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異質な存在だからこそ役に立つ─『植物は〈未来〉を知っている―9つの能力から芽生えるテクノロジー革命』

植物は〈未来〉を知っている―9つの能力から芽生えるテクノロジー革命

植物は〈未来〉を知っている―9つの能力から芽生えるテクノロジー革命

書名をみたとき「ひょっとして水にありがとうと話しかけると……」的なアレじゃないよな……と一瞬疑ってしまったがよくみたら著者は『植物は〈知性〉をもっている 20の感覚で思考する生命システム』のステファノ・マンクーゾで、中身は真っ当な、植物が持つ脅威的な能力の解説と先端テクノロジーへの植物の用い方の紹介本であった。ページ内はほとんどがカラー写真で植物を描き出しており、贅沢な作り。

 植物は、十億年前から四億年まえまでの期間に、動物とは正反対の決定をくだした。動物が、必要な栄養物を見つけるために移動することを選択したいっぽうで、植物は動かないことを選び、生存に必要なエネルギーを太陽から手に入れることにした。そして、捕食者や地面に根づくことによる多くの制約に対抗するため、自らを適応させていったのだ。これは生やさしいことではない。考えてみてほしい。厳しい環境のなかで、動けないまま生きるのがどれほどたいへんなことか。昆虫や草食動物といったさまざまな捕食者に囲まれ逃げ出すことのできないようすを想像してみてほしい。生き残るためのただ一つの方法は、破壊をまぬがれる体を持つこと。つまり、動物とはまったくちがうやり方で体をつくりあげること、ほかの生き物とはまったくちがう、まさに”植物”になることだったのだ。。

何を当たり前のことを言っているんだ感はあるが、まさに植物は異質だからこそその構造、性質が参考になる。たとえば植物は知性を持たないと思われているし、たしかに人間のような制御センターは持っていないかもしれないが、そのかわりに分散構造を持ち、環境の大変動に柔軟に適応することができる。そうしたシステムには学ぶべきところが多くあり、著者は幾つも実際に応用テクノロジーを作り上げている。

ざっと紹介する

というわけで軽く本書で解説されていく事例を紹介してみよう。

まずおもしろいのが植物にヒントを得たロボットだ。ロボットはその辺を動き回って目的を遂行するものだから、どうにも植物とは相性が悪いように思える。しかし、植物は最小限のエネルギィしか消費せず、受動的な運動を行って、モジュール形式で組み立てられ、丈夫で、勝手に環境に適応するしぶとさがある。人間が介入しない自立的な行動をとらせるには、たしかにちょうどいい特性がいくつかある。

たとえば植物の根はぐいぐい成長するが、盲目的に成長するのではなく、光、重力、接触、湿気、酸素、磁場などに反応しながら成長していく。さらには、あの細い根でありながらも岩をも砕くことができる(アスファルトを突き抜けてくる草をよくみるだろう)。そんな構想も構想だけだったら「ははーん、おもしろいね」で終わってしまうところだが著者の凄いところはちゃんとしたロボット研究者と組んで、助成金を獲得して実際に植物の根にヒントを得た土壌モニター用のロボットのプロトタイプをつくってしまったところにある。より作り込みが進んでいけば、最小限のエネルギィで安定的に調査を継続できる(火星などの惑星探査で有用になる)かもしれない。

テクノロジーの応用例ではないが、個人的に驚いたのは擬態力の章。色や見た目を似せるのは動物でもよくいるが、ボキラと名付けられた植物は自分の体の形と大きさと色と三つの要素をすべて変えられるのだという。それも一種類に似ているだけなら最初からそう進化したのねと思うところだが何種類もの葉をコピーできるのだという。そうすると気になるのは、「どうやって?」というところだが、これはまだ何らかの定説にはまとまっていないようだ。しかし著者の仮説によると、近年単細胞生物にも視覚があることが証明され、単細胞生物の多くに備わっているものが植物にもあることから、実は植物にも原始的な視覚を持っているのではないかとしている。

植物に視覚があるかもってのはロマンだねえ。他、運動能力の章では破裂して遠くまで飛び散り、土壌の裂け目に飛び込み、ぐりぐり穴を掘って根を張る種子を放つオランダフウロという植物が火星探査などと絡めて紹介される。惑星探査では1.どんな環境でも安定して。2.穴を掘って土壌サンプルを採集できることが重要だが、そこでオランダフウロの軽量でエネルギィ消費が少なく安定した拡散・掘削システムが目をつけられ、実際に調査していたのだ。オランダフウロは意志を持って穴を掘る訳じゃないので、純粋に形、機能として目的を遂行している点も参考にしやすいのだろう。

おわりに

アカシアの樹木は花の外の蜜に含まれる物質の生産を調整して、アリを依存症状態へと陥らせ蟻の行動をコントロールできるなど、本書を一冊読み、植物が持つ力の数々を知ることで、従来の「受動的な単純な存在」というイメージから『ほかの生物の行動を操作する能力をそなえた複雑な生物であるというイメージ』への逆転など、植物への印象は大きく変わることだろう。