基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

小川一水氏 トーク&サイン会で聞き手役をやりますという告知文

天冥の標IX PART2 ヒトであるヒトとないヒトと(ハヤカワ文庫JA)

天冥の標IX PART2 ヒトであるヒトとないヒトと(ハヤカワ文庫JA)

天冥の標という生まれてからこの本に出会わせてくれるに至るすべての過程に感謝するレベルの傑作SFシリーズがあってそれについてこのブログでも延々延々と書き続けてきたわけです。今回、今月の21日に9巻のPART-2が出て、いよいよラストである完結10巻に向けてあとちょっとだぞいというところなのもあってか、シリーズの「これまで」と「これから」を著者である小川一水さんへとお聞きする会が開かれるわけですが、僕が聞き手役をやることになったので告知になります。

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SFマガジン2016年10月号 海外ドラマ特集号

SFマガジン 2016年 10 月号 [雑誌]

SFマガジン 2016年 10 月号 [雑誌]

SFマガジン2016年の10月号が出ました。ゆるっと告知がてら紹介でも。

僕は連載で6〜7月に出た海外SFレビューを10作2pで、連載外でグレアム・ジョイスの『人生の真実』について1pレビューを書いております。今回は海外SF欄で紹介した10作中7冊がシリーズ物、もしくは3部作の途中/完結巻である。マラソンの中間地点みたいだな。完結巻としてはソローキンの『23000』が特に好き。

人生の真実 (創元海外SF叢書)

人生の真実 (創元海外SF叢書)

『人生の真実』は要約が難しい話だけれども、第二次世界大戦直後のイギリスを舞台に、コヴェントリーの町が復興していく過程と、ひとつの家族(8人の女性たちと、その女性たちの間を転々としながら育てられる少年)が変化していく過程を通して、人生に不可避的に現れる死や誕生、出会いや破局を丹念に描いていく長篇。

農家、アナキストのコミューン、神秘主義者の中で少年が生活し、成長していく過程を通して、著者のジョイスは見事に、戦後のイギリスにおける労働者階級の多様な側面と、伝統と革新が渾然一体となって「新しい物事がはじまっていく熱狂」を鮮明に描き出していく。SF要素というか幻想要素は、特別なものというよりかはマジックリアリズム的に「当たり前のもの」として挿入され、それによって死と生、過去と未来が現在の枠の中で凝縮したかのように体験できるのも見事。

まさに「人生の真実」というタイトルがふさわしい、濃密な一冊だ。

本書がおもしろかった人は同じく東京創元社の『モッキンバードの娘たち』なんかもオススメ。さて、以下では本誌をざっと読んだ感想をだらだらと。

海外ドラマ特集

今回は海外ドラマ特集 「スター・トレック」50週年記念特集号ということでAmazonプライムでも動画がはじまってしまったし、「そろそろ海外ドラマでもみるかなぁ」と思っていた僕には嬉しい特集であった。完結したやつから観るかな……とまず「最新版・海外SFドラマガイド」というガイドをみたら、2005年以後という縛りはあれど、全39本のうち、完結済みは5作品しかない……。

物語は「きっちり」終わるべきところで終わって欲しいので、人気が出る限りつづけて人気がなくなったらだらっと終わるというアメリカン・スタイルは本当に嫌いなんだけれども(だから『ブレイキング・バッド』は観た。)、とはいえシーズン制の力により、マンネリ化したら主人公さえもガンガン切り替えていくことでどの作品も(シーズン毎に)まとまっていて魅力があるんだろうなと(紹介を読んでいて)思った。堺三保さんの打ち切りドラマ総括も光あれば影もあるみたいな感じで悲哀が感じられる。

ざっと紹介を読んだ感じ、特に目を引かれたのは(特集以前からの評判もあるけど)『ドクター・フー』、『ゲーム・オブ・スローンズ』、『ストレイン 沈黙のエクリプス』、『アウトランダー』、『センス8』、『プリーチャー』あたりか(これ全部観たら何百時間かかるんだ……)。『ゲーム・オブ・スローンズ』は江波光則さんのレビューが相変わらずよい。いやー、さすがに『ゲーム・オブ・スローンズ』ぐらいは観ておかないとダメだよなあと思わされた。

浅倉ヴァンス爆誕

酒井昭伸さんによるエッセイ「浅倉ヴァンス爆誕」が素晴らしい。7ページにわたり浅倉久志翻訳がいかに凄いのか、その基礎が語られる。浅倉訳に存在するボサノバ的なリズム、『そもそもが名文なので読みだしたらたちまち批評的な見かたは消えてしまう、という要素を差っ引いても、原文と浅倉訳とをつきあわせた人間は、「うん、たしかに原文にはこう書いてある」と納得するはずだ。』というように、ものっすごく読みやすく、それでいて原文との意味的誤差が小さいのだと。

エッセイの後半ではそうした基礎的な部分をとらえたあとに、ヴァンスの『竜を駆る種族』を題材として、原文に存在する訳的な跳躍が必要とされる単語の、日本語訳との対応表を作って、そこでいかなる翻訳的創造が行われたのかを検証しており、読み終えた時にはいやあ、これは本当に良いものを読ませてもらったなと思った(特にこのエッセイが良かったから記事まで書こうと思ったのだ。)

ケリー・リンク以降 不思議を描く作家たち

ケリー・リンク以降として、ジャンル越境的に活躍している作家の紹介と、4作品の短篇が翻訳されている。チャールズ・ユウの掌編「OPEN」は男が家へ帰ると部屋に「door」が浮いていて(ドアが浮いているんじゃなくて、doorという単語が浮いている)──と、思わず「あれ、これは円城塔作品じゃなくて翻訳だよな??(訳は円城塔)」と考えてしまうぐらいに冒頭は円城作品で、不思議な味わいのある作品だ。

