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SFの醍醐味がつまったSFコミック短篇集──『無限大の日々』

無限大の日々

無限大の日々

著者八木ナガハルがコミケやコミティアで発表したオリジナルSF漫画を集めたこの一冊。SF物で一巻完結という時点で珍しいが、その中身は漫画という表現形式ならではの壮大なSFアイディア/光景をみせてくれる、SFとしての醍醐味がたんまり詰まった短編集だ。軌道衛星、何種類もの軌道エレベータ、昆虫型の異生物、機械知性に自由意志問題──といったいくつものネタを、守備範囲が海外SF小説メインのハードSF者と自己紹介する著者が調理していくので、それはまあおもしろいわな。

各作品をざっと紹介する

本当は絵、ヴィジョン、見せ方をそのまま貼っつけてお見せしたいところだがそれは無理なので全八篇の収録作を順番に紹介していこう。まず最初に収録されているのは、別々の惑星で同じ形をした昆虫が発見され、しかもお互いに行き来しているわけでもなくそれぞれの惑星で独自進化を果たしているようだ──という研究を進めるうちに広大な宇宙の旅へと繋がる稀有な生物学SFの「SCF特異昆虫群」。平行進化から発展させたようなSFアイディアもいいが、昆虫のデザインがまた素晴らしい。

続けてまた昆虫SFで「蟻の惑星」。蟻が群知能としてかなり進歩しており、蟻に支配されているとみられる惑星で、蟻と蟻の戦争を人間が観察するだけの話といってしまえばそれまでなのだが、蟻が集団作業を通して地形を操作し、地形を操作することによって気候を操作し、果てには原子力を使いこなす蟻まで出てきて──という”蟻SF”として素晴らしいだけではなく、描き出される光景も絶品というほか無い。

4作はドキュメンタリー映画の監督が題材求めていろんな惑星をめぐる連作もので、「ツォルコフスキー・ハイウェイ」は地球を螺旋状に取り囲む巨大な軌道エレベータを走って映像を撮っていくと”なぜこんなものが作られたのか”という秘密に至る鍵が映されており──という極上の軌道エレベータ物SF。人間が機械人に支配されている惑星で”幸運の発生率を操作してあらゆる事故や犯罪と無縁でいられる”世界を描き出す「幸運発生機」。これ、脳じゃなくもっと上位層から”自由意志の有無”について問いかけていて、発想がおもしろい。幸運発生機のおかげで建材を空から落下させるだけで建築物が出来上がっていく光景もSFならではのもので最高。

メーカーが倒産してしまったりスキャンできなかったりで直し方のわからないロボットの解析を行う病院の秘密を探る「病院惑星」は、自分が人間だと思いこんでいたロボットが出てきたり、複製がテーマになってきたりでディック的な読み味のある短篇で、「鞭打たれる星」は住人たちによって軌道エレベータ(「ツォルコフスキー・ハイウェイ」とはまた別のタイプ)が引き倒され惑星が鞭打ちになる異常な光景を描き出す。どちらも珠玉の出来だが、特に「鞭打たれる星」の情景は素晴らしい。

他、単発物としては、人間と機械の”認識方法の違い”をもとにアノマリーと呼ばれる星星の間を駆ける種族の物語を綴る「ユニティ」。巨大娘が不可思議な建造物の中で眠っている場所にたどり着いてしまった二人組が、これは現実なのか夢なのか……と現実感覚に揺さぶりをかけられていく「巨大娘の眠り」がそれぞれある。前者はそこをもってくるかというネタがおもしろく、後者は巨大娘、イイね!。

おわりに

SF的ワンアイディアを軸にして展開した結果宇宙全体、生命体全体をめぐるような大きな光景へと繋がっていくのが「これぞSF短篇だよなあ!」というか、洗練されたバリントン・J・ベイリーといった感じで感じでいい。ここまでド直球にSFコミック短篇集はなかなかないのでピンときたらどうぞ。電子版は今のところなさそうだけど著者が分割で出しているやつがあるのでそれを買ってもいいだろう。

SCF特異昆虫群

SCF特異昆虫群