基本読書

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SFまで10000光年 by 水玉螢之丞

SFまで10000光年

SFまで10000光年

絵と手書き文字で彩られたページはいつも独特な雰囲気を漂わせ、当たり前のようにそこにあったのでこの先もずっとあるものだと思い込んでしまっていたが、終わるときは終わってしまう。本書『SFまで10000光年』は昨年の12月13日に亡くなられた(解説、大森望さんの言葉を借りれば「最大公約数的には、たぶん、イラストレーターということになるだろう」)水玉螢之丞さんの、同名のSFマガジンでの連載をまとめたコミック・エッセイのような作品である。1993年1月号から一旦の区切りと成る2002年12月号までが納められている。SFマガジンではその後、2003年から『SFまで100000光年』と名前を変えて、亡くなる直前まで連載を続けていた。cakes.mu
↑どのような連載だったのかは上記の傑作選を見るのが一番わかりやすい。たぶん、会員登録してお金払わないと読めないけど。

コミック・エッセイ的なといっても、手描きの文字がページを埋め尽くしていることもあり、少なくともSFまで10000光年に限って言えば、その割合は6:4か7:3で文章が多いぐらいじゃなかろうか(もちろん月によって逆に絵の方が多かったりするのだが)。2015年にSFマガジンで書かせてもらうようになる前、僕はSFマガジンは買ったり買わなかったりだったけど(おい)、買った場合は必ず目を通していた(というより、ぱらぱらめくっていると必ず目にひっかかってくる)連載の一つだ。

連載の内容はまさにエッセイといった感じで、身の回りのことや時事ネタ、考えたことなどを主にSFに(そりゃ、SFの専門誌だからね)絡めて語っていく。絵も、話題に関連するイラストから4コマや3コマや1コマのマンガが載せられていることも多く、自由度が非常に高く毎月の連載であることからも、当時水玉さんがハマっているものとその移り変わりが明確にみてとれて面白い。Gガンダムにハマっている時だったら、無関係な話題にドモンが絡んだ絵が(オレは文庫でしかSFを読まないケチな男だ……としょんぼりしているドモンの絵が素敵だ)連続していたり、エヴァ当時はカオルくんとシンジくんの絵が乱れ飛ぶ。

連載開始当初こそ、「えらいところに迷い込んじまったな……」みたいな、おっかなびっくり感のある連載なのだけど、7回の連載を経て月2ページに移行し、星雲賞のアート部門をダン・シモンズのハイペリオンなどと並んで受賞し、そこからどんどんSFマガジンに(というか、この連載形式に、というか。)馴染んでいく(割り切っていく?)変貌もまた楽しい。SF者であるだけでなく、強いこだわりを持つ広い範囲にわたったオタクでもあり、手書きの文とイラストで「好きなもの」が充満している2ページはぱらぱらとめくっているだけでもその熱量に圧倒される。

水玉さんの連載を読んでいて好きだったのは、そうした極度にオタク的な自分の感性と同時に、それを突き放した客観的な視点が同化しているところだ。もちろんプロである以上、そうした客観視の能力は殆どの場合誰しもが持ち合わせているものでもある。だから、その能力を「持っているから凄い」というわけではないんだけれども──なんていうのかな。バランス感覚が凄いんだろうな。たとえばこんな話題の絶妙なバランス感覚とか、伝わるかなあ。

やっぱさあ、「おもしろかったけどSFじゃない」てな言いぐさって、曲がってるもん。よく言うけどオレ。もしくは、うんと好意的に(って、誰にだよぅ)解釈するならばですね、「おもしろいSF」を読んだ記憶を大切にしたいと思う心が、「SFだったけどつまんなかった」と口にしてしまうような人にはなるまいとさせてるのかも。いや、「つまんなかったけどちゃんとSFだったからOK」とか言っちゃうような人、かな。そういう──カミングアウト(笑)してない、とか言うとまたアレですけど──決して自称しようとしないSF者のひとたちの方が、ほんとはSF、を正しく愛してるのかもなあ、とか思ったりもする今日このごろ。てゆーかぶっちゃけた話、「悪い見本」が多すぎんのか? もっとぶっちゃけるとソレっておれなのか? とりあえずあやまっとけ(オイ)。ごめんッ。」*1

硬質ではなく、柔らかい文体だけれどもその主張はいつもド直球。SFにかぎらず、オタクとして強い矜持・こだわりがありながらも同時にそれを決して他人には押し付けないあたりの距離感、なのかなあ、とは思う。

最後に年代的・扱われている話題的な話しもしておくと、僕がSFやらアニメを見始めたのは2007年頃な上に、ここで描かれているのは、幼少期(1993年時点で4歳か)のことで、全然知らない情景だ。エヴァのリアルタイム世代からちょっと外れている。それでも、本書は日記でこそないものの当時のアニメ放映やらゲーム発売をリアルタイム的に反映させていて、「ああ、この時エヴァがやってて、終わったんだな……」「ああ、この時ドラクエⅥが出たんだな……」とか、当時の情景がSFに絡ませてみえてくるのが面白い。

おわりに

さて、まだSFマガジン連載分に限っても2003年から連載開始された「SFまで100000光年」は丸々残っているわけだし、今後も様々な書籍化が続くと、嬉しい。亡くなってからいい人だった、すごい人だったと反応するのは簡単だが、できれば生きているうちにこういう思考は伝え──られるかどうかは別としても、Web上の片隅に残しておきたかったなと少ししんみりと思いつつ、今後の行動につなげていきましょう。

*1:元は手書きの文字なので、汗マークやら改行など細かいところは再現できてません。