他はユーン・ハ・リー「弓弦をひらいて」、メガン・マキャロン「魔法使いの家」、ジュリア・エリオット「ワイルド家の人たち」と詩的な幻想譚から胡散臭い魔法使いと弟子とのラブストーリーまで俄には捉えがたい作品が並んでいる。個人的にはユーン・ハ・リーの作品は4ページながらも世界の特異性を打ち出していて作家として興味深かったなあ。下記は作中に出てくる迷路語というものの説明分。

世界が聞く、語られた言葉にはどれも一つずつ、一つだけ真逆があり、それは反対語であることはめったになく、同一言語である必要もない。正逆の言葉の組み合わせは完全無欠な静謐のときをもたらし、それは宇宙を誕生せしめた虚空への回帰となる。われらの聖域の外で一つの言葉が語られると、迷路はその逆を吐き、それは書き留められるまで谺しつづけるのだ。

なんかこうぐっとくる描写ではなかろうか? 著者は2016年にデビュー長篇「Ninefox Gambit」を出しており、数学を愛する人のためのミリタリSFみたいな興味深い評もネットのレビューに上がっていてので気になっている。

おわりに

というわけでSFマガジン2016年10月号をよろしくおねがいします。僕はスター・トレック未見なので触れられなかったけどスター・トレック50周年特集もあるよ。あ、ついでにSFドラマでなくてもいいので「この海外ドラマがおもしろい!」と一押しがあったら教えて下さい。実在した麻薬王を描いたという『ナルコス』っていうのはおもしろそうなんで大変期待している。時間はない。

『赤目姫の潮解』に解説を書きましたとか告知いろいろ

赤目姫の潮解 LADY SCARLET EYES AND HER DELIQUESCENCE (講談社文庫)

赤目姫の潮解 LADY SCARLET EYES AND HER DELIQUESCENCE (講談社文庫)

告知ですが、本日発売した森博嗣先生の『赤目姫の潮解』文庫版に解説を書きました。『女王の百年密室』『迷宮百年の睡魔』につづいて出された百年シリーズの最終作となりますが、登場人物は連続していないし、時系列もわからないしで独立性の高い作品になっているので本書から読んでも楽しめるでしょう。全森小説作品の中で、もっとも自由な一冊である──というようなことを解説では書いています。

はじめて文庫解説を書いたもので間違いがあっちゃいけねえと編集の方に「解説って何を書いたらいいんですか?」とバカみたいな質問もしてしまったけれども(好きなように書いてくれと言われた*1。)わけがわからないと言われることの多い本書を「何度でも読み返す」一つのきっかけになれたらいいなと思っております。

それにしても、解説を依頼される前から何回も読み返し、その度に凄さに打ち震えてしまう大好きな作品だったのと、依頼はこのブログが読まれ、それなりに評価してもらっていたからこそのものだったので、依頼された時はさすがに嬉しかったですね。誰かに認められたいとか、報われたいと思ってブログを書いていたわけではないけれども、「もういつこのブログを終わらせてもいいな」と思ってしまったぐらいに。

他告知ゾーン

あまり最近はブログに仕事の告知を上げていないので、他の仕事も告知しておくと先月はいつもどおりSFマガジン2016年8月号に書いています。1ページレビューではアトランティス大陸やナチの隠された秘密超兵器といったオカルティックな現象と最先端科学描写を見事に融合させ人類滅亡、人類の起源を探る──とめちゃくちゃに風呂敷を広げてみせた『第二進化』について。連載の2ページレビューの方では4月、5月に出た海外SFをまとめてレビューしております。

SFマガジン 2016年 08 月号 [雑誌]

SFマガジン 2016年 08 月号 [雑誌]

あと特集の銀背総解説では平井和正『虎は目覚める』とレックス・ゴードン『宇宙人フライデイ』についてそれぞれ340文字で短く解説を書いています。書いた後に知ったんですけど、「本総解説を読んでみて実際に読みたくなったハヤカワ・SF・シリーズ作品」に投票をする「SFシリーズ発掘総選挙」をやっているので(投票者は単に電子書籍化してほしい作品を選びそうだけど)そっちも是非。

投票方法は下記参照
cakes.mu
ノンフィクションの方では月2回、5日と25日でHONZというサイトで更新している他、先日は時事通信社へモリー・グプティル・マニング『戦地の図書館』の書評を寄稿しています。仕組みがわからないので間違っているかもだけど、どこかの地方紙に載っているかもしれません(載らないというパターンもあるのかもしれない)。

おわりに

自分ではこのブログに柱があるとすれば、SFとノンフィクションと森博嗣作品だと思っているけれど、その3つが3つ全部それなりに評価されて依頼をもらえるようになったというのは、単純に嬉しいですね。無理に人目を引いたりせずに、一つ一つ中身のある良い記事を書こうとして、他には何も考えていなかったのが結果としては良かったんでしょう。来年でこの「基本読書」を書き始めてから10年にもなり、私生活もどんどん暇になっていくということもないし僕もいつまでブログを書き続けられるもんかなと思うことが最近あるけれど、まだまだ続くのでよろしくお願い致します。ほんと、休止していく他所様のブログをみていると僕もいつまでできるもんかなあ……と考えてしまうんですよね。

