基本読書

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クラウドの未来─超集中と超分散の世界

クラウドというと最近ではもう至極当たり前のワードになってきているけれども、その実態はよく知りませんでした。まあ、データをパソコン上に保存しなくていい便利な技術のひとつぐらいの感覚でしょうか。本書ではここ10年〜25年ぐらいの間に起こった「マルチメディア」「インターネット」に続く第三のイノベーションとして「クラウド」を定義しています。ようするに、単なる便利な技術のひとつじゃないぜってことでしょうな。

さて、まずは本質的なところからお話をすると、クラウドの本質とは「超集中と超分散のペアリング」であるといえます。これがどういうことかというと、いろいろなコンテンツ、アプリケーションは、データセンターに「集中」されます。これを利用する端末はパソコンだけではなく、今だとモバイル端末から自動車、家電と幅広く「分散」していきます。

なんだそんなことか、要するにiPhoneとかiTunesとかアンドロイドとかがクラウドにおける分散の代表格だよね、という気がしてきますが、どうやらそれも違うようです。なぜならiPhoneがわかりやすいですけど、こいつらでアプリを作るためには専用の開発ツールを使う必要があり、手に入れる手段もアップル社の市場から買わなければいけないように制限されてしまっています。

ネイティブなプログラムに依存しており、端末ごとで情報の行き来が出来ないようなシステムは「超分散」に値しないということです。じゃあ「超分散」の代表格は何なのかといえば、それはブラウザでしょう。今ではパソコンのアプリケーションもどんどんウェブアプリケーションに移動していて、OSに依存しなくなっています。このような自由に移動でき、制限が架らずにデータに接続できることがクラウドの「超分散」の本質といえます。

面白いのが本書ではブラウザのように、端末に依存せずどこからでも、どんな端末からでも接続できるような携帯電話こそが時代の流れだったとして、アップルが電話産業に参入したことによってクラウドディバイスの進化が五年以上遅れたと考えているといいます。ようするに五年近くの間に現況のような「iPhone・アンドロイド全盛」の時代は終わるであろうと見ているわけであって、興味深いですね。

さて、本書の二章では、クラウド・データ・センターについてです。データ・センターはおおまかに言って「プライベート・クラウド(企業の競争力を支える特別な部分)」と「パブリック・クラウド(事務や人事など、一般的なシステム)」とこれら二つを合わせたハイブリッド・クラウドにわかれています。その中で現在Amazonがパブリック・クラウド分野を独走しており、Amazonの独自方式パブリック・クラウドが事実上の標準になってしまうことへの危惧が主軸になっています。

うまくぴんとこないかもしれないですけど、ウィンドウズにパソコン市場が独占されてしまったように米国でAmazonがスタンダードになってしまえば日本のパブリック・クラウドもこれにならわなければやっていけなくなってしまいます(しかも元々日本は電気代が高く、土地がないのでデータ・センターには向かない)。

第三章、第四章ではクラウドを最大限活かすために、インフラの整備を考えて行かなければいけないという話です。たとえば現在では固定電話で話している時に、通話を保留しタブレットにうつり、通話を再開してビデオや写真を相手に送るということはできません。これを行うためには、固定電話をIP電話にかえ、タブレットの回線と固定電話のIPを結び付けなければいけません。インフラの統一と整備が今後の課題になってくるでしょう。

で、ここからが個人的に一番面白かったポイントで、本書では第五章『クラウドブラックホール襲来──日本の製造業の危機』に当たります。面白かったというのは、少しの間抱いていた疑問への答があったからです。

ソーシャルゲームの本をいくつか読んでいた時に「情報は無料になりたがるとクリス・アンダーソンは『フリー』の中で書いたが、ソーシャルゲームのカードみたいななんの実態もないコピーし放題のものにみんなが狂乱して金を注ぎ込むのはなんでだ」と疑問に思っていたのです。プラス、コンテンツに対して「広告でしか」対価がもらえないのって、作る側の気持ちをあまり考えていないと思います(これは別にどうでもいい)。

当然ソーシャルゲームでカードが売れるのはそれがコピーが不可能だからです。いくらでもコピーが出来るんだったら(そしてWinnyで落としてこれるんだったら)誰も高いお金を出してガチャなんて回しません。で、なんでコピーが不可能なのかといえばそれがクラウド上で保存されているからでしょう。サーバ上に置いてあるデータはコピーできないのです。自分の手元にあるわけじゃないから。だからコピーされたくなかったら、コンテンツを相手に渡してしまったらダメです。

じゃあコンテンツは今後すべてサーバ上におけばいいじゃないかと思う。それが今できていないのは、たとえばiTunesiPhoneiPodが最たるものですけど、再生機器がローカルの端末にしか存在しないからでしょう。だったら再生機能そのものをクラウド上においてしまえばいい。端末は操作性や表示機能だけに特化して、高度な機能や大容量コンテンツはデータ・センターに集約すればいい。

そして、ありとあらゆる端末でこのクラウドに接続できるようになればいい。これを実践しているものとして本書で紹介されているのがAmazonクラウド・ドライブという無料で使えるストレージサービスで、それだけならただのDropBoxですが、クラウド・ドライブには再生機能がついている。

このような高機能をクラウドに置くようになる状況のことを本書ではクラウドブラックホールと呼んでいます。章タイトルの「日本製造業の危機」とはハード・ソフト一体型の製品を主力としてきた日本の製造業がAmazonやグーグルといった米国のクラウド対応企業にやられちゃうことを危惧してつけられているのです。いやあ恐ろしいですねえ。何しろ日本ではデータ・センターを作る条件が整ってないんですから(別に日本で作る必要性はないのだけど)。

といっても技術的に可能ではあるものの、まだまだ制度的な意味でもインフラ的な意味でも問題が多い状況です。というわけで本書の六章以降ではこの問題点に焦点を当てています。でもいずれ解決していく問題でしょう。情報が今後すべて無料になる(そして広告料で生きていく)未来よりかは、ちゃんとした「コンテンツに対価が払われる」未来のほうが良いなと思います。

クラウドの未来─超集中と超分散の世界 (講談社現代新書)

クラウドの未来─超集中と超分散の世界 (講談社現代新書)