基本読書

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『国際秩序 - 18世紀ヨーロッパから21世紀アジアへ (中公新書)』細谷雄一

すごく良い本。ニュース情報を聞いているだけだとついつい日中関係や日米関係、日韓関係といった二者関係を前提に全てを捉えてしまう中、国際秩序を面として捉え、乱立する大国間でどう秩序が保たれてきたか、表向きの条約や協定、その背後で動いている論理を教えてくれる。たとえば冷戦下では、西ドイツ、イギリス、日本、アメリカが同盟を組みソ連および共産主義陣営が行動に至らないように押さえ込んでいた。現代ではアメリカ、EU、日本が組み、中国、ロシアと牽制しあっているような状況であるといえる。

このように世界の大国間ではパワーバランスが常に変化してきた。その背後で動いている秩序原理として、本書では「均衡」「協調」「共同体」の3つの概念を使って説明している。「均衡」とは勢力均衡のことを指している。力と力が均衡すること、まあ主に軍事力だけど。軍事力が拮抗していればお互いに容易く相手側を攻撃することはできずに秩序は保たれることになる。恐怖の均衡ともいえる。

「協調」とは国際利益をゼロサムに考えず、共通利益を求められるといった考えを実行するものだ。協定、条約、なんでもいいがとにかく「仲良くしましょうね」と二国間でも三国間でもいいので決めて、これを守ることで協調の体系が完成する。しかしこれも難しい話で、価値の共有が行われていないと協調もうまくいかない。裏切ったほうが利益が高ければ容易く裏切られてしまう。

最後に「協調」をより深化させた形のものが「共同体」という概念だ。いってみれば「ちゃんとすごい国連」みたいなもので、みんなが意識や価値観をあわせて集い、法体制を含めて整備され、実行力を持ち、とにかく多様な国家間が現実的な意味で歩調をあわせていけるようなものを言っているのだと思う。

本書が面白いのは上記3つの概念を使ってヨーロッパの国際秩序を見ていくのだが、まさにこの概念に当てはまる形で世の政治家が判断し、行動してきたのだということがわかることだ。正直言ってニュースをみていても国際関係とかって何が何なのかよくわかんなーい! と思っていたのだけど、こうやって「秩序」を3つに分類して整理してもらえると、問題の把握がすっと楽になる。

人類の歴史上ほとんどの期間は勢力均衡によってバランスが保たれてきた。18世紀から19世紀になるにつれて技術力の変化や新興国が現れてくることによってパワーバランスに変化が起こる。フランス革命が起こり、国際秩序の形も勢力均衡から協調の体系へと変化を遂げたり、価値観の共有がうまくいかずに失敗したりする。自由主義経済を信奉する国と、それ以外とでは価値観があわないように。

その後にやってくるのは協調なき均衡だ。単純なパワーバランスによって国の争いを回避する。そこで登場するのがかの有名なビスマルクで、彼がヨーロッパ間でのバランスを一手にとりしきり、新しい勢力均衡をつくりだした。綱渡りじみた連携の数々で、実際彼が職を辞したすぐに国際秩序は崩壊することを考えると、一個の人間が世界に与える影響ってデカいんだなあと読んでいてなんだか感動してしまった。

ビズマルクが去った後、勢力均衡のことをまるで考えられていない外交によって協調なき均衡すらも崩れ去った。戦争と殺戮の時代がやってくる。第一次世界大戦だ。ここでは秩序を維持していく上でこれまでと異なる3つの問題があった。1つに巨大すぎる帝国であったドイツをどう扱うのか。2つに日本やアメリカの出現によりヨーロッパの5大国だけでは秩序を維持できなくなったこと。

3つに勢力均衡そのものの否定。軍備増強が終わりない螺旋に入って、危険なバランスの上に成り立っており、勢力均衡そのものが戦争を起こすのではないかということだ。最初に述べた3つの概念のうち、最後の「共同体」こそが世界を安定に導くのだとする意見がアメリカのウィルソン大統領から出てくるようになる。それはいわば「均衡なき共同体」とでもいうべきものであった。

パスカルは「力のない正義は無力であり、正義のない力は圧倒的である。力のない正義は反対される。なぜなら、悪いやつはいつもいるからである。正義のない力は非難される。したがって、正義と力とを一緒におかなければならない。そのためには、正しいものが強か、強いものが正しくなければならない」といったが、「均衡なき共同体」は力なき正義であり中身がなかった。

ヨーロッパの、そしてそこにドイツ日本アメリカ、そして中国が加わった国際秩序が今までどうやって保たれ、または崩れ去ったかをみていくと何がダメで、何がいいのかがみえてくる。協調や共同体の為にはまず価値観がズレていないことが重要であり、それ以上に均衡が成立していなければ協調も共同体も存在しない。

日本はもはや大国の1つであって、どこに肩入れをするかで国際的な均衡が一気に崩れてしまう可能性がある。本書で書かれている「均衡」「協調」「共同体」の3つの概念で踊ってきた国際秩序の歴史を前提にいれて現状の国際秩序や、他国の目指している場所をみると驚くほどよくわかるようになっている。