*1:もちろんその上で具体的なアドバイスをもらえました

世代別SF作家ガイドが嬉しい、ベストSF2015──『SFが読みたい! 2016年版』

SFが読みたい!  2016年版

SFが読みたい! 2016年版

毎年恒例のSFが読みたい! の2016年版が出ました。

僕はSFマガジンで海外SFのブックガイドを担当していることからこの読みたい! では海外SFベスト20の解説と総括、それからランク外の注目作品について書いています。どれもおもしろさの方向性が違うので「これだけは読んどけ」というのはないのだけど(あるけど)、僕の簡単な解説もけっこう分量が(1万文字ぐらい)あるので、何か適当に読む本を選ぼうかなと思う人は読んでみてね。

さて、では内容の話にうつりたいところなんだけれども、ランキングを1から10までここでバラしてしまうのもおもしろくないので、未読の人でそのへん気になる人は本屋でぱら見したり買ったり、あるいはネットで検索してくださいな。とはいえまったく何も明かさないと話がはじまらないので、僕が隠したところですでに知れ渡っていそうな海外編と国内編の一位だけはバラしてしまう。それ以外は話に出してもランキング何位かは伏せておくようにしましょうか。

海外篇のランキング一位

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

というわけで海外編のランキング一位はケン・リュウ『紙の動物園』! 日本オリジナル編集の第一短篇集でありながらその高い完成度に、一人の作家の振れ幅の広さを感じさせる短篇セレクションと一冊の本として群を抜いた出来。本として出る前からSFマガジンに幾度か短篇が掲載され、その高い実力は知れ渡っていたけれども、出てみたら他の短篇もみんな同じ水準でおもしろく驚いたのをよく覚えている。
huyukiitoichi.hatenadiary.jp
結果的には二位の作品から200ポイント以上離して一位で、多くの人が少なくとも2015年の話題性としては納得したのではないだろうか。ベースにあるのは中国生まれの作家であることも関係してか表題作「紙の動物園」を筆頭に家族、親子が軸になった短篇が多く、題材からしてより幅広く普及していく作品であったことも関係しているのだろう。芸人であり芥川賞作家でもある又吉直樹さんにテレビでオススメされたのも大きい。

日本篇のランキング一位

エピローグ

エピローグ

日本篇のランキング一位は円城塔『エピローグ』。2011年『これはペンです』、2012年『屍者の帝国』、そして2015年に『エピローグ』と、円城塔作品におけるこの5年のランキング一位率が半端ない。日本SFのトップは円城塔なのか! といえば、こっちは2位とわずか2ポイント差での1位であり、偶然にも支えられいるが、どちらが優れているという話ではなくどっちも面白いよという話である。
huyukiitoichi.hatenadiary.jp
本作は一言で言えば「ここは、確率という考え方が存在する確率さえ無効になっている場所です。思考がそのまま法則になりうるような場所です。」というように何でもありな宇宙を舞台に何がなんだかよくわからない相手や何がなんだかよくわからない世界の仕組みを相手に、何がなんだかよくわからないことを繰り返してどこかへたどり着いてみせる。無茶だが、それを確固とした理屈が支えており、壮大なホラ話を巨大な建築物に仕立てあげている。

冬木糸一が選んだランキング投票

投票を行っておりそこで僕もランキングを投げている。正直、海外SFは全部読んでいるし日本SFもけっこう読んでいるので五作に絞り込むのは基準を設けなければ不可能である。というわけで自分ルールとして「絶対に外せない作品を二つ」「ランキングには入るだろうけど順位がよめない作品を一つ」「SF読者への知名度が低くあまり投票されそうにない作品を二つ」選ぶという感じで順位を割り振って選んだ。

まず日本篇だが、①『エピローグ』円城塔、②『天冥の標Ⅷ ジャイアント・アークPART2』小川一水、③『太陽・惑星』上田岳弘、④『マレ・サカチのたったひとつの贈物』王城夕紀、⑤『伊藤計劃トリビュート』をそれぞれ選んだ。先の基準で言えば①は絶対外せない作品、②はシリーズ物の途中ではあるが、あまりにも好きすぎて入れないわけにはいかない作品、③④が「あまり投票されそうにない作品」になる。

⑤はランキングには入るだろうけど順位がよめない作品ということだ。基準を設けずに選んでいたら牧野修『月世界小説』、宮内悠介『エクソダス症候群』、梶尾真治『怨讐星域』が入ったであろう。怨讐星域を除いて記事を書いているので興味があれば検索してみてください。

マレ・サカチのたったひとつの贈物

マレ・サカチのたったひとつの贈物

一押しなのは『マレ・サカチのたったひとつの贈物』*1。読みやすく、驚愕のラストまで一気に突っ走ってくれるので読んでもらいたいものだなあ。あと、この年は『ニルヤの島』の柴田勝家さんや『母になる、石の礫で』の倉田タカシさんなどが揃ってデビューしたのも印象深い。実はいちばん楽しんだのは二人と同時デビューである神々廻楽市さんの『雅龍天晴』なのだが、二巻はまだかしらん……。
エンジェルメイカー (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

エンジェルメイカー (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

海外篇は①『エンジェルメイカー』ニック・ハーカウェイ、②『紙の動物園』ケン・リュウ、③『ゼンデギ』グレッグ・イーガン、④《サザーン・リーチ》ジェフ・ヴァンダミア、⑤『ブロの道』。先の基準で言えば①⑤が「あまり投票されそうにない作品」、②③が「絶対外せない作品」、④が「ランキングがよめない作品」に該当する。紙の動物園を一位にしたと思い込んでいたが今みたらエンジェルメイカーが一位で「これで良かったんだろうか……」と若干焦ってしまったが、まあそれぐらい個人的に思い入れの強い作品であった(20位以内に入っててよかったなあ)。

