- 作者: 古橋秀之,矢吹健太明
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2018/02/02
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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プロローグとエピローグを合わせて計50篇、そのどれもで独立した設定・キャラクタを立ち上げ、奇妙な話から物凄いバカ話、ハードSFちっくな話から昔話のSF風アレンジまで本格的なSFショートショートがこれでもかと詰め込まれている。もともと古橋秀之さんは傑作『ある日、爆弾がおちてきて』を筆頭に、短い話が(も)抜群にうまい作家だったのは知っていたけれども、その切れ味は衰えるどころかますます増していたんだなあ(書かれたのはもう何年も前の話なので)と思うばかりだ。
基本的には全部独立した話なのだけれども、プロローグは、少年である「私」が矢吹健太朗イラストレーションによる超絶おっぱいのデカイ美女メイドロボットに、「寝る前にひとつだけでいいからお話を聞かせてよ」とねだる場面からはじまる。彼女は今でこそお屋敷につかえ少年のお世話をするメイドロボだが、ここに来る前はほうぼうを見て回ったのだという。気になって眠れないよという「私」に対して、メイドロボ(眼鏡搭載)は、ではひとつだけお話しましょうと切り出し、『「そう、あれは──百万光年のちょっと先」』と語り始めるのだ(第一話でタイトル回収のパターン)。
そこから語られていく48篇はつまり、全てが少年に聞かせる寝物語でありまあようはシェヘラザードであり千夜一夜物語である。時にメイドロボはお話から少年に対してある種の教訓を導き出してみせ、時には不思議な話ですねえとぶったぎり、とまるで自分が少年になって物語を読みかせてもらっている気分で各ショートショートを読み進めていくことになる。矢吹健太朗イラストが随所に投入されていて、これがまた最高にいいんだな……(銀髪長髪メイドロボがそもそも良すぎるという話もある)。
ちなみにすべてのお話は『百万光年のちょっと先、今よりほんの三秒むかし。』という語り出しではじまるのだけど、このちょっととぼけた感じがまたたまらない──というわけで具体的にそのうちから気に入ったもの/あるいは設定的におもしろかったものをピックアップし、もちろんのことオチは秘したままでご紹介してみよう。
いくつか紹介していく。
トップバッター「死神と宇宙船」はどっちが前だか後ろだかわからない宇宙船”どっちが前だか後ろだか分からない号”が行く珍道中。どっちが前だか後ろだかわからない号はどっちが前だか後ろだかわからないせいで問題を引き起こしていくのだが、ついに寿命を迎え、死神に出会って死の宣告を告げられてしまうが──。トボけた感じでどっちが前だか後ろだか〜を繰り返し繰り返して述べていくのがたまらない。
大規模戦争中のとある惑星で、徴兵年齢の引き下げが行われ続けついに誕生する前、培養された受精卵を装甲服に入れて”生まれる前に兵士として仕立て上げる”奇妙な制度が生まれてしまった世界でのあっと驚く”誕生”を描く「卵を割らなきゃオムレツは」。なんにでも化けることができ、宇宙に存在する数々の文明を”ものまね”していったものまねお化けは最終的にどこにたどり着くのか──「ものまねお化け」。
邪悪な機会生命による侵略を人知れず守ったぼんくらの物語「害虫駆除者の甥」。攻撃を受けたら必ずそれを三倍にして返す自動報復衛星を備えた二人の男の子と女の子によるほのかな恋の物語「三倍返しの衛星」(これめちゃくた好きだ)。自分こそがもっとも幸運に違いないと主張する四人を描くシンプルなオチが秀逸な「幸運な四人の男」。靴底で空間そのものを踏みしめて、空中でも宇宙でも歩いていける靴を手に入れた男が走り出した先に出会うのは──という時間SF「韋駄天男と空歩きの靴」。
誰もが頭部前面装着型の仮面インタフェースをつけて生活するようになったとある惑星で、仮面をなくしてしまった男の顛末を描く「顔をなくした青年」。宇宙はどこから始まり、どこまで続くのか。そんな途方もない疑問をいだいて宇宙の賢者たちを訪ね歩きすべての疑問の答えにたどり着く「つまり、すべてはなんなのか」。もはや物も言わず動かなくなった破壊兵器の目の前で繰り広げられる”絵”と”歌”、また文化の相続についての叙情たっぷりなストーリー「絵と歌と、動かぬ巨人」。
人の年齢が五十歳を折り返し地点として、その後だんだん歳が減り最後には100歳=0歳に到達したときに死を迎える老化反転の人口調整機構が埋め込まれた社会で生きる、一人の女の子の人生を描く「五歳から、五歳まで」。バターを塗った面が重力落下時に絶対に下を向く物理法則を発見し”選択的重力の法則の応用による反重力装置”の可能性に気づく少女の物語「パンを踏んで空を飛んだ娘」。本を読み続け不老不死の法を見出し延々と本を読み続けた男の至る境地「最後の一冊」。
おわりに
──などなど、ぱらぱらと読み返しながら書いているうちに、どれもおもしろすぎてちょっと想定よりも紹介しすぎてしまったのだけれども、SFの醍醐味を堪能できる抜群に優れたアイディアが散りばめられ、時間SFから植物SF、叙情からバカ話、落語のような言葉のテンポがおもしろい作品からぐっと来るラブ・ストーリー、泣ける話もあり──とこれでもかというぐらいに質の高いショートショートが揃っている。
僕が紹介した以外にもまだまだおもしろいやつがあるので(というか、全篇ハズレ無し)、ぜひ読んで確かめてもらいたいところだ。ちょっとこれを超える本格SFショートショートは、もうしばらくは出てこないんじゃないかな。