基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

NOVA2

SF系統の短編集であるNOVA2です。外れが見当たらないほど、クォリティが平均して高かったNOVA1と比べて、この2は純粋なSF作家が少ない為か、クォリティにかなりのばらつきがありますが、その分クセのある短編が揃っていて面白かったです。中でも注目はもちろん当然「神林長平」に三島由紀夫賞を受賞した後の第一作目を発表した「東浩紀」に「恩田陸」「宮部みゆき」の文芸世界での超売れっ子二人といったところでしょうか。クォリティ的にもこの4人が一番高かったと思います。

まあNOVA3の執筆陣(予定)が凄すぎてなんだか2を読み終わった時のインパクトがかすんでしまったんですがね! NOVA2はただのツナギだったのか! 山田正紀谷甲州とり・みき森岡浩之浅暮三文瀬名秀明小川一水海猫沢めろん長谷敏司。そのうち野尻抱介京極夏彦伊坂幸太郎も登場するとか\ヤバイ!/ SFという意味ではNOVA3号はチェックせなあかんですなぁ……。

ここからは各作品の感想。印象に残っている物は長文で、残らないものは一行で。

『かくも無数の悲鳴/神林長平

敵は海賊のような、殺伐とした世界観の中で主人公は宇宙警察から逃げ回っていて、宇宙の果てまで到達してしまったところから物語は始まる。その酒場でゴキブリ型の宇宙人と喧嘩になるのだが、そのやり取りが面白くてバカらしくて笑ってしまう。よく歳をとってこんなアホな話が書けるものだ。

ゴキブリ型の宇宙人は単なる一匹のゴキブリではなく、無数のゴキブリの集合体から、一体のヒト型を形成しているのだ。ヒト型といってもゴキブリの姿を残したままのヒト型なのか、それとも普通のヒトのような形をしているのかで気持ち悪さはだいぶことなるだろうが、そのどちらかなのかは描写からはわからない。

主人公はゴキブリ型宇宙人に喧嘩を売られて、相手を銃で撃ってやろうかと考えるのだがこの部分がまた面白い。天才だな、と思ってしまう。ほんとに。

 だがおれは、撃てなかった。殺すことをためらったのではない。撃っても殺せないことが経験上わかっていたのだ。弾丸を発射しても相手の身体に穴が開くだけで、相手はまったくダメージを被らない。いや、ほんとに、ぽっかりと穴が開いて、その向こうが見えるのだ。射線が貫通する部分を構成している小ゴキブリたちが素早く弾を避けるので、そのヒト型の一部に穴が開く、というわけ。相手の戦力を殺ぐには、いまのような集合体になるまえに、二、三匹でも踏み潰しておくというのがかなり有効で、そうしておけば素手での殴り合いでも勝機は掴めるのだが、では予防的にいつも踏みつぶしておくのがいいかというと、やっかいなことに、集合体になるまえの分散している状態ではそいつらがおれに殺意を持っているのかどうかわからない、という問題があるのだ。相手がそれまでなんら攻撃の意志を持っていなかった場合でも、おれに一体でも踏みつぶされれば怒っていまのような状態を招くのは必至なので、おれとしては戦いを覚悟して踏みつぶす必要があるわけだ。

「ゴキブリの集合体とどうやって戦うのか」というだけの話なのに、何故これほどまでに面白いのかというかこえーよ、小ゴキブリの集合体ゴキブリ。銃口を向けたらその部分だけカサカサって逃げるんでしょう? それどんな地獄絵図?一番笑ったのは「やっかいなことに、集合体になるまえの分散している状態ではそいつらがおれに殺意を持っているのかどうかわからない、という問題があるのだ」という部分で、なんというか、問題とかもうそれ以前の問題だろ、とツッコミを入れざるを得ない。いやまあ言っていることは至極まともなんですけどね、「うん、たしかにそうだなぁ」と思うんだけど、まあでもその相手はゴキブリの集合体だし、その時点で完璧にギャグなのに、なんか冷静に語っているのがすでに笑える。

結論:この短編はゴキブリで出来ている

あ、でもちょっとまって。まだ本当に天才だな、と思ったところがあるのよ。「おめー引用がなげーし多いんだよ」と思うだろうけどすいません。

「ぶひひん」とその馬頭人は豚のような声を出した。これはもちろん、言葉だ。「ぶひぶひ、ひびびんぶひ」
 おれの頭の中の万能宇宙翻訳機=リンガ・フランカーが『なんの、礼には及ばんよ』と同時通訳しているので(略)(pp.22-23)

これはさっきのゴキブリ型宇宙人に襲われた時に、この馬頭が助けてくれて、その後の会話なのですけど、いやこれは凄いですよ。まず馬の頭を持った人間なのに、なぜか鳴き声がぶひひん、なのが凄いですし、本当に凄いのは二つ目の「ぶひぶひ、ひびびんぶひ」ですよ。なんだかよくわかんないんですけど、読んだ時に笑いが止まらなくなってしまいました。なんなのwwwwひびびんぶひってなんなのwwww あと「これはもちろん、言葉だ」って言っているけど、何がもちろんだよ! と思ってしまいますよね。「豚の鳴き声だろ!」って。