ソローキンの『ブロの道』も僕としては年間ベストにしたいぐらいめちゃくちゃおもしろい作品なんだが、あまりにも理屈からかけはなれた作品で、おすすめしづらい。SFと言い張るのも結構大変だ。基準を設けずに選んだらパオロ・バチガルピ『神の水』、スタニスワフ・レム『短篇ベスト10』、ジョン・ヴァーリイ『汝、コンピュータの夢』あたりをなんとか入れたかったなあという気持ちがある。特に『神の水』はバチカルピ作品の中でも群を抜いて好きなだけに入れられなかったのが惜しい。

海外SFの今年の特徴といえば、ランキング20位までを見渡すとレムやヴァーリイ、ホジスンやオールディス、ディレイニーにジーン・ウルフと古典(という表現もおかしいのだが)の力強さみたいなのを感じたか。ヴァーリイは2016年もまだ八世界全短篇の2が出るし、マイクル・コーニイの『ブロントメク!』も出るし。

ヤングアダルトとか

ヤング・アダルト系やミリタリSFはランキングでは弱い。おもしろいものはたくさんあるんだけど。2016年版には中の人緊急対談!(いったいなにが緊急なんだ……) としてヤングアダルトSFについて早川書房と東京創元社のくらりさんが対談してらっしゃる。早川書房Tさんは『レッド・ライジング』を推して、東京創元社Iさんは『100%月世界少年』を推している。

時を紡ぐ少女 (創元SF文庫)

時を紡ぐ少女 (創元SF文庫)

僕のオススメは対談で挙げられている二つを除外するなら、子どもが全員男女の双子で生まれ、どちらかが死ぬとその片割れも死んでしまう特殊な社会を描いた『アルファ/オメガ』がいい。これ、オメガ側はほとんどの場合体に欠損があってそのせいで社会構造的にアルファから虐げられているんだけど、殺すとアルファも死んじゃうから殺せないんだよね。そんな世界ならではの社会構造と、覆し方がSF的でおもしろい作品。いちおう核戦争から400年後というポスト・アポカリプス物でもある。

東京創元社でオススメをあげると『時を紡ぐ少女』で、繊維で構成された世界を舞台に、世界を織ることで気候や食料生産を制御する刺繍娘を描いている幻想的な長篇。この設定だと「ファンタジーなのかな?」という感じだけど、タイトル通り主人公は織ることで時さえも制御してみる女性版承太郎で後半になるとこの世界の真実の一端が明かされていき「ああ、これはSFですわ」って展開になるのがおもしろい。

ミリタリではシリーズが完結した『孤児たちの軍隊5』と、元軍人が書いたデビュー作で迫真の戦場描写が魅力のマルコ・クロウス『宇宙兵志願』をオススメしときます。

世代別SF作家ガイド111

世代別SF作家ガイド111は2016年版の特別企画。ちなみに2012年版は21世紀SF必読書ガイド100、2013年版は作家別日本SF最新ブックガイド150、2014年版はSFで読み解く2013年、2015年版はベストSF1990〜2013一挙掲載。もっと前からSFが読みたいは有るわけだけど、世代別の作家ガイドという切り口は新しいか。

デビュー年を基準として第1世代が1960年代。第6の2010年代まで10年刻みで現役SF作家を分けている。海外作家は邦訳年がデビュー年に設定されているので違和感もあるが、海外も日本も同時に並んでいるので「ここがそういう世代なのか」だったり「その世代の傾向」が場合によっては一目でわかっておもしろい。ジーン・ウルフと筒井康隆が上下で並んでたり。

第6世代作家は時代を反映してか作風が大きく異なる人ばかりでこれからが楽しみだ。ジャンル・フィクションも先鋭化がはかられていく傾向があるように思う。2010年代はともかく、2020年代はジャンル・フィクションの在り方、読まれ方も今とは有り様が一変しているかもしれない(在り方、読まれ方が変わっていかない年なんかないだろといえばその通りだが)。

*1:最初間違えてデビュー作と表記してましたがデビュー作は『天盆』になります。ご指摘感謝

45年の歴史が一冊に──『ハヤカワ文庫SF総解説2000』

ハヤカワ文庫SF総解説2000

ハヤカワ文庫SF総解説2000

基本的な説明をしておくと、本書はハヤカワ文庫SFに納められた作品が2000番まで割り振られたということで、記念にSFにマガジン2015年4,6,8月号で行われた特集をまとめて一冊にしたものである。3号に渡って行われたその特集とは、1番から2000番までのSF全てを解説するという離れ業で、隔月刊となってそのぶん分厚くなったにも関わらず3号を費やす巨大特集となったのであった。

本には何か追加があるんですか、というのは当然気になるところだが、まず特徴的なこの異常な表紙──未刊になった『ターザン』シリーズを除いた1996点を繋ぎ合わせたもの──はすぐに目につくだろう。これは中で拡大バージョンが数ページに渡って掲載されている。一方、文章的な追記はめぼしいものは特になく、編集部による「はじめに」と、最後に2000番以降に何が出たのかの一覧(解説はなし)が載っているぐらい。なので内容的にはSFマガジンで特集分を買っていれば、もちろん修正なとはあるにしても特に差異はないのはちと残念。

いうても一冊の本にまとまったのは良いことだ。
こう言ってしまってはなんだが雑誌を買ってない人の方が圧倒的に多いのだから。

頭から順番に読んでいってもいいし、ぱらぱらとめくって適当に目についたものを読んでいくだけでも随分楽しい。『クローム襲撃』や『ソラリス』など、ハヤカワ文庫で出ているものであれば昔懐かしいSFを文字通り全て網羅しているから過去の記憶を反芻しながら読むのもいい。僕も雑誌の時にぱらぱらとめくって読んでいたが、本になってからも作業机の傍らにあってちょっと休憩するかという時につい開いて適当な箇所から読み始めてしまう。

