想像力を刺激させられる物語。ほんの数分で読み終えられるショートショートが12編入っているだけなので、手軽に読み終えることが出来ました。著者は『サマー/タイム/トラベラー』『蓬莱学園シリーズ』などの新城カズマ。内容はそのほとんどがメタ小説ですね。
メタ小説が何か、ということを僕は人さまに説明できるほど詳しく知らないので説明できないのですが、それでもあえて頑張ってみるのならば、小さな構造が大きな構造について思考すること、とでも言うのでしょうか。ごめんなさい、よくわかっていません。
はてさて。
まず疑問に思うのは、マルジナリアとは一体何なのか。僕も読み終わってこれを書いている瞬間まで知らなかったのですが、どうも調べるとこういう意味らしいです。参考URL→澁澤龍彦著・マルジナリア マルジナリア/ウェブリブログ
マルジナリアとは何か ?
澁澤龍彦の「マルジナリア」から引用しよう。
『 マルジナリアとは、書物の欄外の書きこみ、あるいは傍注のことである。エドガー・ポーは本を買うとき、なるべく余白が大きくあけてあるような本を買って、読みながら思いついたことを、そこに書きこむのを楽しみにしていたという。こうして出来たのがポーの「マルジナリア」であった。』
ふむん。
ここからどんな内容を推理しようが、恐らく著者の思惑をぴしゃりと言い当てることはできないのでしょうが、これを読んでいてなんとなく思い出したのはボルヘスによる『伝奇集』の一節でした。いわく
「数分で語り尽くせる着想を五百ページに渡って展開するのは労のみ多くて功少ない狂気の沙汰である。よりましな方法は、それらの書物がすでに存在すると見せかけて、要約や注釈を差しだすことだ」
──伝奇集 - Wikipedia
ふむん。
さて。本書はショートショートなのでして。非常に短い。
これはまあ、伝奇集でいうところの、「それらの書物がすでに存在すると見せかけて、要約や注釈を差しだすことだ」に当てはまるのでしょう、当てはまるのではないか(言いなおした)。
そして短く語られるべき着想とは「物語について」になりましょう。
本書第十回目のショートショートである『小論(1)──もうひとりのトールキン』の中では、こんな問答がなされます。
「そのとおり。さて、問題はここだ──『物語』とはいったい何だろう? それは何をしようとしているんだろう?」
「え?」彼女は驚いて瞬きをした。
「今の例からも分かるように、ある種の事実はフィクション以上に不思議で、よくできた物語は現実以上に現実的だ。それでも僕ら現実の人間の立ち位置は安定している、と言う者もいるだろう。人の方が物語を創り……物語は人に創られる、という優越性のおかげでね。でもそれはそろそろ確実なものではなくなってきてるんじゃないだろうか? 僕らは変化するし、僕らの文化のありかたも変化する。ならば物語もまた同じままではいられない。では彼らは──何になろうとしているんだろう?」pp.117-118
そして本書のエピグラフにはこんな言葉が引用されています。
「人生こそが重要というが、私は読書のほうがいい」
──ローガン・P・スミス(1865〜1946)
現実よりも、物語の方が心地が良いのならば、もういっそのこと物語の方に行けばいいじゃないの! と「そんなに○○ちゃんの家がいいなら、○○ちゃんの家の子になっちゃえばいいじゃない!」と叫ぶ母親のような気分になってしまう。
どうでもいいけど僕の母親はこれが得意技で、あまりにも何度も言われたので僕は友達の家に、「住まわせて下さい」と嘆願しにいったことがある。あの時は母親が飛んできて怒られたものだが、はてさて、現実と物語の関係はどうであろうか。
物語と、読者の関係は、今どうなっているのか。これからどうなっていくのか──。
何の話だかさっぱりわからなくなってしまった。まあとにかく、なんかそういうメタな話なんだな、うむうむと思ってくれれば……。第十二回『アンケートのお時間です』というショートが面白かった。ゲームブック的なネタ。
そういえば、ぷよぷよを創った人である米光さんという方が話していたゲームの面白さを生みだす三つのルールを思い出しました。
その三つとは、1.ルール 2.ジレンマ 3.インタラクティブ だといいます(順番は忘れてしまった)。
ジレンマはたとえばマリオで穴に落ちてしまって「うわああ」というような、うまくいかない葛藤であり、ルールは当然そのまんまルール(マリオは基本右に進みジャンプして敵を倒す)であり、インタラクティブはプレイヤーとゲームの相互対話(ボタンを押せばマリオが動く)のことであると思います。
ゲームの面白さと書きましたが結構これが色んな「面白さ」に通じているのではないか。そして、小説において生み出すのが特に難しいのは、特にインタラクティブではないでしょうか。読者からの反応を、文字だけで操作しなければならないからです。
ゲームブックが画期的であったのは、そのインタラクティブ性が本に与えられた点でありましょう。(すたれたけど。なんでかな?)
メタ小説のどこが良いかって、頭を多少使いますからね。本格ミステリィなんかとはまた違って、ゲーム的であると言えましょう。メタを主題に据えた本書はだから、「インタラクティブ」を強く感じる読書になりました。
「数分で語り尽くせる着想を五百ページに渡って展開する」無駄に長いものを読むよりかは、より短くまとめられた本書を試してみてはいかがか。オススメです(ちょっと高いけど)。
- 作者: 新城カズマ
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/07/22
- メディア: 単行本
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