著者は森鴎外、小説。ほんの100Pほどの短いお話。ひとりの人間の、性欲的生活を綴ったお話である。最初は下世話な下ネタのような話が続くのかと思いきや、まったくそんなことはなく、淡々と事実を書きつづっていく。おもしろいのが、その冷めたような、あるいはビビっているかのような性への臆病さで、みんなが体験して当たり前の年になっても、この性欲的生活を語る主人公は経験をしない。
積極的に行動しないだけでなく、懐疑的である。何度も自分の顔があまりよくないといったことが繰り返されるので、やはり臆病なのかもしれない。あるいは、冷静に考えた結果、自分の顔があまりよくない=相手にも悪いだろう というところまで考えて、結局相手への遠慮から誰も相手にしないのかもしれない。
それぐらいの奥ゆかしさ、冷静さで書かれていて、このなんともいえないもどかしさというか、「べつに、性欲なんか満たされなくてもいいや」というある種の割り切りのようなものが、むしろ現代っぽく感じる。同時に感じるのは、性欲に突き動かされることへの懐疑で、なんとかして性欲を飼い慣らそうとした記録のようにも思える。
とかまあ、小難しく考えなくても、今読んで普通に面白い作品です。普段明らかにされない、他人の性的生活を知れるというのは、非常に興味深い。共感も多く、短いお話だし、たいへん良かったです。

- 作者: 森鴎外
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1993/06
- メディア: 文庫
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