一冊あたりの文字数は単品であれば340文字、ローダンなどの長大なシリーズ物は一冊毎に解説が書かれるのではなく(そんなことしたら本の大半がローダンシリーズのあらすじで終わってしまう。)シリーズの長さと重要度に応じてそれだけ多くの文字数が割り当てられるようになっている(最大でも2ページ)。何しろ2000番もあるから、当然執筆陣の数もすごいことになっている。

Amazonからコピペしたものをペッとしておこう(敬称略)。

縣丈弘、秋山完、東浩紀、天野護堂、池澤春菜、石和義之、いするぎりょうこ、礒部剛喜、乾石智子、卯月鮎、榎本秋、海老原豊、円城塔、大倉貴之、大迫公成、大野典宏、大野万紀、大森望、岡田靖史、岡本俊弥、小川一水、岡和田晃、オキシタケヒコ、忍澤勉、小田雅久仁、尾之上浩司、尾之上俊彦、小山正、風野春樹、片桐翔造、香月祥宏、勝山海百合、鼎元亨、樺山三英、川又千秋、菊池誠、北原尚彦、木本雅彦、日下三蔵、久美沙織、倉田タカシ、coco、五代ゆう、小谷真理、小林泰三、酒井昭伸、堺三保、坂永雄一、坂村健、笹本祐一、佐藤大、佐藤道博、塩澤快浩、下楠昌哉、新城カズマ、水鏡子、鈴木力、スズキトモユ、瀬尾つかさ、関竜司、添野知生、代島正樹、高槻真樹、高橋良平、立原透耶、巽孝之、田中啓文、タニグチリウイチ、東野司、飛浩隆、鳥居定夫、酉島伝法、中野善夫、中藤龍一郎、中村融、七瀬由惟、鳴庭真人、難波弘之、二階堂黎人、仁木稔、西崎憲、西田藍、西村一、野崎六助、野尻抱介、橋本輝幸、長谷敏司、林譲治、林哲矢、東茅子、東雅夫、福井健太、福江純、福本直美、藤井太洋、藤田雅矢、藤元登四郎、船戸一人、冬木糸一、冬樹蛉、古山裕樹、片理誠、細井威男、細谷正充、牧眞司、増田まもる、丸屋九兵衛、宮風耕治、深山めい、六冬和生、森晶麿、森下一仁、森奈津子、八代嘉美、八杉将司、柳下毅一郎、山岸真、山本弘、YOUCHAN、遊山直奇、ゆずはらとしゆき、横道仁志、吉上亮、吉田親司、吉田隆一、渡邊利道、渡辺英樹

各人の思いが詰まった総解説

これの良いところは、編集部が「はい、あなたこれね」と割り振ったわけではなくて、基本的には自分がやりたいものを申告して、割り振ってもらうのを待つ自己申告制であることだろう。それだけに、たとえ単品340文字であってもそれを受け持った人はそれが人生にとって重要なオールタイム・ベスト級の一品だったりするわけで、熱量に溢れており、作品解説以外にも「各人の思い」みたいなのが見えるのだ。

東浩紀さんが一作だけ書いているから何かと思ったらローバート・J・ソウヤーの<<ネアンデルタール・パラドックス>>シリーズについてで「おお、そこなのか」と思ったり、円城塔さんによる『順列都市』解説、長谷敏司さんによる『たったひとつの冴えたやりかた』解説などなど「そりゃ(解説を)読みたいよなあ」と思わせるラインナップ揃い。当然誰にも拾われずに「マッチは、マッチはいかがですか」状態になった作品もあるわけで、褒める論調ではなく、批判的に書かれているものもある(あえて引き受けたうえで批判的に書いているものもあるかもしれないが)。

まさか2000番もあって全部が全部傑作なわけがないし、そうした作品の場合でも「苦しさ(解説の書き手の苦しさでもあるし、著者自身の苦しさでもある)」みたいなところまで含めて楽しめるだろう。「こんなものがあったのか」とか「こんな設定が既に出ていたのか」と驚かされるのはむしろそういうところに眠っていたりする。

SFマガジン 2015年 04 月号

SFマガジン 2015年 04 月号

個人的な思い出とか。

この特集が始まったSFマガジン2015年4月号は、僕にとってはSFマガジンでの連載を始めることになった最初の号であることも手伝ってとりわけ思い出深い。総解説に参加したのは2015年6月号からだったが、書き散らすブログとは違って文字数が限られた中に情報を敷き詰めることの難しさに直面したものだった(その難しさは今もまったくかわっていないのだが。毎号毎号文字数内に収めるためにあーでもないこーでもないと文章をいじりまくっている)

というわけで僕が担当した作品は以下のとおり。「あまり人がやらなそうなところ」を狙っていった結果このような選定になった。オールタイム・ベスト級の作品はやはり被りまくっていたようだ。

  • 『スター・ゲイト』アンドレ・ノートン
  • 『星々へのキャラバン(上・下)』マイクル・P・キュービー=マクダウエル
  • 『反逆の星』オースン・スコット・カード
  • 『ヴォネガット、大いに語る』カート・ヴォネガット
  • 『秘密同盟アライアンス パラディンの予言篇(上・下)』マーク・フロスト
  • 『最後の帝国艦隊』ジャスパー・T・スコット

とりわけ『最後の帝国艦隊』は最後のページに『ソラリス』と共に載っているので探しやすいぞ*1。記念すべき2000番目になったポーランド語からの新訳*2『ソラリス』はアマチュアからプロまでが編集部に原稿を送り、編集部内で最終候補6作を決めたのち読者投票が行われて2解説に絞りこまれたものが本書には収録されている。

