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人類にはふたつの惑星という保険が要る──『人類、宇宙に住む 実現への3つのステップ』

人類、宇宙に住む: 実現への3つのステップ

人類、宇宙に住む: 実現への3つのステップ

理論物理学者にして、ディスカバリーチャンネルへの出演など、広く科学の啓蒙に勤めるミチオ・カク。そんな彼の新刊は人類が宇宙に住むにはどうしたらいいのか? を3つのステップに分けて科学的に考察し、技術を紹介していく一冊になる。これは個人的に大好きな分野で、関連したノンフィクションはほぼ全部読んでいるので、真新しい話がほぼないのは残念だったが、扱う題材の広範さと説明の正しさはさすがミチオ・カクといったところで、オススメするに足る内容なので軽く紹介してみよう。

 生命はかけがえのない存在だ。だから、ただひとつの惑星にとどまり、こうした惑星規模の脅威に運命を委ねるわけにはいかない。
 人類には保険が要る。セーガンはそう私に言った。彼は、人類は「ふたつの惑星の種族」になるべきだと断言した。つまり、人類にはバックアップのあるプランが必要だというわけである。

人類、宇宙に住むとはいうものの、宇宙に住む理由なんか本当にあるの? と思うかもしれない。が、これはもはや疑うことも難しいことぐらいに明白に「ある」と答えられる状況がある。そもそもこの宇宙それ自体に寿命があり、地球という惑星にも寿命がある以上、このさきも人類がずっと生存を続けるつもりであれば、ここから出ていかなければいけないことは自明のことである、という生存上の理由がひとつ。

もうひとつは、現実がすでにそちらへ大きく動き出しており、止まる理由がむしろ考えられないからだ。イーロン・マスクやジェフ・ベゾスといった億万長者たちが宇宙開発の民間事業を牽引するようになり、ロケット関連の技術開発が進み、コストはどんどん下がっている。イーロン・マスクは宇宙事業を手がけるスペースXを設立した2002年当時から人類が火星に居住することを目的に事業を動かしている。

ジェフ・ベゾスも惑星の限定はしていないが、宇宙に100万人が住み、経済圏が広がっていく未来を想定して動いている。すでに火星や月に人が住むといった状況はSFではなく、現実の事業になっているのである。

とはいえ、そう簡単にはいかない

とはいえ、当然ながらことはそう簡単にはいかない。月には大気はないし、火星でだって人間は生身では暮らせないし、そもそも行くのが大変だ。本書は、そうした大変さを説明するためにも、まず第一部「地球を離れる」で現在のロケット工学がどのように成し遂げられ、現在の宇宙開発がどのような状況にあるのかを概観してくれる。

宇宙開発というアホみたいに金のかかる事業を持続的に発展可能にするために、「月やら火星やらで金を稼ぐにはどうしたらいい?」といったことを考察していくのもおもしろい。たとえば、現実的に可能性があるのは小惑星からの採掘だ。2015年には地球から160万キロメートル以内に、コアに9000万トンものプラチナがあると推定される(値打ちは5兆4000億ドルだという。そんなん持ってきたら暴落しそうだが)小惑星が近づいてきたことがある。もし仮にこれを持ち帰ったり、軌道をずらすことで月や地球に寄せることができたら莫大な金を手に入れることができるだろう。

火星到達についてはすでに具体的な計画が複数動いている。たとえばNASAは2030年までに人間を火星に到達させるために、月を周回軌道する宇宙ステーションであるディープ・スペース・ゲートウェイを構築し、その後実際に人間を火星に送り届けるためのディープ・スペース・トランスポートをそこで構築し、と段階を踏んだ計画を実行しているところだ。問題は火星に人を送り届けることと、定住させることにはまったく別種の困難さが伴うことで、仮にそこに人間を移住させようとするのであれば、火星の大気それ自体を大きく変動させる必要があり、そこで必要とされるエネルギィや物資はどう補給するのかなど、途方もない数の検証が必要になってくる。

本書ではその後、火星環境を再現し植物や細菌がどの程度生存できるのかを検証するNASAの実験を紹介したり、簡単な太陽エネルギィの試算をしたりといくつもの検討を加えていく。

おわりに

続く第二部「星々への旅」では、自己複製するロボット、AIの可能性。切手サイズの宇宙船にレーザーを当てて光速の20%の速度を出そうとするブレイクスルー・スターショット計画やイオンエンジンの可能性など、推力について中心に。

第三部「宇宙の生命」では、人間が今後どのように自分たちを作り変えていくのか、老化は克服できるのか、地球外生命探査といった生命関連のテーマが語られていく。どれもワンテーマに絞ってみれば本書より詳しく語られているものは他に多くあるが、これだけ広範な内容をまとめきれるのはさすがミチオ・カクといったところ。

類似テーマ本

類似テーマ本としてオススメしておきたいのはアダム・フランク『地球外生命と人類の未来 ―人新世の宇宙生物学―』で、天体物理学から宇宙文明が普遍的に陥るであろう危機について考察する素晴らしい一冊。ミチオ・カク本でもけっこうなページ数を書いて語られるフェルミのパラドックスについて知りたいのであれば、『広い宇宙に地球人しか見当たらない75の理由』も外せない。宇宙倫理学関連としては、『もしも宇宙に行くのなら――人間の未来のための思考実験』と『宇宙倫理学入門──人工知能はスペース・コロニーの夢を見るか?』の二冊がともにオススメ。

地球外生命と人類の未来 ―人新世の宇宙生物学―

地球外生命と人類の未来 ―人新世の宇宙生物学―