏付けとなる豊富な研究と合わせて語っていく。終盤には著者が老化を抑えるために実践している手法も含まれているが、そのリストは明日からでもはじめられるものが多い。現状、老化研究はマウスでの実験が多く、人間での研究成果はまだまだ少ないが、健康でいる期間をのばしたい人には一読を薦めたい。
- 作者:ガイ・レシュジナー
- 発売日: 2020/08/26
- メディア: 単行本
無呼吸症候群を発症し、睡眠の質が下がるも強制的に空気を入れ気道を開く治療用のマスクをつけたことで八年間ではじめて夜中に一度しか起きなかったと語る患者など、不眠の苦しみから解放された人々の喜びのエピソードで満ちているのも読んでいて楽しいところ。睡眠の問題は誰にとっても明日は我が身。眠りについて興味があったり今まさに不安を抱えている人には、ぜひ手にとってもらいたい。
「第二の不可能」を追え! ――理論物理学者、ありえない物質を求めてカムチャツカへ
- 作者:ポール・J・スタインハート
- 発売日: 2020/09/03
- メディア: 単行本
スタインハートはそれを理論面から実証しただけではなく、自然界にも準結晶が存在するのではないかと探索を始め、違法な鉱物ブローカーや怪しげな旧ソ連の元研究所所長にコンタクトをとり、最終的には存在が怪しい準結晶採取のため専門のチームを組んでカムチャツカへ──と高齢の物理学者とは思えない冒険の旅に出る。準結晶の解説書としておもしろいのはもちろん、冒険譚としても楽しめる快作だ。
- 作者:スヒルトハウゼン,メノ
- 発売日: 2020/08/18
- メディア: 単行本
たとえば、ロンドンの地下鉄に住む蚊は、蚊が行き交うことのない路線ごとにそれぞれ独自の遺伝的特徴を備えている。この蚊は、通常は鳥から吸血し、群れで交尾し、冬眠を行う。が、地下鉄の蚊は、通勤者の血を吸い、群れを形成せず、冬眠せずに活動するように特殊な進化を遂げている。つまり、活動期間から交尾活動、栄養補給の方法まで都市用に変わっているのだ。都市は生物を辺縁へ追いやるだけの存在ではない。都市も「自然」の一部なのだ、と都市を見る目を一変させてくれる。
- 作者:マーク W モフェット
- 発売日: 2020/09/03
- メディア: Kindle版
スポーツを変えたテクノロジー―アスリートを進化させる道具の科学
- 作者:スティーヴ・ヘイク
- 発売日: 2020/09/15
- メディア: 単行本