実はこれ、僕も海外SFの現ブックガイドを担当している身としては送らないわけにはいかないだろうと思い送っていたのだがあえなく編集部候補作に残ることさえできずに敗退。虚しい思いをしていたのであった。実力不足だ! 無念なり。

*1:だからなんなんだ

*2:初出は国書刊行会

SFマガジン 2015年 10 月号 伊藤計劃特集号

SFマガジン 2015年 10 月号 [雑誌]

SFマガジン 2015年 10 月号 [雑誌]

2015年6〜7月海外SFのブックガイドを2ページ、『逆光の夏』を1ページ使ってそれぞれレビューしております(宣伝)。雑誌が出てもいちいち記事を起こしていなかったのですが、せっかくブログをせっせと更新しているのだからちゃんと書いておこうかと思いまして……。それだけではあれなので、ゆるく感想でも書こうかと風呂に入ってコーヒーを飲んでいたら思いましたので書きましょう。

今回3号(隔月刊になったので、6ヶ月間に渡り)ハヤカワ文庫SF総解説なるお祭り騒ぎが繰り広げられていたので、伊藤計劃特集、ばーん! とちゃんと特集が立ち上がってくると「そうだそうだ、こんなかんじだったぞ」と思い出してくる。メタルギアソリッド渾身の一作である『METAL GEAR SOLID V: The Phantom Pain』も9月に備え(この機会にPS4買っちまいましたよ)、伊藤計劃特集バーン! 伊藤計劃トリビュートバーン! 蘇る伊藤計劃バーン! 10月からは3ヶ月連続で映画が公開されてこれまたばーん! でこっちはこっちでお祭りのようになっいる。

↑早くやりたくて仕方がない。『伊藤計劃トリビュート』は既に読みましたので、明日あたり更新。危なげなく傑作中短編揃いで、「日本SFの今」を感じさせる作品集になっている。
伊藤計劃トリビュート (ハヤカワ文庫JA)

伊藤計劃トリビュート (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 王城夕紀,柴田勝家,仁木稔,長谷敏司,伴名練,藤井太洋,伏見完,吉上亮,早川書房編集部
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/08/21
  • メディア: 文庫
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中身に関しては、伊藤計劃作品とは無関係に書いていた長編作品の一部が入っていたり、想定していたより「伊藤計劃色(なんてものがあるとして)」は強めではないけれども、その分氏が生きていたらきっと喜んだであろうな(僕はまったく無関係の人間なので、無根拠な想像にすぎないが)と思わせる『伊藤計劃(氏が喜んだであろう)トリビュート』に仕上がっている……と明日記事を書くのでここでぐだぐだと書いてもしかたがないのだが。

雑誌の話である。まず最初に座談会が連続する。仁木稔・長谷敏司・藤井太洋の同世代作家座談会、柴田勝家・伏見完・吉上亮の20代作家座談会、現役学生座談会と、各世代における伊藤計劃にまつわる話が展開されていくので、明確に「世代」を意識しているんだなあと。現役学生座談会はともかくとして、現役作家という立場からくる世代ごとの捉え方の違いがなかなかおもしろい。

『つまり、事実として二〇〇九年は『ハーモニー』の年でした。じゃあそこで立ち止まらないために、翌年、その次の年、さらにその翌年……と書き続けていくことで、自分と読者がそこからきちんと、正しく遠ざかっていけたらいいなと思ってやってきました。』とは長谷さんの発言だが、「伊藤計劃以後」だとかなんだとかいうけれども、作家側の視点からすれば、「目をそこに留めておかせるわけにはいかない」ということなんだろう。「懐かしい」「やはり二〇〇九年が最高だった」では終われないのだと。

その後、現在に至るまでの6年間は毎年毎年前年よりも日本SFは面白くなっていっている、と個人的には思っている。それは6年前がつまらなかったのではなく、この6年の間に新しいプレイヤーが続々と参入し、多様性の面で間口と、質的な深さが極まっている感覚があるからだ。ハヤカワSFコンテストから新人が幾人も出てきて、ハヤカワSFコンテスト外からも吉上さんや藤井さんや宮内さんが出てきて、SFとはまったく関係ないところから王城夕紀さんや上田岳弘さんなど異常な才能がぽこぽこ出てきて。

「いま・ここ」の実力だけで作家は評価されるものではない。「これから先、この人達はいったいどんな作品をみせてくれるんだろう」と、どきどきわくわくさせてくれる作家が大勢いる。一人のジャンルファンとしてこんなに嬉しいことはない。

同時代作家陣が伊藤計劃を受け継ぎ、というよりかは「その先へ」を意識しているのに比べると20代作家陣は伊藤計劃ファンとしてスタートし、先輩とし仰ぎ見、そうした影響下の元それぞれ別ルートや先を探っているようにみえる。質問傾向の違いもあるだろうけれど*1(毎度司会と構成が異なる)。

各論とか、10作ガイドとか

他に各論として、ボンクラ青春SFとしての側面に焦点を当てた前島さんの論や、病が創作に与えた影響について焦点を当てた風野さんの論などパーツをばらばらに分解して論じていくのがそれぞれ面白かった。しかし、作品がやっぱり少ないので、論の広がりもあまりもたせられないのが残念だ。書き続けていれば、これを一人の人間が書いたのかとにわかには信じられないぐらい幅の広い作品を残していた「可能性」があったのに……とはいってもしかたがないところだけれども。

