基本読書

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どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?―現代将棋と進化の物語

将棋の世界というのは、傍から見ていてもめちゃくちゃ面白いものがあるので僕もそんなに多くはないのだけれども、将棋についての本を読んでいます。将棋についてというよりかは、棋士についての本かな。なにしろ僕は恥ずかしながら駒の動かし方すらよくわからんもので。本書にはだいぶ実際に指された棋譜が解説されていて、正直いってまったく何を言っているのかわからなかったのだけど、驚いたり凄い一手なんだなというのはわかるので興奮は伝わってくる。

個人的な将棋の魅力について色々と考えていたけれど、どうもこの本を読んでいたら魅力と最強の棋士である羽生善治さんの間にはかなりの共通点があるのかもしれないな、と思えてきました。ちなみにこのタイトルは釣りタイトルで、最初から「いや、羽生さんだけが強いわけじゃないんですよ」と書いている。たしかに羽生さんだけが強いわけではない。しかし、圧倒的に強いのもまた事実である。それは何故か、ということに迫る、五つの戦いのレポート、そして五つの棋士へのインタビューで成り立っている一冊。将棋ってやっぱり、とてつもなく深い世界なのだなと再確認するようで、大変面白かったです。

将棋が個人的に凄く面白いと思っているのは、やっぱりその、特異な空間と、そして人でしょう。将棋っていう、一つのゲーム、それも可能性を考えて、思考を短時間で積み重ねて積み重ねて、恐らく世界で一番頭を使うんじゃないかというゲーム。そのゲームを、一年中考え続け、ほとんどそれだけをやって生きている。要するに僕はそこに人間の可能性を見ているのだと思います。人間は、たった一つの事に集中し続けるとどこまで能力が拡張できるのか、それが知りたい、と思う。そしてそれを、自覚的にやっているのが、羽生さんなんだなって思うんですよね。こんなことを言ってました。

 私が将棋をやっている理由は何なのか。そして人間とは何なのか。そのようなことを考えて行くと、人間はまだ人間らしさ、人間の本当の能力に気づいていないと思う。

凄いのは、選ばれし者たちとでもいうぐらい凄い人間達が、さらに毎日のようにしのぎを削って苛烈な競争の中、生き残りをかけて戦っているところ。将棋っていうのは、一人じゃできないんですよね。当たり前だけど。これは本書を読んでいて特に感じたところです。羽生さんがいくら一人で人間の本当の能力を引き出そうと、どこまでもいってやるぜとグレンラガンのような気合を見せても、将棋は一人ではできない以上、一緒にそこまでの勝負をしてくれる相手が必要なのです。

そして、相手はちゃんといるんですよね。羽生善治だけじゃないぞと。これが将棋界の凄いところ。人間の可能性ってやつを見せつけてくれます。超すごい人と超すごい人が二人力を合わせることでさらに超すごい棋譜ができるわけで、スーパーサイヤ人3だって感じでしょうか? そうやって凄まじい人たちの間で研究され続ける将棋そのものもまた、どんどん進化を辿っているように見える。著者の梅田望夫さんは、「将棋界はこれからの10年、抜群に面白い時代に入る」と確信しているそうです。その理由は四つ。

一つは、棋士同士の戦いが、羽生世代(69年から71年生まれ)、ちょっと下の世代(72年から75年)、20代半ばの世代、そしてもっと若い世代で激化するだろうという予測。第二の理由は、将棋の研究がどんどん進んでいること。組み上がるまではのんびりしたものだった昔の将棋が、今では入念に研究されつくした結果初手から入念に組み立てていかなければ勝てなくなってきたようです。

第三の理由は、コンピュータ将棋が強くなってきたこと。ボナンザなんかが有名です。今でもコンピュータはプロ棋士には及ばないレベルなのだそうですが、近頃ガンガン強くなっておりこれからの10年のうちに、プロ棋士と互角かそれ以上の戦いをする可能性もあるとのこと。第四の理由は、そういったもろもろの情報がネットで得られるようになったこと、だそうです。

なんだろう、凄くおもしろそうで、たまらんすなあ。僕も将棋やりたくなってきたよ……。

こっからはこの本には何の関係もないことなんですけどね。僕は結構本を読んで、割と世の中には、面白い物、人生を賭けるに値するものが、めちゃくちゃいっぱいあるんだな、ってよく思うんですよ。素晴らしいなあと思って本を読んで近づいた気分になるんですけど、でもねー、やっぱり、本当の楽しさ、面白さ、に近づこうとすると、何かを賭けなければいけないんだな、って最近よく思うんです。

賭けるっていうのは具体的にはもう時間ですよね。将棋が面白そうだな〜数学が面白そうだな〜工作が面白そうだな〜ってきらきらしたものが目の前にいっぱいあって、いいないいな、って思っているだけじゃ、本当の楽しさは味わえない。将棋おもしろいな〜〜ってこの本を読んで、奥深いな〜〜って思うけど、でもやっぱりそれは違うなあと。本を読んできらきらしたものをいっぱい見つけていいないいなって言っている暇があったら、一つでも極めようとしてみればいいじゃないかと考えて、鬱々としてきてしまう。

だけどまあ、始めるのに遅すぎるってことは何事もないです。無理なことは世の中にいくらでもありますけど(今から将棋のプロとか、宇宙飛行士とか)、何も将棋のプロになりたいって言っている訳じゃあないですし。僕は僕で、出来ることとやりたいと思う事を素直にやっていきましょうと、鬱々とするたびにいつもそう思っているようです(今、書いてて気がついた)