基本読書

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今こそルソーを読み直す

たまにはこういうものも読む。ルソー読んだことないので理解はかなりあやふや。そういう人間にもわかりやすい、ルソー論。入門書、というほど解説していない。著者の仲正昌樹さんが重要だと思い、なおかつそれを現代の政治哲学的なテーマにあてはめて読解していく一冊。

さて、ルソーが思想史的な重要な理由として二点あるらしい。一つは「一般意志」を中心とした国民主権の政治思想を呈示したこと。二つ目は、自然状態に生きる人間が素晴らしいという考え方の発明。素晴らしいと言っているかどうかまではわからないが。

一つ目の理由にある「一般意志」という言葉は聞いたことがあるなあぐらいの知識しか無い僕だったが本書を読んでだいぶ理解した。問題の根底にあるのは自由主義と民主主義の間のズレだ。要するに、10人で多数決をしたときに、9:1で割れて9人の方が優先された時に、1人の側の自由は制約されてしまうのである。

そしてこの種の対立は必ず起こるものであり、常に民主主義のもとでは少数派の自由は抑圧されてきたと言える。これに対する理論的な解決として出てきたのがルソーの一般意志だった。国民全体が同意している一般的な意志が存在し、それに基づいて採決が取られれば問題はない、という理論である。自分の意志と、多数決によって決まった意志が同じならば何も問題はないのだ。

当たり前の話だがそんなものがあるはずもなく、完全に机上の空論である。ただ「一般意志」というものがあると仮定して、「私は全体の意見に従いますよ」とすればたしかに「自分の意志」=「一般意志」が実現するのである。それは全体主義ではないかと思う人もいるかもしれない。僕も思った。

全体主義とはよくわかんないんだけど一つの思想に全員が従属しなければいけない状況なのだと思う。要するに支配されている状況。これに対して一般意志とは=みんなの意志ではない。みんなが働きたくな〜いと言ったからと言って誰も働かなくていい社会にはならない。ルソーによれば一般意志とは「常に公正で、公共の利益を目指す」ものだそうだから、たとえみんなが働きたくなくても共通の利益を目指して働くことを志向するのである。

以上のことから全体主義は私的利益を心がけ、一般意志は共通の利益だけを心がける、として区別しているが、正直よくわかんなーい。全体主義派私的利益を心がけるのか? まあいいや。で、そんな「常に公正で、公共の利益を目指すって言われてもどうしたらえーねん」って話だけど、これは「めっちゃ話し合う」ことで解決するっていう考え方らしい。

要するに、100万円あって、バイクが欲しいAさんがいて、スキーに行きたいBさんがいて、おいしいものが食べたいCさんがいるとする。こうやって違うタイプの人間が集まってきて議論することで一人一人の利害関係を考えて、共通性を探って100万円の使い道を考えていこうぜっていうことらしい。そんな無茶な。

そうやって考えだされた結論は、最終的には強制力を持たなければならない。それが「法」である。つまるところ一般意志によって法がつくられる。ここまで来ても問題は山積みで「そもそもどうやって一般意志を法にするねん」っていう山場がある。全ての問題に対して誰にとっても共通している「共通利益」を教えてくれて公式で公正な結論に導き出してくれる、そんな神のような人はいるのだろうか……?

さらにさらに問題なのは、仮に神のような超越者がいるとして、「さて、法を作って社会を作ろうね」と言ったとして、「うん、わかりましたー」って人民の方が全員同意できるだろうか? 何しろそこにいるのはまだ社会化されていない人たちである。社会を作ろうね、なんて言われても理解できるはずがない。

そもそも民主主義が最初に「これから僕たち私たちは民主主義でやっていくことを誓います」と満場一致の決議を向かえなければ多数派が少数派を従えるのは暴力にも等しい行為なのだが、そもそも最初の合意を得ることが不可能だ。

強制的に民主主義をやらせても暴力だし、自然状態にいる人間が社会を望むのは無理となった時にルソーが出した答えが「権威」だった。神々である。建国者たちは神々で英知を持っているから君たち自発的に民主主義に協力してね、というのである。

「そんなばかなー(笑)」と呼んでいて思ってしまうが本書ではこれを最大限好意的に解釈していかなり強制も偽りもない「始まり」を得るのは不可能なのだから『さまざまな外観を帯びた「神々」の助けがなければ、正統性を主張できない近代的な「政治」の矛盾をアイロニカルに表現してみせただけかもしれない』としている。

ふーむなるほどねー。なかなか面白かった。この後も色々あるけれど、まあもういいかな。満足したし。

今こそルソーを読み直す (生活人新書 333)

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