伊藤計劃読者に勧める10作ガイドというのもある。SF小説、ノンフィクション、コミック、アニメ、映画における「次の10作」。ゲームがないのはちと寂しいが、たぶん全部小島秀夫作品で埋まってしまうからだろう。僕もそれぞれ選んでみようかと思ったけど……清涼院流水『コズミック』とか(本気)。まあいいか。ノンフィクションでもSFでも、「元ネタ」的作品で埋め尽くすこともできそうだけれども、そこから外そうとするととたんに難しくなる気がする⇛10作選ぶ。

最後に、大森望さんが「”伊藤計劃以後”はいつ終わるのか──2020年代SFの始まりに向けて」という論考を載せていて、これが2010年以後の日本SFの状況についてのめっぽう詳細な見取り図になっている。実は僕はニコニコ動画で【VOICEROID+】結月ゆかりの現代SF入門 第一話『SFが読みたい! 2015年版』 ‐ ニコニコ動画:GINZA⇐というシリーズを開始させて、この第一期(全12話予定)の最後3話ぐらいでこのへんの話(全体的な潮流と、今後の見通し)をやろうと思っていたのだけど、ここに既に詳細なものがあるので、「これを参考文献にして丸パクリしよう」と一仕事終えたような気分になってしまった。

そんなわけで(どんなわけだかはおいといて)、2015年にもなってアニメにトリビュートに雑誌にと伊藤計劃づいているわけだけれども、「懐かしむ」のではなく、どれも「その先へ」と示すような前へ進んでいく意志の感じられるものばかりで個人的に非常に安心したり。翻訳短篇とかにも触れようと思っていたのだけどちょっと書き過ぎちまいました。

*1:もちろん、影響下にあるといっても「無数の影響のうちのひとつ」だがこの特集では特別焦点を当てられている、という意味である。

SF BOOK SCOPE『暴虐の世紀を生きた男たち——ラヴィ・ティドハー『完璧な夏の日』』3/7に掲載しました

告知記事です。今回はラヴィ・ティドハーの『完璧な夏の日』について。暴虐の世紀を生きた男たち――ラヴィ・ティドハー『完璧な夏の日』|SF BOOK SCOPE|冬木糸一|cakes(ケイクス) 以下余談。

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SFマガジン 2015年 04 月号から連載開始しましたとかいろいろ

先日こんなお知らせをしたばかりですがSFマガジンcakes版で「SF BOOK SCOPE」連載開始しました - 基本読書 今度は紙版のSFマガジンでも連載を始めさせていただくことになりました。*1 とはいえお話自体は先にこっちで何か書きませんかと連絡もらっていたので(cakes版は昨年の12月に突如持ち上がった企画ですし)前後してしまったところはありますが。しかしまあなんというか、SFマガジンはSFファンからすれば憧れの地ですから自分の文章が載っているのは単純に嬉しいです。

SFマガジン 2015年 04 月号

SFマガジン 2015年 04 月号

そもそも何を載せているのかといえばまず連載物として、2014年12月から2015年1月の間に出た海外SFをまとめてレビュウしています。これは次号以降も載ります。僕の前のページで香月さんが日本SFをまとめてレビュウしているので、僕は海外SF担当といったところでしょうか。もちろんその能力はあると考えていますが、いきなり任せていただき、ありがたいことです。そいでもう1ページ、注目の新刊SFレビュウということで神々廻楽市さんの『 鴉龍天晴(がりょうてんせい) 』について書いています。こっちはcakesに書いた物の圧縮版みたいになっていますが、2分の1以下の文章量になっているのでほぼ書きなおしてます。でもその分エッセンスをぎゅっと凝縮したものになっているのではないかと。
鴉龍天晴(がりょうてんせい) (ハヤカワSFシリーズJコレクション)

鴉龍天晴(がりょうてんせい) (ハヤカワSFシリーズJコレクション)

架空歴史物でファンタジィとSFがごった煮状態で日本東西戦争みたいな無茶苦茶な作品なんですがそれがまあ隅から隅まで配慮が行き届いている。細やかな歴史へのこだわりと、架空部分の構築っぷりが見事で、ボテンシャルの宝庫。個人的に物凄くおすすめの作品なのでぜひぜひ。5年後とかに尋常じゃない作品を書いていそうな感じ。しかし心底自分が面白いと思ったものについて存分に面白いといえる場を提供してもらえるんだから、こんなに嬉しいことはありませんな。

4月号の話、ハヤカワ文庫総解説について

自分の話ばっかりしてもあれなので早速読んでいる4月号の話でもすると、いやーこれはまあ素晴らしいですね。ハヤカワ文庫SF総解説。表紙からして余白なくカバーが詰まっていてぐっときますけど、中身がまた良い。総解説たって、なんか文庫裏みたいなしょぼいあらすじが抜粋されてそれで終わりなんでしょ? とか思っていたのですが、ちょっと舐めてました。もちろん一冊につき1000文字とかそんな分量があるわけではないですけど、書き手一人一人の個性の出る程度の分量(300文字ぐらいかな?)で書かれていて、ぱらぱらとめくるだけで愉しい。こっちも積極的に手をあげればよかったな。

全てが300文字程度というわけではなく、長大なシリーズ物など(たとえばローダンとか)は2ページ見開きで解説が書かれております。これいのいいところは、普通だったらもう二度と取り上げられることもなさそうな作品に目を通すきっかけになることですね。たとえばローダンとか恥ずかしながら読んだことがないんですが(だってそんな何百冊も読めないもの……)、見開きの紹介を読んでいて読みたくなってしまった。ローダンもなんか空気みたいに供給され続ける存在で「あってあたりまえのもの」と思ってしまっていたけどいやはや、こうやって長文の解説を読むと奥が深い……。