たぶんね、「ぶひひん」は「よう」とか、「おう」とかそういう相槌で、「ぶひぶひ」の部分が「なんの」で「ひびびんぶひ」は「礼には及ばんよ」だと思うんですけど、めちゃくちゃ面白くて思わず感動してしまった。何が降りてきてこの言葉の選択をさせたのだろうか。ひひびびんぶふ(礼には及ばんよ)……。僕も今度使ってみようかな。

女の子:あっ、突然風が吹いてスカートがめくれちゃったわ!
僕:危ない! ええいっ必殺パンツガード!!(身体を張ってパンツを隠す)
女の子:助かったわ! お名前はなんていうの? 
僕:ぶひひん、ぶひぶひ、ひびびんぶひ!

レンズマンの子供/小路幸也

ふーん、と思った。

バベルの牢獄/法月倫太郎

オチが素晴らしい。が、どう考えてもそのヒントからはオチがわからん……。いや、オチがわかるようなヒントを出さなくてはならん、というわけではない。ただこう「アハ体験」のような「あ、なるほどねー! 言われてみりゃあわかるよ!」というニアミス的ジレンマが、欲しいのです。

夕暮にゆうくりなき声満ちて風/倉田タカシ

読み方がわからなかった。

東京の日記/恩田陸

これは素晴らしい。架空の「東京」が舞台で、外国から日本へ来ている外人が主人公で、滞在記を「東京日記」として出版するという。その日記が、この「東京の日記」なのだ。「あの地震」と呼ばれる地震のせいで、街にはキャタピラーと呼ばれる謎の電車のようなものが存在するようになったり、光る猫が存在したりと、割とへんてこな世界である。そしてそんな状況下の日本で、行政戒厳令が施行される──。

のどかに過ごす東京の日々と、段々と戒厳令のせいで圧迫されている東京の生活が大変良かったです。たとえば電話は盗聴されているからといってみんなが伝書鳩でメッセージのやり取りをするようになると、国が「鳥インフルエンザが発生したから」といって鳩を皆殺しにし始める。みんなが嘘だとわかっていても、立てつくことが出来ずに段々と生活が国の介入によって苦しくなっていく。オチを読んだら、戒厳令こえーな、とゾワっとできます。。

参考→戒厳 - Wikipedia

てのひらの宇宙譚/田辺青蛙

円城塔の奥さんと聞いて「なるほど……」と思ってしまったのは僕だけではないはず。不思議系。

衝突/曽根圭介

暗い話だなぁ〜……とだけ思った。なんとなく面白かったような気がしないでもない。

クリュセの魚/東浩紀

クォンタム・ファミリーズ』の文章を読むたびに頭が痛くなってくるので今回もダメかと思ったら意外といけた。しかし全ての語尾が〜った。〜た。で終わる文章を読んでいると、身体を拘束されて同じ場所に水を何時間もぽたぽたとたらされているような、そんな拷問のような感覚を味わう。

いやしかしこれは面白かったですよ。特に設定が面白いと思いました。舞台は火星なのです。そこで男の子が女の子と出会う。そして運命的ともいうような騒動を得て、引き裂かれたりくっついたりしていく。

火星に人が住めるほど科学が発達している世界です。しかしそこまで科学が発達していても、光速の壁は超えられない。火星にいくまでは長い時間をかけなければならない。だから、火星と地球は政治的に分断されているんですね。地球人口120億人のうち、1000分の1しか火星には住んでいない。しかしその1000分の1の人達は、有能で知識と知恵をもった人たちなのです。

あまりにも人数が少ないのと、距離があまりにも遠く離れている為に火星は「独立」を宣言する必要すらなかった。しかしある時、地球と火星の距離を地球と月ほどの距離に縮めてしまう「ワームホール」が発見される。距離があまりにも離れているせいで、政治的に何物でもなかった「火星」が急に権力闘争の中に組み込まれていく。

まあ要はターンAガンダムのような話なのですが、「ワームホールの発見」というファクターで問題が一気に顕在化してくるリアリティみたいなものが、とても素晴らしいと思いました。

マトリカレント/新城カズマ

これだけだとよくわからんないから長編でやってほしい(´・ω・`)

五色の船/津原泰水

普通にいい話だった。

聖痕/宮部みゆき

最後びっくりした。

とりあえずベストは決められないけれども、神林先生のと東先生のは特に好き。あと恩田陸先生のも良かった。宮部みゆき先生のは何か色んな意味で面白かったけど書くとバカにするようになっちゃうので書かない。それ以外はあまり印象に残らず。