最近日本にしろ世界にしろ未来への悲観的な推論が多くて(まあこれは最近に限った話じゃないけど)今では楽観的な推論を言ってくれる人がいるとそれだけで少し安心するどころではなくもろ手をあげて賛成したくなります。もちろん未来のことなんて誰にも100%の予測はできないので、悲観的にしろ楽観的にしろ推論にしかならないわけですが、それだったら僕は楽観的なほうを支持したい。
というわけでこの『GIGAZINE 未来への暴言』は未来への夢と希望を書いた一冊。基本はインターネット論ですが、途中で教育の話が入ったりして、ばらばらな内容という印象も受けますが、実は全ては繋がっている。根底にあるのは「自分の知らないことをシャットアウトするな、知らない事を知る態度を持て」という思想です。
さらにその思想をさかのぼると、これ以降未来はインターネットをより身近に、現実の延長線上として活用するようになり、その際にインターネットとは「検索という能動性」を必要とする以上「自分の好きな物しか見ない」視野狭窄の状態に置かれることが考えられ、その状態から脱却して初めてインターネットが活用できるようになる、と繋がっていくのです。
個人的に面白いな、と思ったのが全てが可視化されるインターネットの特性について語った以下の箇所
見ていなければ何をしてもいい、聞こえていなければ何を言ってもいい、相手が目の前にいなければどれだけ傷つけることをしてもかまわない、そういう閉鎖的で後ろ向きの考え、クローズドで閉鎖的な行為を否定する世界、それがインターネットという場の特性です。*1
逆に言えば「全ては記録され、みられている」というわけなのですがこの事を自覚している人が少ないのが現状です。匿名でやっているのならまだしも、ちゃんとした実名や長く使ったハンドルネームでさえも相手を平気で傷つけるような言葉を発する人が多くいますが、何も理解していないと言えるでしょう。
面白いと思ったけどそれはどうなんだろう? と疑問に思ったのが、「フリー」のその先という考え方。『フリー』とは情報はいくらでもコピー可能なために最終的にはタダに成らざるを得ず、無料で人を集めて広告やらでお金を稼ぎましょうね、というお話なのですが、これがそう単純な話ではない。
グーグルも検索やGmailなどを全て無料で開放して広告で儲けている会社ですが、このような広告モデルが成立するのは「膨大な人数が使ってくれる」からであり、逆に言えば「膨大な人数を集められなければ成り立たない」のです。要するにこれから先多くの物が実際に無料になったとして、大勢が無料市場に参入してもユーザー数の食い合いになって結局ダメになるというわけ。
そこで本書にて提案されているのが「パトロンモデル」という、「ファンが無料の物に対価を払う」仕組みなのだけど……要するに寄付ですね。Wikipediaのような。根底にあるのは「溢れかえっている違法コンテンツ、もしくは無料のコンテンツを目の前にして「対価を払いたいけぢ払うシステムがない」人達から収益を得る為にはどうすればいいか」という問いかけでしょう。
あと道筋としては、これから先不況で仕事もなくなってしまうだろうのだけどインターネットの力を駆使して誰もが自分の好きな事をやってファンを増やして仕事としよう。そうすれば理想的な生活が送れるというものです。
広告モデルと絶対的に違うのは最終的にモノを買わせて帳尻を合わせるのではなく、パトロンモデルは完全に無料で、その上でお互いがお互いの価値に対して対価を正当に払う点でしょう。その為に「無料の物にでも価値を認めた物には対価を払う」事を認識させる教育が必要であると言っています。
従来であればそれは広告しかなかったわけですが(Jコミも広告だし)、新たな軸として寄付を設けようつー話ですね。その時にいかに効率的、抵抗感なく金銭を移動させるかの手法を確立させたところが今後の派遣を握る可能性が大きい、と言っています。
これはまったくその通りというか、寄付の仕組みが完全に整備されれば確かにあれば広告と同等かそれ以上の効果をもたらすかもなぁと。ニコニコ動画を見てもわかるように、「動画の宣伝」とかいう意味のわかんないことにお金を使ってくれるファンが結構いるものだし。
とにかく寄付が成立するとして、それが現行のビジネスモデルを覆す程の収益をあげるようになるとは、思えないなぁと感じてしまったのがどうなんだろう? と思った理由です。広告モデルと同じ弱点を抱えているように見えて仕方がないんです。「結局人がたくさんいないとダメじゃん」って。
広告モデルでは圧倒的多数が広告モデルに参入するからダメになるということでしたけど、今度は作り手がめちゃくちゃに参入し始めたら逆の理由でだめになるんじゃないかな? 寄付したくても多すぎる作り手同士にばらけすぎてしまうような……。
だからこそ本書では「ニッチ」を狙えと言っているんですけど、いくらなんでも限界がある。……と思うのですが、ここに限界を感じるか、あるいは限界を感じないかでこの寄付モデルが成り立つか否か別れてしまうのかなあ。そもそも「理想的な未来」の一つのビジョンとしてなら、誰もが好きな事を精一杯やって生活するという未来は目指すに値すべきものです。
何より「自分の知らないことにもっと好奇心を持って、たくさんのことを知ろう」というメッセージには、強く共感しました。

- 作者: 山崎恵人
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2010/12/07
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