それは多くの人にとっての客観的に評価されるものではないかもしれないけれど、みな自分の人生において「特別な作品」というものがあります。この解説の割り振りはもちろんさまざまな事情や押し付け合いによって決められたものではあるでしょうけれども、「特別な思い入れ」のある作品について語るそれぞれは、たとえ文字数が少なかろうが熱量に溢れていて、作品以外の「各人の思い」みたいなのが見える。ああ、良い特集だなあと思ったのでした。

『新 SF観光局 第44回』と電子書籍について

読みながら書いているのですが大森望さんの『新 SF観光局 第44回』で紹介されていておりました。『レビューサイト「基本読書」(主なSF書評は『冬木糸一のサイエンス・フィクションレビュー傑作選[kindle版]』にまとまっている)でおなじみの冬木糸一氏ほかによる』と紹介されております(おなじみだったのか)。Kindle本まで拾い上げてもらい嬉しい限り。単に電子書籍つくってみたい! という動機からだったので出すこと優先、質はまあテンションを下げない程度にと誤字だらけで送り出してしまったこともあり、正直売れる度に胃が痛くなるんですが、それはまあ。もう少しきちんと作りこんでおけばよかった、とほほ。

でも電子書籍をわざわざつくった目的のひとつは「ログが溜まりすぎて検索性能が極端に悪くなったブログとは別に、パッケージングされた不動の形」として提示したいというのがあったので、その目的はきちんと果たせているのかなとも思います。ようは「わーこのブログちょっと読んでみたいな~どこから読もうかなー」という時に2000記事もあると、検索性は悪いし一覧性は悪いしでちょっとどうしようもない。でもその時に電子書籍があれば「ここに主要なものはまとめといたから興味があるならこれから読んでね」といえる。「一覧記事」をつくってそれを提示するのもいいんでしょうけど、なんだかなあ。

ちなみにこの電子書籍、出してからちょうど2月の末あたりで1年になるわけですが、2月3月の初動で100冊ぐらい売れて目標数達成、その後1月に地道に3〜10冊ぐらいずつ売り上げております。100冊という目標はそもそもKindleなどの普及がそこまで進んでいないこと、書評を必要とする層が極端に少ないこと、そもそもSFを好む層が少ないことなどからだいたいこんぐらいかな、という数字を出したんですが、まあそれぐらいはいるということですね。こういうふうに継続的に売れていくのをみると、ブログのような常に来客がある自分メディアを持っているのは大きいなと思います。

でも当然これで商売にしようと思ったり、生きていく支柱にしようと思ったらまた別のやり方を考えてないといけないでしょうね。宣伝し、知られなければ存在しないのと一緒ですから、電子書籍作家として本気で売ろうと思ったらい宣伝を集中的、戦略的にやるか、あるいは自身の知名度をあげるかをしないとお話にならないでしょう。Kindleに出しました! 売れるかなーじゃ売れる訳ありません。市場も整備され品揃えもよくなりプロの作品とせっていかなければいかないんですから大変な話です。

話がまた自分のところに戻ってきてしまっていますが、まあそんなところで。今後共ブログも連載もご贔屓によろしくお願い致します。もちろんブログもガシガシ更新しますから。しかしこうなってくると冬木糸一のサイエンス・フィクションレビュー傑作選2014年版とか、冬木糸一のサイエンス・ノンフィクションレビュー傑作選214年版とかいろいろ出したくなってきますね。やることリストに放り込んでおきます。じゃまた。

冬木糸一のサイエンス・フィクションレビュー傑作選

冬木糸一のサイエンス・フィクションレビュー傑作選

*1:cakes版のSFマガジンが出来たばっかりにわざわざ紙版のSFマガジンと言わないといけなくなったのが地味に面倒くさい!

SF BOOK SCOPE第三号『SNS疲れの行きつく涯ては——デイヴ・エガーズ『ザ・サークル』』掲載しました

第二号に続き第三号も出ました。ただいま無料掲載期間中になります。

今回はデイヴ・エガーズの『ザ・サークル』について。SNS疲れの行きつく涯ては――デイヴ・エガーズ『ザ・サークル』|SF BOOK SCOPE|冬木糸一|cakes(ケイクス) 

以下ボーナストラック的な

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SF BOOK SCOPE第二号「ロボットとの擬似家族小説にして痛快娯楽活劇——マデリン・アシュビー『vN』」掲載しました

ロボットとの擬似家族小説にして痛快娯楽活劇ーーマデリン・アシュビー『vN』|SF BOOK SCOPE|冬木糸一|cakes(ケイクス)

現在無料掲載中です。経緯とかシステムはこちら⇒SFマガジンcakes版で「SF BOOK SCOPE」連載開始しました - 基本読書  なんだろう。宣伝とかどうしたらいいのかよくわかんないですね。いちおうTwitterには流していますけどブログしか見ていない人もいるでしょうし、とりあえず方向性を探っているあいだは告知させてください。それでは、といって去っていくのもあれなのでなんか書きますか。雑記的な。

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SFマガジンcakes版で「SF BOOK SCOPE」連載開始しました

このブログを書いている冬木糸一です。

SFマガジンという月刊雑誌がありまして、それがなんと先月をもって隔月刊化に移行、つまるところ今月はSFマガジンが出ていないわけです。そうか、SFマガジンはじゃあもう奇数月は出ないのだなと思うところですがSFマガジン編集長塩澤氏が一念発起しcakesでSFマガジンをやってしまおうと、思いついたようです。僕はそこにスカウトされたというわけですね。で、本日それが更新されておるので早速告知しましょう。 SFマガジンの記事、コラム、読み物一覧|クリエイターと読者をつなぐサイト cakes(ケイクス) ここね。

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