基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

選択の科学

「選択」が人に与える影響と、どういう時に人は選択をし、その選択は周囲の状況にどれだけ影響を受けているのかといったことを分析する。なかなか刺激的で面白い本。ただ本の半分以上の内容は行動経済学がらみの話なので、そっちの方はすでにどこかで読んで知っている話が大半だったので退屈だった。行動経済学って何? っていう人にはオススメ。

色々面白い事例が出てくる。たとえば動物園の動物の寿命は野生の動物よりもはるかに短い(野生のアフリカゾウの平均寿命は五十六歳なのに、動物園で産まれたゾウは十七歳だという。動鬱園……なんちゃって(おいおい))。

敵はおらず、餌を探しまわらなくてもいいユートピアに見えて、事実上の監禁状態にあり、エサを食べる時間も食べる量も動き回る範囲も何もかもが自分で決められない状態。そんな高ストレス環境が原因の一つであることは言うまでもない。

同様の事例だと、公務員への調査で、より地位の高い公務員と、下位の公務員では健康リスクに著しい差がでるという。もちろん地位の高い公務員の方がより健康で、これもまた仕事に対する自己決定権の割合の差ではないかという。

まあどこまでが本当かどうかはわかりませんがね。下位のほうがタバコや酒といった非健康的な物を摂取する確率が多かったり、自分を適切に律することが出来ない人がおおいのかもしれないし(定期的に健康診断にいくとか、ちゃんと毎日バランス良く食事をするとか)。

数々の例を見ていくとたしかに「えー?」と思うのもあれど、たしかに選択権の有無は重要だ、と思えるようになってくる。そもそも自分の例で考えてみても、選択する権利が与えられないのと与えられているのではストレスの多寡が違うのはよくわかる。僕たちは常に「自分の人生をコントロールしている」と思いたがるものだから。

一方で、「多すぎる選択肢は利益にはならない」という研究結果も語られる。通称「ジャムの研究」といって、「ジャムの品ぞろえが豊富すぎると、むしろ売上が落ちる」という。これもまた自分はどうだったかなと考えてみるとたしかに、あんまり多すぎると「どうすりゃいいのかわからん」と思ってスルーしてしまうような気がするが、本書では実験をいくつも例をあげて説明している。

なんでも人は六つまでしか数を、少なくとも一瞬では認識できないようだ。だから物を売る時には一度にたくさんの種類を出すのではなく、仮に種類はたくさん用意していたとしても、ロールモデルとしては少なく提示するのが正しいのだろう。どうしても多すぎる選択肢から選ばなければならない時は、専門家に頼るのも一つの手だ。

専門家については興味深い問いもある。たとえばあなたにジュリーという早産で生まれた一人の娘がいるとする。しかし生まれたばかりで、早産だった為に脳内出血を起こし、集中治療室で治療を受けて、人工呼吸器でかろうじて命を繋いでいる。

あなたは医師たちからこのままいけばジュリーは一章がい寝たきりで、喋ることも歩くことも意思疎通も何一つできないだろうと宣告される。医師たちは選択肢を提示する。このまま治療を継続して、ジュリーを生きながらえさせるか、はたまた人工呼吸器を取り外して治療を中止させるか。

国別で対比してみよう。アメリカでは主に判断は親に任せられる。この時に人工呼吸器を取り外すと選択を下した親の気持ちは、かなりキツイのは当事者でなくとも在る程度は想像がつく。自分自身で殺したも同然だからだ。アメリカでこのような選択を迫られた家族は、精神的に深い苦しみを味わう。

一方フランスでは、親がはっきりと異議を申し立てない限り医師が決定を下すのが通例になっているそうだ。医師は最初の段階で人工呼吸器を取り外してあげるのが最良の選択だ、と口に出す。その結果フランス側の家族は当然のことながら苦悩を長く味合わなくてすむ。自然と受け入れる傾向が高いそうだ。

選択は痛みを伴う。すべての選択を取り去ってしまえば痛みは消えるが、人生はつらいものになるのは動物園の動物を見ていてもわかる。どこまでを自分で決めて、どこまでを他人に任せるか。ぜったいに正しい答えなどは選択においては存在しない、と言えるだろう。バランスの中にしかないのだ。

選択とは不確実性と矛盾を受け入れることで、その時々変化するものだと言える。そういうわけで著者は選択を「芸術」だといった。原文のタイトルも『The Art of Choosing』だ。それなのに本書のタイトルが「選択の科学」なのはよくわからないなぁと思いつつ。

選択の科学

選択の科学