基本読書

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甲賀忍法帖/山田風太郎

甲賀忍法帖 (角川文庫)

甲賀忍法帖 (角川文庫)

あらすじ

 忍者が殺し合う

感想

 非常に退屈でした。いやいや、歴史的忍者物を前にして何を言っているのだお前はとツッコミたくなるものですが、だってアニメと漫画と全く同じ流れですからね。原作を読むのは初めてでしたけど、アニメも漫画も堪能した後とあっては同じ物を見ている気持ちにしかなりませんでした。といっても物語自体は秀逸、天才、爆弾、どんな賛辞を並べようか! と迷ってしまうぐらいの傑作であってその点は疑いようもないのであります。先にアニメと漫画を見て読んでいたせいで、小説版を読んでもどうしても映像の方に引っ張られてしまうんですよね、イメージが。アニメを見ているのか小説を読んでいるのかわからなくなってしまいました。

 この作品に関してはメディアミックスに非常に成功したと言えるでしょう。こうして原作を読んで初めてわかったのですが、心理描写が極端に少ない。アニメ化しやすいか、しやすくないかは心理描写の密度によって変わると言われますがその法則に従って言えば本作程アニメ化しやすいものもないでしょう。ほとんど全編を通して戦い続けなのですが、それも視覚的に面白いものですし何故これが小説で発表されたのか心底不思議になってしまうぐらいです。戦闘描写といえば夢枕獏ですが、彼とはまた違ったギミックで魅せる戦闘、とでもいうのでしょうか。

 また戦闘だけが魅力、というわけでもないんですな、これが。決して結ばれない恋、そういった悲恋、ラブストーリー…というよりかは忍者の宿命とでもいいますか。そういった、忍者という存在になってしまったばっかりに命を賭けて戦わなければいけないその悲しさとでもいうのでしょうか。そういう暗い雰囲気が全編を通して流れており、それこそがこの作品をさらにすばらしいものにしている、と感じます。

シームレスバトル

 話しの流れとしてはシンプルで、十人の忍者同士がぶっ殺し合うっていうただそれだけの話なんですけど、それがシームレスバトルなんですよね。シームレスが何なのかというと継ぎ目が無いとかそんな意味なのですが、普通はこういうのって一対一の試合形式を連続してやるじゃないですか。というか、それでしか書けないじゃないですか。本作ではそんなまだるっこしいことをしないで、おかみが殺し合えといった瞬間にスタートして、その情報を仲間に伝える前に相手を殺すぜ! みたいな割と凄まじい情報戦から始まるんですね。当然一対多やその逆もあるわけでこの戦いが最も最も最も最も恐ろしィィー!! じゃなかった。ううむ、とにかく凄いわけです。

 あと、すぐ死ぬんですね。何がって、キャラが。そりゃ二十人もいて一冊の中でお互いに殺し合うんですからどしどし死んでいかないと終わらないんですが、その緊張感が凄い。たとえばドラゴンボールとかワンピースって、みんな結構相手を簡単に殺せる能力なのになかなか死なないじゃないですか。簡単に相手を殺せる能力で本当に相手が簡単に殺せるのが甲賀忍法帖の凄いところなんですね。お話にありがちな、相手を殺すのを躊躇している間に逃げられるとか、そういったぬるい展開が一切ありません。どちらが善でどちらが悪とかいう区別もありませんので、どいつもこいつも残虐な手口を使ってきます。心理描写を排除した展開のスピード感といい、傑作ですなぁ。